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【リクエストOK】流行(もちろん曲とかも)知らない人の曲パロ

#7

【ノンブレス・オブリージュ】白い喉の国(前編)

この国では、十五歳になると喉に番号を刻まれる。
それは名前より大切なものだった。

番号は、その人間が一年間にどれだけ「善行」を行ったかを記録する。

落とし物を届けた。
困っている老人を助けた。
誰かの悪口を言わなかった。
笑顔で挨拶した。
怒らなかった。
泣かなかった。
誰かのために、自分の時間を譲った。

そういう小さな善意が、喉の奥にある黒い結晶へ蓄積される。

国民はそれを《聖痕》と呼んでいた。

聖痕が白く輝いている人間は、立派な市民。

灰色なら、要注意。

黒く濁れば――

《矯正対象》。

十五歳になった子供たちは皆、《慈愛学園》へ送られる。

そこでは、勉強より先に「正しい人間になる方法」を教えられる。

だから。

朝倉レイは、笑うのが嫌いだった。

「おはようございます」

鏡の前で口角を上げる。

頬が痛い。

それでも笑う。

「今日も素敵な一日になりそうですね」

鏡の中の自分は、ひどく気味が悪かった。

首筋には白い制服。

胸元には銀色の校章。

そして喉には、黒い数字が浮かんでいる。

0427。

昨夜、レイの聖痕が一段階濁った。

理由は簡単だった。

母親が転んだとき、手を差し伸べるのが遅れた。

たった三秒。

それだけで、彼の評価は下がった。

「レイ」

背後から声がした。

妹だった。

「笑って」

「……笑ってるよ」

「もっと」

妹は怯えた顔をしていた。

レイは笑った。

今度は完璧に。

妹も笑った。

それを確認してから、二人は家を出た。

学校へ向かう途中、街の巨大スクリーンが今日の標語を映していた。

――他人を愛せない者に、生きる資格はない。

その下を、何千人もの学生が歩いている。

全員が笑っていた。

誰一人として楽しそうではなかった。

 ◆

慈愛学園の一時間目は《共感倫理》だった。

「人間は、本来、他者を思いやる生き物です」

教壇に立つ教師の目は、青白く光っていた。

教師ではない。

正確には、人間の形をした、管理機械――《聖職者》だ。

「では、……朝倉君」

「はい」

「あなたの隣にいる人が、今、悲しんでいるとします。どうしますか?」

「声をかけます」

「なぜ?」

「その人を安心させるためです」

「不正解」

教室が静かになった。

「なぜ助けるのですか?」

「……相手が苦しんでいるから」

「不正解」

教師の瞳が赤くなる。

「正しい答えは――善行だから、です」

黒板に文字が浮かんだ。

善意に理由を求めてはいけない。

「人を助けることに疑問を持つ者は、自分自身の欲望を優先しています」

クラスメイトたちは一斉に頷いた。

レイも頷いた。

喉の奥が、少しだけ熱くなった。

授業の最後。

教師は一人の生徒を指差した。

「東雲ミナ」

「はい」

「あなたは昨日、同級生の相談を無視しましたね?」

少女が立ち上がる。

銀色の髪。

眠そうな目。

制服の袖から、細い黒い線が伸びている。

彼女の聖痕は、ほとんど黒だった。

「……はい」

「理由は?」

「面倒だったから」

教室の空気が凍った。

誰かが小さく息を呑む。

教師は笑った。

「素晴らしい」

「え?」

「あなたは初めて、本当のことを言いました」

レイは目を見開いた。

教師は続けた。

「しかし、本音は罪です」

ミナの喉の聖痕が、音を立てて黒く染まった。

「放課後、矯正室へ来なさい」

ミナは何も言わなかった。

ただ、レイの方を見た。

そして。

ほんの少しだけ笑った。

それは学園で初めて見た、本物の笑顔だった。

 ◆

放課後。

レイは屋上へ向かった。

理由はなかった。

ただ、ミナがそこへ向かったのを見たからだ。

扉を開ける。

夕焼けが広がっていた。

空は赤い。

地面も赤い。

まるで世界そのものが血を流しているようだった。

「来たんだ」

フェンスの向こうにミナがいた。

「矯正室は?」

「逃げてきた」

「……逃げたら、殺されるよ」

「知ってる」

ミナは空を見上げた。

「でも、死ぬ前に一つくらい、自分の好きなことをしたかった」

「何?」

「嫌われること」

「……は?」

「誰かに嫌われてみたい」

ミナは笑った。

「嫌われるって、たぶん自由だから」

レイは答えられなかった。

そのときだった。

校舎の時計が十三回鳴った。

本来、鳴るはずのない時間だった。

空が割れた。

赤い雲の向こうから、巨大な黒い手が伸びてくる。

街中の聖痕が一斉に明滅した。

白。

白。

白。

そして――

黒。

「なに、あれ……」

レイの喉が焼けるように熱くなった。

聖痕の奥から、声が聞こえた。

――ようやく、見つけた。

ミナも同時に喉を押さえる。

「レイ」

「何?」

「これ、知ってる」

「何を?」

彼女は震えていた。

「この国の神様」

黒い手が、空から地上へ降りてくる。

その指先には、無数の人間の顔が埋め込まれていた。

笑顔。

泣き顔。

怒った顔。

死んだ顔。

そのすべてが、同じ言葉を繰り返している。

――善い子になれ。

――善い子になれ。

――善い子になれ。

ミナが呟いた。

「神様は、人間を救ったんじゃない」

「……」

「人間の“悪いところ”を全部食べたんだよ」

彼女は喉の黒い聖痕を指でなぞった。

「怒りも、嫉妬も、憎しみも、欲望も」

そして笑った。

「だから、この国にはもう、悪い人がいない」

レイは気づいた。

それが何を意味するのか。

「……じゃあ」

「うん」

ミナが言う。

「この国で唯一、悪いことをするのは――」

空の怪物が、ゆっくりと目を開いた。

「――神様だよ」

その瞬間。

街中の人間が一斉に笑い始めた。

誰も楽しそうではない。

誰も笑いたくない。

それでも笑っている。

喉に刻まれた聖痕が、命令している。

笑え。

愛せ。

許せ。

誰かのために死ね。

自分を捨てろ。

そうすれば、善い人間になれる。

レイは初めて、笑わなかった。

喉の奥で何かが砕けた。

黒い結晶が崩れ落ちる。

そして、その奥から。

真っ赤な光が漏れた。

「……ミナ」

「なに?」

「僕、今から悪いことをする」

「うん」

ミナは嬉しそうに笑った。

「私も」

二人はフェンスを越えた。

眼下には、笑顔で埋め尽くされた街。

頭上には、人間の悪意を喰らって膨れ上がった神。

そしてその間に、二人だけが立っている。

レイは思った。

――誰かを救わなくてもいい。

――誰かに愛されなくてもいい。

――正しい人間にならなくてもいい。

ただ、自分が何をしたいのか。

それだけは、自分で決めたい。

だから。

二人は笑った。

今度こそ。

本当に。

誰かを救うためではなく。

自分たちが生きるために。

そして神様は、初めて、怯えた。

作者メッセージ

後編付きでーす(今回だけ読んで次回は見なくても大丈夫ダヨ✩)

では!

2026/08/14 21:23

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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