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【完結】【参加〆切】星を紡ぐティータイム

#23

水星 検索速度と、止まれなかった自分の輪郭

扉の鈴は、
今日も少しだけ速かった。
カラン、
という音が終わる前に、
もう空気のほうが入れ替わっている。

「……ここだ、ここ!」

声が先に飛び込んでくる。

次の瞬間、
カウンターの前に“情報そのものみたいな少女”が現れた。

水銀色のテックワンピース。
スカイブルーのラインが、
思考の軌道みたいに走っている。
首元の大きなヘッドフォンは、
常に何かを受信しているように微かに光っていた。

サイドポニーテールは跳ねているというより、
アンテナそのものだった。

「こんにちはっ!えっと、初見情報OK?ログ取ってる?」

息を吸うより先に、
言葉が出る。

「める、水瀬める!水星枠の登録データ保持者ですっ!」

一人称がブレるたびに、
思考速度がさらに上がる。

「キミがマスター?それとも管理AI?あ、違う?人間?へえ、珍し——」

そこで一瞬だけ止まる。

「……えっと、今のはカットで!」

止まるのが、
下手だった。

マスターはいつも通り、
グラスを磨いている。
速度に反応しないことで、
速度を均しているように。

「いらっしゃいませ」

それだけ。

めるは目を輝かせる。

「出た!定型文!安心するやつ!」

カウンターに身を乗り出す。

「ここさ、噂で見たんだよね。“惑星の味を出す店”って。あれほんと?ガセ?検証済み?未確定?」

言葉の途中で、
すでに結論に向かって走っている。

マスターは一枚の皿を置いた。

それは黒いというより、
“焼き固めた記憶”の色だった。

マットグレーの円形スレートプレート。
その中心に、
岩のようなフォンダンショコラ。

周囲には砕けたビスケット。
銀の砂がクレーターのように散っている。

そして——端には、
異物のように静かなもの。

透明なミント琥珀糖と、
白いアイス。

「……え、なにこれ」

めるの声が一瞬だけ遅れる。

「溶岩フォンダンショコラ・プラトーです」

マスターは短く言う。

めるの瞳が、
完全に“解析モード”に切り替わる。

「プラトーってことは地形再現?プレート構造?
あ、これ水星だよね?温度差モチーフ?昼430度夜−160度のやつ?
ビスケットはクレーター?銀は金属光沢?氷あるじゃん北極のやつだ!やばっ精度高っ——」

そこで息が切れる。

「……あ、待って、めるの口が追いつかない」

フォークを握る手が、
少しだけ震えている。

「いくよ、検証」

ケーキにフォークが刺さる。

その瞬間。

“割れる”というより、
“開く”。

中から、
真っ赤なラズベリーガナッシュが流れ出した。

熱が、
視覚として現れる。

「っ……!」

めるの瞳が大きくなる。

「熱い、けど、これ……ただの熱じゃない……データと違う……え、なにこれ……!」

甘さと酸味とカカオの苦味が、
情報処理を一瞬だけ遅らせる。

マスターは言う。

「昼の側です」

めるは笑いかけて、
途中で止まる。

「昼……っていうか……灼熱だねこれ……!」

一口。

次はアイスとミント琥珀糖へ。

「……っ、冷たい!」

さっきの熱が一気に引く。

「待って待って、温度差エグい、脳がバグる、これ設計ミスじゃなくて仕様!?
仕様だよね!?水星再現ならそうか……そういうことか……!」

情報が流れすぎて、
言葉が一瞬だけ渋滞する。

そして。

「……でも」

小さくなる声。

「これ、知ってる感じがする」

手が止まる。

「水星ってさ、いつも“速い”って言われるけど……ほんとはさ」

アイスの白を見つめる。

「止まる場所、ないだけなんだよね」

少し沈黙。

「める、ずっと走ってたからさ。止まると怖いんだよね。情報なくなるから」

笑う。
でも、
少しだけ遅い笑い。

マスターは言う。

「ここは、止まっても情報が消えない場所ではありません」

一拍。

「止まっても、あなたが残る場所です」

めるのフォークが止まる。

「……それ、データにない」

すぐに笑う。

「でも、いいね、それ」

ヘッドフォンを少しだけ直す。

「ねえマスター」

「はい」

「める、ここに来たログ、消さないでいい?」

マスターは答えない。

代わりに、
皿を拭く手を一度だけ止める。

それだけで十分だった。

めるは立ち上がる。

でも、
いつもの“走り出す立ち上がり”じゃない。

少しだけ、
重力を確認するような動き。

「また来る!たぶん最速で来る!」

一拍。

「……でも、今度はちゃんと味も覚える!」

扉へ向かいながら、
最後に振り返る。

「ここ、めるの検索結果に“保存”しとくね!」

カラン。

扉が閉まる。

夜の中に残ったのは、
少しだけ遅くなった情報の余韻だった。

マスターは皿を下げる。

その皿の上には、
まだ小さな熱と冷たさが同居している。

「水星は、速さで世界を知る」

静かに呟く。

「だが——止まることで、自分を知ることもある」

夜は続く。

次の検索結果が、
もうどこかで扉の前に立っている気配を残しながら。

作者メッセージ

メニューがお気に入り度最上位入りです。

どうも、KanonLOVEです!
いやぁ、ひっさしぶりの執筆になりました、星を紡ぐティータイム。

色々調べたりするのに制限がかかり始めて(嘘)
執筆時間も取れなくなり(嘘)
やる気も出なくてサボってしまい(本当)
執筆が遅れました。

はい。

最終話まで、あと2話です。
初参加型ももう終わりますね。
いやぁ、長いようで短かった(終わってからにしな)

まあ明日プールの授業があるので今日はこのへんで、
では!

2026/07/05 21:43

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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十二星座感情カフェ参加型

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