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私の涙前線

#3

第三章 停滞前線

夏休みに入っても、
私たちは何度か会った。
図書館で受験勉強をしたり、
駅前のカフェで参考書を広げたり。

「休憩。」

そう言って悠斗は紙パックのミルクティーを机に置く。

「糖分補給。」

「ありがとう。」

その何気ない優しさが、
嬉しくて苦しかった。

こんな日々が、
ずっと続けばいいのに。

そんな願いは、
夏の入道雲みたいに大きく膨らんでは消えていった。

八月の終わり。
夕立が降った日だった。

図書館からの帰り道、
突然の雨に私たちは駅前のバス停へ駆け込んだ。

屋根を叩く雨音は激しく、
向こう側の景色が白く霞んで見える。

「すごい雨。」

「ほんと。」

沈黙。

雨音だけが私たちの間を埋める。

「……ねえ。」

悠斗がぽつりと言った。

「相談してもいい?」

「うん。」

「笑わない?」

「笑わない。」

彼は少し困ったように笑って、
それから視線を雨へ向けた。

「好きな人ができた。」

世界が、
一瞬だけ音を失った。

雨が止んだのかと思うくらい静かだった。

でも現実には、
さっきより強く降っている。

「……そっか。」

なんとか声を出す。

笑えているだろうか。

ちゃんと友達の顔ができているだろうか。

「応援してくれる?」

その言葉は、
ナイフみたいだった。

「もちろん。」

私は笑った。

今までで一番上手に。

「誰?」

聞かなきゃよかった。

でも聞かずにはいられなかった。

悠斗は少し照れながら言う。

「ひまりちゃん。」

やっぱり。

そう思った。

予想していた。

だから驚かなかった。

驚かなかったはずなのに、
胸の奥で何かが崩れる音がした。

「かわいいもんね。」

「そうなんだよ。」

嬉しそうだった。

本当に嬉しそうだった。

その笑顔を見て、
私は初めて知った。

彼が私に向けていた笑顔と、

好きな人を思い浮かべる笑顔は、

少しだけ違うということを。

帰り道は別々だった。
「じゃあまた。」

「うん。またね。」

それだけ。

駅の改札で手を振って別れる。

いつもと同じ。

なのに今日は、
振り返ることができなかった。

改札を抜けると、
雨はまだ降っていた。

傘を開く。

でも気づけば、
頬は濡れていた。

雨なのか。

涙なのか。

もう分からなかった。

その夜。
私は初めて泣いた。

声を殺して。

枕に顔を埋めて。

誰にも聞こえないように。

好きだった。

ずっと好きだった。

「友達」でいることを選んだのは私なのに。

言えなかったのも私なのに。

苦しい。

悔しい。

会いたい。

その全部を飲み込んで、
ただ泣いた。

スマートフォンが震える。

『今日はありがとう。

相談できてよかった。』

悠斗からのメッセージだった。

画面が滲む。

返信を打とうとして、
何度も文字を消した。

『応援してる。』

たった五文字。

それだけ送るのに、
三十分かかった。

送信ボタンを押した瞬間、

涙が止まらなくなった。

窓の外では、
雨が朝まで降り続いていた。

天気予報は言っていた。

「停滞前線の影響で、この雨は数日続くでしょう。」

私は思う。

天気の前線には終わりがある。

でも、
心の前線は。

この涙前線は、
いったいいつ通り過ぎてくれるのだろう。

作者メッセージ

次回最終話で草。
どうも!KanonLOVEです!

いやぁ、なんか終わり早いですね()

明日の部活中ぐらいに最終話は投稿しよっかな()
では!

2026/07/01 21:57

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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高校恋愛青春

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