模範回答を、私にください
「テスト、返ってきた?」
お母さんの声に、
私はランドセル……じゃない、
まだ新しい中学校のリュックを抱きしめた。
返ってきた。
返ってきてしまった。
数学、
八十八点。
学年順位は高い方。
でも、
もっと取れるはずだった。
中学校で初めての定期テスト。
小学校とは違うとは聞いていたけれど、
こんな点数になるとは思わなかった。
私は黙ってテスト個票を差し出した。
お母さんは数字を見て、
小さく息をついた。
「……どうしたの?」
その一言で、
頭の中が真っ白になる。
返事。
返事をしなきゃ。
何て言えばいい。
ごめんなさい?
いや、
違う。
謝るだけじゃ、「何が悪かったと思ってるの?」って聞かれる。
難しかった。
でも、
私は数学が得意なはずだった。
昔勉強していたところだった。
通じない。
勉強したんだけど。
言い訳だ。
ケアレスミスが多くて。
じゃあ、
どうして見直さなかったの。
次は頑張る。
じゃあ今回は頑張らなかったの?
……違う。
違う。
違う。
頭の中で返事を書いては、
大きな赤いバツが付く。
先生なら、
解答冊子を配ってくれる。
数学には模範解答がある。
国語にも「こう書けばよい」がある。
なのに。
どうして親との会話には、
模範解答がないの。
お願いだから、誰か見せて。
この場を乗り切れる答えを。
「何か理由があった?」
また問題が出る。
しかも自由記述。
私はまた考える。
寝不足だった?
違う。
緊張した?
少しは。
勉強不足?
そうかもしれない。
でも、
それだけじゃない。
何を書いても、
本当の気がしない。
いや、
本当なのに、
不正解な気がする。
言葉を選んでは捨てる。
選んでは捨てる。
頭の中だけで、
何十枚も答案用紙がぐしゃぐしゃになっていく。
「……。」
何も出てこない。
沈黙だけが長くなる。
お母さんは少し困ったように言った。
「怒りたいんじゃないの。」
私は顔を上げられなかった。
「何があったのか知りたいだけ。」
その言葉を聞いても、
答えは見つからない。
知っている。
お母さんはきっと、
本当のことを聞きたいだけなんだ。
でも、
本当のことって何だろう。
勉強しなかったから?
難しかったから?
私がダメだから?
どれも少しずつ当たっていて、
どれも全部ではない。
私はずっと探している。
親を安心させる答え。
怒られない答え。
正しい答え。
でも、
どれだけ探しても見つからない。
だから私は、
ようやく一つだけ、
本当に思ったことを口にした。
「……分からない。」
自分でも驚くほど、
小さな声だった。
「何でこんな点になったのかも、何て言えばいいのかも……分からない。」
お母さんはしばらく黙っていた。
それから、
私の答案を閉じた。
「そっか。」
その一言だけだった。
呆れているはずなのに、
納得している感じのする、
不気味さ。
私はその日、
初めて知った。
私が探していた模範解答は、
最初から存在しなかった。
だから、
どれだけ探しても見つからなかったのだ。
ねえ。
模範解答。
それだけでいい。
模範解答を、
私にください。
お母さんの声に、
私はランドセル……じゃない、
まだ新しい中学校のリュックを抱きしめた。
返ってきた。
返ってきてしまった。
数学、
八十八点。
学年順位は高い方。
でも、
もっと取れるはずだった。
中学校で初めての定期テスト。
小学校とは違うとは聞いていたけれど、
こんな点数になるとは思わなかった。
私は黙ってテスト個票を差し出した。
お母さんは数字を見て、
小さく息をついた。
「……どうしたの?」
その一言で、
頭の中が真っ白になる。
返事。
返事をしなきゃ。
何て言えばいい。
ごめんなさい?
いや、
違う。
謝るだけじゃ、「何が悪かったと思ってるの?」って聞かれる。
難しかった。
でも、
私は数学が得意なはずだった。
昔勉強していたところだった。
通じない。
勉強したんだけど。
言い訳だ。
ケアレスミスが多くて。
じゃあ、
どうして見直さなかったの。
次は頑張る。
じゃあ今回は頑張らなかったの?
……違う。
違う。
違う。
頭の中で返事を書いては、
大きな赤いバツが付く。
先生なら、
解答冊子を配ってくれる。
数学には模範解答がある。
国語にも「こう書けばよい」がある。
なのに。
どうして親との会話には、
模範解答がないの。
お願いだから、誰か見せて。
この場を乗り切れる答えを。
「何か理由があった?」
また問題が出る。
しかも自由記述。
私はまた考える。
寝不足だった?
違う。
緊張した?
少しは。
勉強不足?
そうかもしれない。
でも、
それだけじゃない。
何を書いても、
本当の気がしない。
いや、
本当なのに、
不正解な気がする。
言葉を選んでは捨てる。
選んでは捨てる。
頭の中だけで、
何十枚も答案用紙がぐしゃぐしゃになっていく。
「……。」
何も出てこない。
沈黙だけが長くなる。
お母さんは少し困ったように言った。
「怒りたいんじゃないの。」
私は顔を上げられなかった。
「何があったのか知りたいだけ。」
その言葉を聞いても、
答えは見つからない。
知っている。
お母さんはきっと、
本当のことを聞きたいだけなんだ。
でも、
本当のことって何だろう。
勉強しなかったから?
難しかったから?
私がダメだから?
どれも少しずつ当たっていて、
どれも全部ではない。
私はずっと探している。
親を安心させる答え。
怒られない答え。
正しい答え。
でも、
どれだけ探しても見つからない。
だから私は、
ようやく一つだけ、
本当に思ったことを口にした。
「……分からない。」
自分でも驚くほど、
小さな声だった。
「何でこんな点になったのかも、何て言えばいいのかも……分からない。」
お母さんはしばらく黙っていた。
それから、
私の答案を閉じた。
「そっか。」
その一言だけだった。
呆れているはずなのに、
納得している感じのする、
不気味さ。
私はその日、
初めて知った。
私が探していた模範解答は、
最初から存在しなかった。
だから、
どれだけ探しても見つからなかったのだ。
ねえ。
模範解答。
それだけでいい。
模範解答を、
私にください。
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