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私の涙前線

#2

第二章 曇り空の向こう

梅雨は、
嫌いじゃなかった。
雨音は教室のざわめきを少しだけ遠ざけてくれる。

窓ガラスを流れる雫をぼんやり眺めている時間も、
私は好きだった。

でも、
その年の梅雨だけは違った。

「ねえ、朝比奈くん。」

昼休み。

教室の入り口から女の子の声がした。

私はシャーペンを動かす手を止める。

見たことのない制服のリボン。

二年生だった。

「進路のことで聞きたいことがあるんだけど。」

「俺?」

悠斗は少し驚いたように自分を指差した。

「先生が朝比奈くんに聞くといいって。」

「ああ、いいよ。」

そのまま二人は廊下へ出ていった。

私は窓の外を見るふりをした。

別に、
なんでもない。

後輩が先輩に相談するなんて普通のことだ。

そう思おうとしても、
胸の奥が少しだけざわつく。

「気になる?」

後ろから声をかけられた。

振り返ると、
親友の美咲がニヤリと笑っている。

「……何が?」

「朝比奈くん。」

「違うし。」

「はいはい。」

美咲は机に頬杖をついた。

「でもさ。」

少しだけ真面目な顔になる。

「早く言わないと取られるよ。」

その言葉に、
心臓が小さく跳ねた。

「別に……。」

「好きじゃない?」

答えられなかった。

好き。

その二文字を認めてしまえば、
今までの関係には戻れない気がした。

だから私は笑った。

「友達だから。」

その言葉は、
自分に言い聞かせるための嘘だった。

それから、
その子は何度も教室へ来るようになった。
名前は、
七瀬ひまり。

人懐っこくて、
誰とでもすぐ仲良くなれる子だった。

「朝比奈先輩!」

そう呼ぶ声が聞こえるたび、
私は無意識に耳を澄ませてしまう。

ある日の帰り道。

「最近、後輩によく話しかけられてるね。」

何気ないふりをして言うと、
悠斗は困ったように笑った。

「進路相談だけだよ。」

「そうなんだ。」

「なんか勘違いされそうで困る。」

その言葉に、
私は少しだけ安心した。

だけど。

「ひまりちゃん、いい子だよね。」

続いたその一言が、
小さな棘になった。

「話してて楽しいし。」

私は笑顔を作る。

「そうなんだ。」

雨が降り始めた。

今日は傘を一本しか持っていなかった。

いつものように二人で肩を寄せる。

その距離は昨日までと同じはずなのに、
今日は少し遠く感じた。

「寒い?」

「ううん。」

「顔色悪いけど。」

「平気。」

平気なわけがない。

でも、
それを言ったら何かが壊れてしまう気がした。

七月。
梅雨明けまであと少し。

教室には進路希望調査の紙が配られた。

東京。

横浜。

仙台。

それぞれの未来が、
少しずつ違う方向を向き始める。

「ねえ。」

放課後、
駅まで歩きながら悠斗が言った。

「卒業してもさ。」

「うん。」

「友達でいような。」

その言葉は、
優しかった。

優しすぎた。

恋人じゃなくて。

特別でもなくて。

ずっと友達。

私は笑って答えた。

「もちろん。」

その瞬間。

私の初恋は、
静かに終わりへ向かい始めた。

まだ失恋していない。

告白もしていない。

何も始まっていない。

それなのに、
心だけが終わりを知ってしまった。

空を見上げる。

厚い雲の向こうで、
太陽はきっと笑っている。

なのに私の空だけは、
雨を降らせる準備をしていた。

作者メッセージ

部活中に書いてて草((

では!

2026/06/30 17:28

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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高校恋愛青春

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