天才になりたいなぁ
「天才になりたいなぁ」
夜の11時。
消灯時間を過ぎた暗いベッドの中で、私は学タブの画面を見つめながら、小さくつぶやいた。
吐き出された言葉は、冷たい空気へと溶けて消える。
私の部屋には、私以外の誰もいない。
開いているのは、小説投稿サイトのマイページ。
このサイトは、私の唯一の逃げ場所だった。
自分の言葉をどこかに置いておかないと。
でも、誰かと比べるのは少し苦手。
胸の奥にあるドロドロとした塊に窒息させられてしまいそうだったから。
画面に表示されている、今夜投稿したばかりの小説の閲覧回数は、まだ「3」。
そのうち1回は自分だ。
世界で私だけが、私の生み出したものを眺めている。
今夜の私は、いつもと違っていた。
放課後からずっと、何かに憑りつかれたようにタブレットのキーボードを叩き続けた。
脳が異常に冴え渡り、言葉が、文章が、溢れるように指先から紡ぎ出された。
書き終えた瞬間は、手が震えていた。
これまでにない、恐ろしいほどの傑作が書けたと思った。
だが、深夜になってベッドの中で読み返した瞬間、血の気が引いた。
「……なんで」
画面に並ぶ文字列は、確かに美しかった。
構成も完璧で、文章のテンポも良く、どこに出しても恥ずかしくない『いい感じの小説』に仕上がっている。
客観的に見れば、中学1年生が書いたものとしては、間違いなく合格点以上の出来栄えだった。
だからこそ、吐き気がした。
読み返せば読み返すほど、そこに漂う『優等生っぽさ』が鼻につく。
どこかで読んだ名作小説のフレーズ、SNSで見かけた綺麗な表現、教科書通りの美しい比喩。
それらを私の脳が器用に、都合よくパッチワークのように繋ぎ合わせただけなのが、自分には透けて見えてしまうのだ。
「こんなの、私の言葉じゃない……」
綺麗に整っている。
でも、そこには何の毒もない。
私が本当に吐き出したかった、あのドロドロとした、爪を立てて心臓を掻きむしりたくなるような暗い激情が、まるで綺麗に脱臭されたみたいに消えていた。
ただの「文章が上手な中学生の作品」でしかなかった。
世の中には、最初から頭の中に完璧な世界を持っている『天才』がいる。
彼らの言葉は、不細工で、歪で、時に文法すら壊れているのに、読者の心を一瞬で引き裂く劇薬になる。
それに比べて、私の書いたものは、小綺麗に包まれた安物のケーキだ。
どれだけ綺麗に形を整えても、私自身の底の浅さ、凡庸さという致命的な欠陥が、文字の隙間から黒いシミのように浮き上がってくる。
この『いい感じの小説』は、私が凡人であることの、何よりの証明だった。
器用に、それっぽいものを模倣することしかできない、空っぽな人間の足掻き。
「……はは」
暗闇の中で、自嘲気味な笑いが漏れた。
天才になりたかった。
自分の心を引き裂いて、世界を驚かせるような、本物の言葉を紡ぎたかった。
こんな、誰にでも愛されるような、無難で綺麗なゴミが書きたかったわけじゃない。
画面を消すと、暗転したタブレットのガラスに、酷く酷く不細工に歪んだ私の顔が映り込んだ。
涙さえ出てこない。
ただ、自分の底の浅さに絶望している、哀れな子供の顔だ。
それでも、私はこの真っ黒な画面を睨みつけ、再びパスコードを入力する。
才能がない。
何もない。
だけど、この呪いのような渇きを消す方法を、私はこれ以外に知らないから。
私はまた、真っ白な新しい執筆画面に向き直る。
今度こそ、私の本当の地獄を、あの綺麗な言葉たちの檻から解き放つために。
今日も私は、
書く。
夜の11時。
消灯時間を過ぎた暗いベッドの中で、私は学タブの画面を見つめながら、小さくつぶやいた。
吐き出された言葉は、冷たい空気へと溶けて消える。
私の部屋には、私以外の誰もいない。
開いているのは、小説投稿サイトのマイページ。
このサイトは、私の唯一の逃げ場所だった。
自分の言葉をどこかに置いておかないと。
でも、誰かと比べるのは少し苦手。
胸の奥にあるドロドロとした塊に窒息させられてしまいそうだったから。
画面に表示されている、今夜投稿したばかりの小説の閲覧回数は、まだ「3」。
そのうち1回は自分だ。
世界で私だけが、私の生み出したものを眺めている。
今夜の私は、いつもと違っていた。
放課後からずっと、何かに憑りつかれたようにタブレットのキーボードを叩き続けた。
脳が異常に冴え渡り、言葉が、文章が、溢れるように指先から紡ぎ出された。
書き終えた瞬間は、手が震えていた。
これまでにない、恐ろしいほどの傑作が書けたと思った。
だが、深夜になってベッドの中で読み返した瞬間、血の気が引いた。
「……なんで」
画面に並ぶ文字列は、確かに美しかった。
構成も完璧で、文章のテンポも良く、どこに出しても恥ずかしくない『いい感じの小説』に仕上がっている。
客観的に見れば、中学1年生が書いたものとしては、間違いなく合格点以上の出来栄えだった。
だからこそ、吐き気がした。
読み返せば読み返すほど、そこに漂う『優等生っぽさ』が鼻につく。
どこかで読んだ名作小説のフレーズ、SNSで見かけた綺麗な表現、教科書通りの美しい比喩。
それらを私の脳が器用に、都合よくパッチワークのように繋ぎ合わせただけなのが、自分には透けて見えてしまうのだ。
「こんなの、私の言葉じゃない……」
綺麗に整っている。
でも、そこには何の毒もない。
私が本当に吐き出したかった、あのドロドロとした、爪を立てて心臓を掻きむしりたくなるような暗い激情が、まるで綺麗に脱臭されたみたいに消えていた。
ただの「文章が上手な中学生の作品」でしかなかった。
世の中には、最初から頭の中に完璧な世界を持っている『天才』がいる。
彼らの言葉は、不細工で、歪で、時に文法すら壊れているのに、読者の心を一瞬で引き裂く劇薬になる。
それに比べて、私の書いたものは、小綺麗に包まれた安物のケーキだ。
どれだけ綺麗に形を整えても、私自身の底の浅さ、凡庸さという致命的な欠陥が、文字の隙間から黒いシミのように浮き上がってくる。
この『いい感じの小説』は、私が凡人であることの、何よりの証明だった。
器用に、それっぽいものを模倣することしかできない、空っぽな人間の足掻き。
「……はは」
暗闇の中で、自嘲気味な笑いが漏れた。
天才になりたかった。
自分の心を引き裂いて、世界を驚かせるような、本物の言葉を紡ぎたかった。
こんな、誰にでも愛されるような、無難で綺麗なゴミが書きたかったわけじゃない。
画面を消すと、暗転したタブレットのガラスに、酷く酷く不細工に歪んだ私の顔が映り込んだ。
涙さえ出てこない。
ただ、自分の底の浅さに絶望している、哀れな子供の顔だ。
それでも、私はこの真っ黒な画面を睨みつけ、再びパスコードを入力する。
才能がない。
何もない。
だけど、この呪いのような渇きを消す方法を、私はこれ以外に知らないから。
私はまた、真っ白な新しい執筆画面に向き直る。
今度こそ、私の本当の地獄を、あの綺麗な言葉たちの檻から解き放つために。
今日も私は、
書く。
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