夏休みに入っても、
私たちは何度か会った。
図書館で受験勉強をしたり、
駅前のカフェで参考書を広げたり。
「休憩。」
そう言って悠斗は紙パックのミルクティーを机に置く。
「糖分補給。」
「ありがとう。」
その何気ない優しさが、
嬉しくて苦しかった。
こんな日々が、
ずっと続けばいいのに。
そんな願いは、
夏の入道雲みたいに大きく膨らんでは消えていった。
八月の終わり。
夕立が降った日だった。
図書館からの帰り道、
突然の雨に私たちは駅前のバス停へ駆け込んだ。
屋根を叩く雨音は激しく、
向こう側の景色が白く霞んで見える。
「すごい雨。」
「ほんと。」
沈黙。
雨音だけが私たちの間を埋める。
「……ねえ。」
悠斗がぽつりと言った。
「相談してもいい?」
「うん。」
「笑わない?」
「笑わない。」
彼は少し困ったように笑って、
それから視線を雨へ向けた。
「好きな人ができた。」
世界が、
一瞬だけ音を失った。
雨が止んだのかと思うくらい静かだった。
でも現実には、
さっきより強く降っている。
「……そっか。」
なんとか声を出す。
笑えているだろうか。
ちゃんと友達の顔ができているだろうか。
「応援してくれる?」
その言葉は、
ナイフみたいだった。
「もちろん。」
私は笑った。
今までで一番上手に。
「誰?」
聞かなきゃよかった。
でも聞かずにはいられなかった。
悠斗は少し照れながら言う。
「ひまりちゃん。」
やっぱり。
そう思った。
予想していた。
だから驚かなかった。
驚かなかったはずなのに、
胸の奥で何かが崩れる音がした。
「かわいいもんね。」
「そうなんだよ。」
嬉しそうだった。
本当に嬉しそうだった。
その笑顔を見て、
私は初めて知った。
彼が私に向けていた笑顔と、
好きな人を思い浮かべる笑顔は、
少しだけ違うということを。
帰り道は別々だった。
「じゃあまた。」
「うん。またね。」
それだけ。
駅の改札で手を振って別れる。
いつもと同じ。
なのに今日は、
振り返ることができなかった。
改札を抜けると、
雨はまだ降っていた。
傘を開く。
でも気づけば、
頬は濡れていた。
雨なのか。
涙なのか。
もう分からなかった。
その夜。
私は初めて泣いた。
声を殺して。
枕に顔を埋めて。
誰にも聞こえないように。
好きだった。
ずっと好きだった。
「友達」でいることを選んだのは私なのに。
言えなかったのも私なのに。
苦しい。
悔しい。
会いたい。
その全部を飲み込んで、
ただ泣いた。
スマートフォンが震える。
『今日はありがとう。
相談できてよかった。』
悠斗からのメッセージだった。
画面が滲む。
返信を打とうとして、
何度も文字を消した。
『応援してる。』
たった五文字。
それだけ送るのに、
三十分かかった。
送信ボタンを押した瞬間、
涙が止まらなくなった。
窓の外では、
雨が朝まで降り続いていた。
天気予報は言っていた。
「停滞前線の影響で、この雨は数日続くでしょう。」
私は思う。
天気の前線には終わりがある。
でも、
心の前線は。
この涙前線は、
いったいいつ通り過ぎてくれるのだろう。
私たちは何度か会った。
図書館で受験勉強をしたり、
駅前のカフェで参考書を広げたり。
「休憩。」
そう言って悠斗は紙パックのミルクティーを机に置く。
「糖分補給。」
「ありがとう。」
その何気ない優しさが、
嬉しくて苦しかった。
こんな日々が、
ずっと続けばいいのに。
そんな願いは、
夏の入道雲みたいに大きく膨らんでは消えていった。
八月の終わり。
夕立が降った日だった。
図書館からの帰り道、
突然の雨に私たちは駅前のバス停へ駆け込んだ。
屋根を叩く雨音は激しく、
向こう側の景色が白く霞んで見える。
「すごい雨。」
「ほんと。」
沈黙。
雨音だけが私たちの間を埋める。
「……ねえ。」
悠斗がぽつりと言った。
「相談してもいい?」
「うん。」
「笑わない?」
「笑わない。」
彼は少し困ったように笑って、
それから視線を雨へ向けた。
「好きな人ができた。」
世界が、
一瞬だけ音を失った。
雨が止んだのかと思うくらい静かだった。
でも現実には、
さっきより強く降っている。
「……そっか。」
なんとか声を出す。
笑えているだろうか。
ちゃんと友達の顔ができているだろうか。
「応援してくれる?」
その言葉は、
ナイフみたいだった。
「もちろん。」
私は笑った。
今までで一番上手に。
「誰?」
聞かなきゃよかった。
でも聞かずにはいられなかった。
悠斗は少し照れながら言う。
「ひまりちゃん。」
やっぱり。
そう思った。
予想していた。
だから驚かなかった。
驚かなかったはずなのに、
胸の奥で何かが崩れる音がした。
「かわいいもんね。」
「そうなんだよ。」
嬉しそうだった。
本当に嬉しそうだった。
その笑顔を見て、
私は初めて知った。
彼が私に向けていた笑顔と、
好きな人を思い浮かべる笑顔は、
少しだけ違うということを。
帰り道は別々だった。
「じゃあまた。」
「うん。またね。」
それだけ。
駅の改札で手を振って別れる。
いつもと同じ。
なのに今日は、
振り返ることができなかった。
改札を抜けると、
雨はまだ降っていた。
傘を開く。
でも気づけば、
頬は濡れていた。
雨なのか。
涙なのか。
もう分からなかった。
その夜。
私は初めて泣いた。
声を殺して。
枕に顔を埋めて。
誰にも聞こえないように。
好きだった。
ずっと好きだった。
「友達」でいることを選んだのは私なのに。
言えなかったのも私なのに。
苦しい。
悔しい。
会いたい。
その全部を飲み込んで、
ただ泣いた。
スマートフォンが震える。
『今日はありがとう。
相談できてよかった。』
悠斗からのメッセージだった。
画面が滲む。
返信を打とうとして、
何度も文字を消した。
『応援してる。』
たった五文字。
それだけ送るのに、
三十分かかった。
送信ボタンを押した瞬間、
涙が止まらなくなった。
窓の外では、
雨が朝まで降り続いていた。
天気予報は言っていた。
「停滞前線の影響で、この雨は数日続くでしょう。」
私は思う。
天気の前線には終わりがある。
でも、
心の前線は。
この涙前線は、
いったいいつ通り過ぎてくれるのだろう。