夜の街は、静かだった。
静かすぎて、
頭の中の声が、
やけに大きく聞こえる。
「…まいったなぁ」
私は空を見上げて、
ひとりごちる。
星はあんまり見えない。
ビルの光に負けて、
輪郭がぼやけてる。
気分屋で、自由人。
それが私、水野 藍。
「気が向いたらね〜」
「大丈夫だよ〜」
「問題なーし!」
そう言ってれば、
だいたいのことは流れていく。
…はずだった。
手首の銀色のブレスレットを、
親指でなぞる。
冷たい。
でも、離せない。
「…君がいたらさ」
言葉にして、
すぐやめる。
考えると、
息が詰まるから。
だから私は歩く。
意味もなく、気分のままに。
裏道だって、気にしない。
そのとき。
淡い光が、
視界の端に引っかかった。
「…ん?」
星みたいなランプ。
こんな場所に、こんな光。
「なにここ。にゃっはは〜ん、怪しすぎでしょ」
笑ってみせる。
笑うのは、得意だ。
―取り繕うのだけは、ね。
カラン。
鈴の音が鳴った瞬間、
胸の奥で、
何かがふっと緩んだ。
「あ」
声が漏れる。
店の中は、
外の夜より、
ずっと静かで、
ずっとやさしい。
壁には星の絵。
時間を忘れた時計。
カウンターの向こうの人が、
こちらを見る。
「こんにちは。いらっしゃいませ」
穏やかな声。
押しつけがましくない。
私は、肩をすくめる。
「私の名前は、水野 藍!よろしくね!」
元気よく。
いつもの調子。
「水瓶座だよ〜」
マスターは、ただ頷く。
差し出された紅茶は、
少し変わった色をしていた。
透明と、深い青のあいだ。
香りは、
涼しくて。
でも、どこか痛い。
一口、飲む。
「…あ」
思わず、目を細める。
「冷たいと思ったら、
あったかい」
不思議。
喉を通るとき、
胸の奥に、じん、と残る。
「変なの〜」
笑う。
猫みたいに口角を上げて。
「私さ、気分屋なんだよね」
軽く、軽く。
「自由人って言われるし、
一人でも平気そうって」
カップを持つ指に、
少し力が入る。
「…実際、平気だし?」
マスターは、何も言わない。
急かさない。
だから、
言葉が続いてしまう。
「大丈夫って言うの、クセなんだ」
にゃっはは〜ん、と
笑い声を足す。
「全然大丈夫じゃなくてもさ」
ブレスレットが、
かすかに鳴る。
「昔ね」
声が、少しだけ低くなる。
[太字][大文字][明朝体]「唯一、友達って呼べる子がいたの」
[/明朝体][/大文字][/太字]
楽しかった。
ちゃんと笑ってた。
気分屋でも、受け止めてくれた。
「…事故でさ」
それ以上は、
言わなくていい気がした。
「今も、生きてるんだ」
植物状態で。
眠ったままで。
カップの中の紅茶が、
小さく揺れる。
「だからさ」
私は笑う。
「悲しむの、やめたの」
自由でいなきゃ。
縛られたら、
壊れちゃうから。
「大丈夫って言ってれば、
皆、安心するでしょ?」
マスターは、
静かに言った。
[太字][大文字][斜体][明朝体]「水瓶座は、
感情を切り離すことで、
自由を保つ星です」[/明朝体][/斜体][/大文字][/太字]
「…それ、褒めてる?」
「事実です」
一拍。
「でも」
続けて。
[太字][明朝体][大文字][斜体]「切り離した感情は、
消えたわけではありません」[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字]
胸の奥が、
きゅっと縮む。
「手首のそれは」
マスターの視線が、
ブレスレットに向く。
「あなたを、
過去につなぎとめるものですね」
私は、
反射的に笑った。
「気にしないで〜!
大切なものなだけだし!」
取り繕う。
いつものやつ。
でも、
次の言葉は、
思ってもみなかった。
「…忘れたらさ」
ぽつり。
「裏切りみたいじゃん」
声が、
震えた。
しまった。
私は慌てて、
笑顔を作る。
「にゃっはは〜ん!重い話しちゃった!」
マスターは、
それでも否定しなかった。
[明朝体][斜体][太字][大文字]「忘れないことと、
縛られることは、
同じではありません」[/大文字][/太字][/斜体][/明朝体]
紅茶の湯気が、
ゆっくり立ちのぼる。
「あなたは、
自由でいようとしているのではなく」
一拍。
「自由でいなければ、
立っていられなかっただけです」
その言葉は、
責めるでも、
慰めるでもなかった。
ただ、
見抜いただけ。
私は、
カップを両手で包む。
「あー…」
小さく笑う。
「バレたか」
しばらく、沈黙。
それから私は、
紅茶を飲み干した。
「…また来ていい?」
少しだけ、
素直な声。
「ええ」
マスターは頷く。
「扉は、
あなたを覚えています」
カラン。
扉が閉まる。
星図の壁に、
少し離れた場所で、
鋭く、自由な線が一本、引かれた。
他の線と、
まだ完全には結ばれない。
けれど、
確かに、そこにある軌道。
マスターは、それを見つめる。
「自由とは、
[明朝体][太字][大文字][斜体]孤独の言い換えではありません」
[/斜体][/大文字][/太字][/明朝体]
ランプの光が、
やさしく揺れた。
夜は、まだ深い。
次の星は、
感情を切り離したまま、
それでも、
誰かの名を手放せずにいる。
静かすぎて、
頭の中の声が、
やけに大きく聞こえる。
「…まいったなぁ」
私は空を見上げて、
ひとりごちる。
星はあんまり見えない。
ビルの光に負けて、
輪郭がぼやけてる。
気分屋で、自由人。
それが私、水野 藍。
「気が向いたらね〜」
「大丈夫だよ〜」
「問題なーし!」
そう言ってれば、
だいたいのことは流れていく。
…はずだった。
手首の銀色のブレスレットを、
親指でなぞる。
冷たい。
でも、離せない。
「…君がいたらさ」
言葉にして、
すぐやめる。
考えると、
息が詰まるから。
だから私は歩く。
意味もなく、気分のままに。
裏道だって、気にしない。
そのとき。
淡い光が、
視界の端に引っかかった。
「…ん?」
星みたいなランプ。
こんな場所に、こんな光。
「なにここ。にゃっはは〜ん、怪しすぎでしょ」
笑ってみせる。
笑うのは、得意だ。
―取り繕うのだけは、ね。
カラン。
鈴の音が鳴った瞬間、
胸の奥で、
何かがふっと緩んだ。
「あ」
声が漏れる。
店の中は、
外の夜より、
ずっと静かで、
ずっとやさしい。
壁には星の絵。
時間を忘れた時計。
カウンターの向こうの人が、
こちらを見る。
「こんにちは。いらっしゃいませ」
穏やかな声。
押しつけがましくない。
私は、肩をすくめる。
「私の名前は、水野 藍!よろしくね!」
元気よく。
いつもの調子。
「水瓶座だよ〜」
マスターは、ただ頷く。
差し出された紅茶は、
少し変わった色をしていた。
透明と、深い青のあいだ。
香りは、
涼しくて。
でも、どこか痛い。
一口、飲む。
「…あ」
思わず、目を細める。
「冷たいと思ったら、
あったかい」
不思議。
喉を通るとき、
胸の奥に、じん、と残る。
「変なの〜」
笑う。
猫みたいに口角を上げて。
「私さ、気分屋なんだよね」
軽く、軽く。
「自由人って言われるし、
一人でも平気そうって」
カップを持つ指に、
少し力が入る。
「…実際、平気だし?」
マスターは、何も言わない。
急かさない。
だから、
言葉が続いてしまう。
「大丈夫って言うの、クセなんだ」
にゃっはは〜ん、と
笑い声を足す。
「全然大丈夫じゃなくてもさ」
ブレスレットが、
かすかに鳴る。
「昔ね」
声が、少しだけ低くなる。
[太字][大文字][明朝体]「唯一、友達って呼べる子がいたの」
[/明朝体][/大文字][/太字]
楽しかった。
ちゃんと笑ってた。
気分屋でも、受け止めてくれた。
「…事故でさ」
それ以上は、
言わなくていい気がした。
「今も、生きてるんだ」
植物状態で。
眠ったままで。
カップの中の紅茶が、
小さく揺れる。
「だからさ」
私は笑う。
「悲しむの、やめたの」
自由でいなきゃ。
縛られたら、
壊れちゃうから。
「大丈夫って言ってれば、
皆、安心するでしょ?」
マスターは、
静かに言った。
[太字][大文字][斜体][明朝体]「水瓶座は、
感情を切り離すことで、
自由を保つ星です」[/明朝体][/斜体][/大文字][/太字]
「…それ、褒めてる?」
「事実です」
一拍。
「でも」
続けて。
[太字][明朝体][大文字][斜体]「切り離した感情は、
消えたわけではありません」[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字]
胸の奥が、
きゅっと縮む。
「手首のそれは」
マスターの視線が、
ブレスレットに向く。
「あなたを、
過去につなぎとめるものですね」
私は、
反射的に笑った。
「気にしないで〜!
大切なものなだけだし!」
取り繕う。
いつものやつ。
でも、
次の言葉は、
思ってもみなかった。
「…忘れたらさ」
ぽつり。
「裏切りみたいじゃん」
声が、
震えた。
しまった。
私は慌てて、
笑顔を作る。
「にゃっはは〜ん!重い話しちゃった!」
マスターは、
それでも否定しなかった。
[明朝体][斜体][太字][大文字]「忘れないことと、
縛られることは、
同じではありません」[/大文字][/太字][/斜体][/明朝体]
紅茶の湯気が、
ゆっくり立ちのぼる。
「あなたは、
自由でいようとしているのではなく」
一拍。
「自由でいなければ、
立っていられなかっただけです」
その言葉は、
責めるでも、
慰めるでもなかった。
ただ、
見抜いただけ。
私は、
カップを両手で包む。
「あー…」
小さく笑う。
「バレたか」
しばらく、沈黙。
それから私は、
紅茶を飲み干した。
「…また来ていい?」
少しだけ、
素直な声。
「ええ」
マスターは頷く。
「扉は、
あなたを覚えています」
カラン。
扉が閉まる。
星図の壁に、
少し離れた場所で、
鋭く、自由な線が一本、引かれた。
他の線と、
まだ完全には結ばれない。
けれど、
確かに、そこにある軌道。
マスターは、それを見つめる。
「自由とは、
[明朝体][太字][大文字][斜体]孤独の言い換えではありません」
[/斜体][/大文字][/太字][/明朝体]
ランプの光が、
やさしく揺れた。
夜は、まだ深い。
次の星は、
感情を切り離したまま、
それでも、
誰かの名を手放せずにいる。
- 1.ティータイムの始まり。
- 2.乙女座 やさしく、つよくなれなくて。
- 3.蟹座 甘さの奥で、息を止めてきた
- 4.牡牛座 余裕の仮面と、足りない甘さ
- 5.山羊座 ゆっくりでいいと、知らなかった
- 6.双子座 言葉が二つに割れたまま
- 7.天秤座 言葉を量る、沈黙の重さは。
- 8.獅子座 微笑みの奥で、拳を握るひと
- 9.射手座 遠くを願い、声を置いてきた
- 10.水瓶座 笑っているあいだは、自由でいられた
- 11.牡羊座 引き受ける勇気と、静かな覚悟
- 12.魚座 仮の笑顔と振り返ってしまったこと
- 13.蟹座 信じられなかった手の、ぬくもりを思い出すまで
- 14.宇宙という名の空を結びに。
- 15.蛇遣い座 13番目になれなくて。
- 16.第二期 惑星たちの夜
- 17.金星 一行の本音は、金星に預けて
- 18.土星 抱え込めてしまった者は、零れ方を知らない
- 19.天王星 光を残す星