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彼の物理は観測した瞬間から始まり、確率が現実になって終わった

物理の授業は、
いつも「前提」から始まる。

摩擦は無視する。
空気抵抗は考えない。
点として扱う。

先生は言う。
「現実は複雑すぎるから、
 まずは単純な世界で考えよう」

私はその言葉を、
どこかで信じきれなかった。

単純にした瞬間、
消えてしまうものがある気がしたから。

高校三年の物理室。
カーテンを閉めた暗い教室で、
レーザー光が白いスクリーンに当たる。

干渉縞。
明るい線と、暗い線。

「光は波です」
先生はそう言って、
式を書いた。

でも別の日には、
光電効果を説明しながら、
こうも言った。

「光は粒子でもあります」

私はノートを見下ろした。
同じものが、
状況によって別の顔を持つ。

それは、
嘘なのか。
それとも、
人間の側の限界なのか。

物理は、
世界を説明する学問だと思っていた。
でも実際は、
「どう見えたか」を整理しているだけなのかもしれない。

量子の話になったとき、
私は決定的に混乱した。

電子は、
位置を持たない。
正確な速度も持たない。

あるのは、
確率だけ。

「観測した瞬間に、
 状態は決まります」

その言葉は、
あまりにも静かで、
あまりにも暴力的だった。

見るまで、
存在しない。
見た瞬間に、
一つに決まる。

それは、
世界の話なのか、
人間の話なのか。

私は思った。
理解しようとする行為そのものが、
世界を壊しているのではないかと。

測定とは、
優しい言葉をしている。
でも本当は、
触れて、
縛って、
逃げ道をなくすことだ。

物体は、
観測される前には、
いくつもの可能性を持っている。

右にある。
左にある。
存在する。
存在しない。

その全部を許されている状態。

けれど人間は、
耐えられない。
曖昧なままでは、
安心できない。

だから、
測る。
決める。
確定させる。

「こうだった」と言うために。

相対性理論を習ったとき、
私は少し救われた。

同時は、
絶対じゃない。
時間も、
観測者によって変わる。

正しさが、
一つじゃない世界。

それは倫理よりも、
国語よりも、
ずっと誠実に思えた。

物理は、
正解を与えない。
条件付きの説明しかくれない。

ここから見れば、こう。
この速度なら、そう。
この前提に立つなら、正しい。

世界は、
常に仮定の上に立っている。

大学で、
実験をするようになった。

データは、
きれいには揃わない。
ノイズが混じる。
誤差が出る。

「誤差を考慮しなさい」
そう言われるたび、
私は少し笑ってしまう。

誤差は、
失敗じゃない。
世界が、
人間の言う通りに動かない証拠だ。

ある夜、
一人で実験室に残り、
測定結果を眺めていた。

確率分布。
滑らかな山。

一つ一つの点は、
意味を持たない。
でも集まると、
確かに形になる。

人生も、
きっと同じだ。

一瞬一瞬は、
説明できない。
選択は、
正しかったか分からない。

それでも、
積み重なると、
「そういう軌跡だった」と言えてしまう。

それが、
怖くて、
少しだけ安心だった。

物理は、
未来を断言しない。

ただ、
「こうなる可能性が高い」と言うだけだ。

私はその態度が、
好きだった。

断定しないこと。
決めつけないこと。
観測できないものを、
無理に消さないこと。

彼の物理は、
観測した瞬間から始まった。

そして、
確率が現実になったところで、
終わった。

でも私は知っている。
観測されなかった可能性は、
どこにも行っていない。

ただ、
記録されなかっただけだ。

世界は今日も、
測られないままの状態を、
無数に抱えて回り続けている。

私はそれを、
正しいとも、
間違っているとも言わない。

物理は、
信じるための学問じゃない。

疑いながら、
それでも手を伸ばすための学問だ。

確定しないまま、
生きるために。

作者メッセージ

今度は物理!
特に変わっていない説あるけど、読んでね!

描いてほしい教科等々募集しています!
コメントに描いてね!

2025/12/18 06:32

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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教科×感情物理×〇〇

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