扉は静かに閉まっていた。
店内には誰もいない。
椅子もテーブルも、
いつものように整っている。
だが、
紅茶の香りは漂わず、
鈴の音も聞こえなかった。
マスターはカウンターに立ち、
壁の星図を見上げる。
光の点と線は淡く揺れていたが、
今夜は少し違った。
線の一部がかすかに震え、
まだ結ばれない点が残っているように見える。
「…久しぶりですね、マスター」
声に反応して、マスターはわずかに肩をすくめた。
「安珠さん…来るとは思わなかった」
空気が震え、
淡い光の粒が一箇所から集まり、
人の形を作る。
魔法使い、星結 安珠―
―古くからの知り合いで、星の結び方を司る存在だった。
人に近い姿をしているが、
輪郭は星の粒でできており、
年齢も性別も判然としない。
「十二の星は、それぞれ自分の物語を置いていきました」
安珠は星図の点に触れる。
「線は、ほとんど結ばれています。
けれど、まだ結ばれない点も残っている…」
マスターは静かに答える。
「…まだ、点が残っています」
安珠は微かに微笑み、ゆっくりと点と線をなぞる。
「少し、星たちの灯を語りましょう―
彼らは、ただの図形ではなく、ひとつひとつが意思を持っています」
牡羊座の灯が、
赤く強く揺れた。
勇気と直感の象徴である牡羊は、
真っ直ぐすぎて時に他の声を聞けなかった。
それでも進むことを恐れず、
周囲を導く力を持っている。
牡牛座は、
温かい黄金色の光を放った。
忍耐と安定の象徴―
―自分を守るために時に他を押しやったとしても、
愛は深く、
優しさで周囲を包む。
双子座は、
青白く柔らかい灯を揺らす。
知識と好奇心を象徴し、
二つの面を持つその星は、
選ぶことの難しさを誰よりも知っている。
蟹座の灯は、
淡い銀色でそっと揺れた。
守る力の象徴―
―誰かを抱きしめすぎるあまり、
自分が傷つくこともある。
それでも、
安心できる場所を作ることをやめない。
獅子座は、
金色の強い光を放った。
誇りと情熱の象徴―
―輝くことを恐れず、
孤独も背負うが、
その輝きで皆を照らす。
乙女座の灯は、
緑がかった光で静かに揺れた。
分析と献身の象徴―
―完璧を求めるあまり自分を責めることもあるが、
他者への思いやりは欠かさない。
天秤座は、
柔らかな青色に光った。
調和と正義の象徴―
―決断をためらうこともあるが、
人々の間を結ぶ力を持つ。
蠍座は、
深紅の灯を静かに揺らす。
深い感情と執着の象徴―
―触れる者すべてに、全てを差し出す覚悟を持つ。
射手座は、
蒼白く伸びる光で自由に瞬いた。
自由と探求の象徴―
―遠くを目指し、
冒険を恐れず、
帰る場所を忘れない。
山羊座は、
落ち着いた茶色の光を垂らすように揺れた。
努力と責任の象徴―
―重荷を背負いすぎることもあるが、
信頼を裏切らない。
水瓶座は、
淡い水色の光を放つ。
革新と友情の象徴―
―常識を超え、
人を導く力を持つが、
孤独も知る。
魚座は、
柔らかな紫の灯でゆらめいた。
共感と夢の象徴―
―流されやすくも、
他者の感情を深く理解できる力を持つ。
安珠は指を動かすたび、
光の点が一瞬だけ震え、
揺れる。
マスターはその動きを静かに見守った。
「…この星たちの線は、誰が結ぶのですか
あなたが結ぶこともできるでしょう。けれど――」
安珠は息を整え、
静かに告げる。
「次に扉を開ける者で、この喫茶店の役目は終わりです」
マスターは言葉を返さず、
手元のカップに触れた。
光の点が揺れ、
ランプが微かに反応する。
「選ばれなかった星も、闇に消えたわけではありません。
結ばれなかった線も、無意味ではない」
安珠の声は柔らかく、
でも確かに響いた。
「ですが―
すべてを結ばずにいられる存在は、ひとつしかありません」
マスターはわずかに笑みを浮かべ、
ただ頷いた。
星図の光は落ち着きを取り戻す。
店内のランプは、
微かに揺れながらも、
決して消えなかった。
安珠はゆっくりと姿を消した。
空気に残ったのは、
静かで温かい余韻のみだった。
店内には誰もいない。
椅子もテーブルも、
いつものように整っている。
だが、
紅茶の香りは漂わず、
鈴の音も聞こえなかった。
マスターはカウンターに立ち、
壁の星図を見上げる。
光の点と線は淡く揺れていたが、
今夜は少し違った。
線の一部がかすかに震え、
まだ結ばれない点が残っているように見える。
「…久しぶりですね、マスター」
声に反応して、マスターはわずかに肩をすくめた。
「安珠さん…来るとは思わなかった」
空気が震え、
淡い光の粒が一箇所から集まり、
人の形を作る。
魔法使い、星結 安珠―
―古くからの知り合いで、星の結び方を司る存在だった。
人に近い姿をしているが、
輪郭は星の粒でできており、
年齢も性別も判然としない。
「十二の星は、それぞれ自分の物語を置いていきました」
安珠は星図の点に触れる。
「線は、ほとんど結ばれています。
けれど、まだ結ばれない点も残っている…」
マスターは静かに答える。
「…まだ、点が残っています」
安珠は微かに微笑み、ゆっくりと点と線をなぞる。
「少し、星たちの灯を語りましょう―
彼らは、ただの図形ではなく、ひとつひとつが意思を持っています」
牡羊座の灯が、
赤く強く揺れた。
勇気と直感の象徴である牡羊は、
真っ直ぐすぎて時に他の声を聞けなかった。
それでも進むことを恐れず、
周囲を導く力を持っている。
牡牛座は、
温かい黄金色の光を放った。
忍耐と安定の象徴―
―自分を守るために時に他を押しやったとしても、
愛は深く、
優しさで周囲を包む。
双子座は、
青白く柔らかい灯を揺らす。
知識と好奇心を象徴し、
二つの面を持つその星は、
選ぶことの難しさを誰よりも知っている。
蟹座の灯は、
淡い銀色でそっと揺れた。
守る力の象徴―
―誰かを抱きしめすぎるあまり、
自分が傷つくこともある。
それでも、
安心できる場所を作ることをやめない。
獅子座は、
金色の強い光を放った。
誇りと情熱の象徴―
―輝くことを恐れず、
孤独も背負うが、
その輝きで皆を照らす。
乙女座の灯は、
緑がかった光で静かに揺れた。
分析と献身の象徴―
―完璧を求めるあまり自分を責めることもあるが、
他者への思いやりは欠かさない。
天秤座は、
柔らかな青色に光った。
調和と正義の象徴―
―決断をためらうこともあるが、
人々の間を結ぶ力を持つ。
蠍座は、
深紅の灯を静かに揺らす。
深い感情と執着の象徴―
―触れる者すべてに、全てを差し出す覚悟を持つ。
射手座は、
蒼白く伸びる光で自由に瞬いた。
自由と探求の象徴―
―遠くを目指し、
冒険を恐れず、
帰る場所を忘れない。
山羊座は、
落ち着いた茶色の光を垂らすように揺れた。
努力と責任の象徴―
―重荷を背負いすぎることもあるが、
信頼を裏切らない。
水瓶座は、
淡い水色の光を放つ。
革新と友情の象徴―
―常識を超え、
人を導く力を持つが、
孤独も知る。
魚座は、
柔らかな紫の灯でゆらめいた。
共感と夢の象徴―
―流されやすくも、
他者の感情を深く理解できる力を持つ。
安珠は指を動かすたび、
光の点が一瞬だけ震え、
揺れる。
マスターはその動きを静かに見守った。
「…この星たちの線は、誰が結ぶのですか
あなたが結ぶこともできるでしょう。けれど――」
安珠は息を整え、
静かに告げる。
「次に扉を開ける者で、この喫茶店の役目は終わりです」
マスターは言葉を返さず、
手元のカップに触れた。
光の点が揺れ、
ランプが微かに反応する。
「選ばれなかった星も、闇に消えたわけではありません。
結ばれなかった線も、無意味ではない」
安珠の声は柔らかく、
でも確かに響いた。
「ですが―
すべてを結ばずにいられる存在は、ひとつしかありません」
マスターはわずかに笑みを浮かべ、
ただ頷いた。
星図の光は落ち着きを取り戻す。
店内のランプは、
微かに揺れながらも、
決して消えなかった。
安珠はゆっくりと姿を消した。
空気に残ったのは、
静かで温かい余韻のみだった。
- 1.ティータイムの始まり。
- 2.乙女座 やさしく、つよくなれなくて。
- 3.蟹座 甘さの奥で、息を止めてきた
- 4.牡牛座 余裕の仮面と、足りない甘さ
- 5.山羊座 ゆっくりでいいと、知らなかった
- 6.双子座 言葉が二つに割れたまま
- 7.天秤座 言葉を量る、沈黙の重さは。
- 8.獅子座 微笑みの奥で、拳を握るひと
- 9.射手座 遠くを願い、声を置いてきた
- 10.水瓶座 笑っているあいだは、自由でいられた
- 11.牡羊座 引き受ける勇気と、静かな覚悟
- 12.魚座 仮の笑顔と振り返ってしまったこと
- 13.蟹座 信じられなかった手の、ぬくもりを思い出すまで
- 14.宇宙という名の空を結びに。
- 15.蛇遣い座 13番目になれなくて。
- 16.第二期 惑星たちの夜
- 17.金星 一行の本音は、金星に預けて
- 18.土星 抱え込めてしまった者は、零れ方を知らない
- 19.天王星 光を残す星