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彼の解析学は極限を信じた日から始まり、存在が定義になって終わった

大学の数学は、
突然、人を信じなくなる。

高校までの数式には、
必ず答えがあった。
途中式が正しければ、
結果は約束されていた。

けれど解析学は、
約束をしない。

「近づくが、等しくはならない」

その言い方は、
どこか人間関係に似ていた。

ε(イプシロン)と
δ(デルタ)の定義を、
初めて聞いたとき、
私は混乱した。

どれだけ近づけば、
「十分」なのか。
誰がそれを決めるのか。

任意のεに対して、
あるδが存在する。

存在する。
値は示されなくてもいい。

「証明できればいいんです」

先生は言った。

私はその瞬間、
大学という場所の
本質を見た気がした。

具体性よりも、
存在。

触れられなくても、
示せなくても、
「あると言える」こと。

極限は、
到達を必要としない。

永遠に近づくだけで、
成立する。

それは、
完了しないことを
肯定する数学だった。

私は、
未完成のままでも
許される世界に
初めて立った気がした。

関数列の収束を、
夜遅くまで追いかけた。

一様収束。
各点収束。

どちらも正しい。
でも、
意味はまったく違う。

見る順番が違うだけで、
結論が変わる。

人生もきっと、
同じだ。

どの時点で
評価されるか。
誰に見られるか。

その順序だけで、
意味が変わってしまう。

ある日、
証明がどうしても
書けなくなった。

論理は合っている。
でも、
一行が埋まらない。

「自明です」

そう書けば、
先に進める。

大学は、
それを許す。

私は、
書かなかった。

自明という言葉で、
思考を終わらせることが、
怖かった。

存在定理を学んだ日、
私は少し泣いた。

解があることは示せる。
でも、
求めることはできない。

答えは、
世界のどこかにある。
けれど、
私の手には届かない。

それでも、
数学は前に進む。

人も、
そうやって生きている。

将来がある。
幸福がある。
意味がある。

でも、
具体的な形は、
誰にも示されない。

大学生になるとは、
極限の中に
放り込まれることだ。

完成しないまま、
近づき続けること。

私は今、
解析学のノートを閉じる。

証明は、
途中で終わっている。

でも私は知っている。
ここまで来たこと自体が、
すでに結果なのだと。

彼の解析学は、
極限を信じた日から始まり、
存在が定義になって終わった。

私は今日も、
到達しない明日を
前提にして生きている。

それでいいと、
初めて思えた。

作者メッセージ

あ、こんなシリーズやってたなぁ…と
今朝気づいたkanonloveです…

なんだか話すような内容減ってきたんで、
別シリーズの広告として
「物語に出てくる人と会話してみた!」
というのをやろうと思います!

皆さんは誰と会話してほしいですか?
会話内容の希望はありますか?
あったら活動報告の方へ!
本日投稿予定の活動報告に載せてもらいます!
では!

2026/01/13 08:02

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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教科×感情大学生

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