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私の涙前線

#4

最終章 雨のち晴れ

九月。
夏が終わる頃には、
二人は付き合い始めていた。

「朝比奈先輩!」

廊下で笑うひまりちゃん。

その隣で照れくさそうに笑う悠斗。

その光景を見るたびに、
胸は少し痛んだ。

それでも、
不思議だった。

時間はちゃんと人を前へ運ぶ。

最初は、
教室で二人を見るだけで息が苦しくなった。

次は、
少しだけ目を逸らせるようになった。

冬になる頃には、
「お似合いだね」と笑えるようになっていた。

もちろん、
心のどこかではまだ泣いていたけれど。

卒業式の日。
三年間通った校舎は、
春の光に包まれていた。

体育館を出ると、
空には薄い雲が流れている。

「卒業、おめでとう。」

後ろから声がした。

振り向くと、
悠斗だった。

制服ではなく、
卒業生の胸につけるコサージュが少しだけ大人に見える。

「おめでとう。」

私も笑う。

自然に笑えた。

「東京、頑張れよ。」

「うん。」

「そっちは?」

「地元の大学。」

「そっか。」

少しだけ沈黙が流れる。

もう毎日一緒に帰ることもない。

天気の話をすることもない。

同じ教室で笑うこともない。

それでも、
不思議と寂しさだけじゃなかった。

「あのさ。」

悠斗が照れくさそうに頭をかく。

「今までありがとう。」

その一言だけで十分だった。

私は首を横に振る。

「こちらこそ。」

本当は言いたいことが山ほどあった。

好きだったこと。

ずっと好きだったこと。

失恋した夜、
泣き続けたこと。

全部。

全部。

でも、
それはもう私だけの思い出でいい。

恋は伝えなければ届かない。

だけど、
伝えなかった恋にも意味はある。

私はそう信じたかった。

「じゃあ。」

「うん。またね。」

今度こそ、
本当のお別れだった。

駅へ向かう坂道を一人で歩く。
空から、
小さな雨粒が落ちてきた。

「あ……。」

思わず笑ってしまう。

今日まで散々泣いたのに。

最後の日まで雨なんだ。

バッグから折り畳み傘を取り出そうとして、
手を止めた。

今日はいいや。

少しくらい濡れて帰ろう。

雨は優しかった。

頬を伝う雫は、
もう涙なのか雨なのか分からない。

でも、
それでよかった。

失恋は、
忘れることじゃない。

痛みがなくなることでもない。

大切だった人を、
大切だったまま思い出にできるようになること。

それが「前へ進む」ということなのかもしれない。

信号待ちをしていると、
小さな女の子が空を見上げて言った。

「お母さん、もうすぐ晴れる?」

母親は笑って答える。

「雨雲はずっと同じ場所にはいないよ。」

その言葉に、
私は空を見上げた。

灰色の雲の向こうには、
確かに青空があった。

天気予報では、
雨は午後には止むらしい。

私は少しだけ歩く速度を上げる。

いつかこの恋を思い出しても、
泣かずに笑える日が来る。

きっと来る。

だって、
どんな前線にも終わりがある。

私の涙前線も、
いつか静かに通り過ぎていく。

雨上がりの風は少しだけ冷たくて、
少しだけ優しかった。

私は濡れた前髪を耳にかけ、
空へ向かって小さく笑う。

「さようなら。」

それは、
彼に向けた言葉だったのか。

あの日までの私に向けた言葉だったのか。

もう分からない。

けれど、
その一歩は確かに未来へ続いていた。

遠くで雲が切れ、
淡い春の日差しが街を照らし始める。

私は空を見上げる。

泣いたあとだからこそ見える青空がある。

その青さを、
私は一生忘れないだろう。

[中央寄せ]―完―[/中央寄せ]

作者メッセージ

以上です。
いやぁ結局失恋した人を慰めるお話でした。

はい。
正直に言います。

あれ、これセルフ慰め用((

はい。
では!

2026/07/05 06:59

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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