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BL、GL、NLは今後付けるかもです。
夜の駅は、いつも少しだけ現実から浮いている。
蛍光灯の白さは冷たくて、なのにどこか優しくも見える。
人の声や足音は確かにあるのに、それぞれが別の世界の出来事みたいに遠い。
彼女はホームの端に立っていた。
「行くんだね」
僕の声は、思ったよりも弱かった。
彼女はすぐには返事をしなかった。
ただ、線路の先を見ていた。
そこにあるのは目的地であって、同時に、ここから消えるための出口でもある。
やがて小さく息を吐いて、
「うん」
それだけ言った。
「ここにいたら、たぶん駄目になるから」
駄目になる、という言葉は便利だと思った。
理由を全部まとめて、これ以上説明しなくていい形にしてしまう。
本当は、もっと細かくて、もっと曖昧で、もっと言葉にできないものが積み重なっていたはずなのに。
電車が入ってくる。風が押し寄せて、彼女の髪が少し揺れた。
「それでもさ」
僕は、無理やり声を出した。
「本当に、それしかないの?」
彼女は初めて、ちゃんと僕を見た。
その目は、強いというより疲れていた。
何かを選び続けてきた人の目だった。
「……他の道があったら、たぶんもう選んでる」
その言葉は、否定じゃなかった。諦めでもなかった。
ただ、今までの時間の重さそのものだった。
電車のドアが開く。
「それでも」
僕は言いかけて、止めた。
それでも、行かないでほしい。
それでも、ここにいてほしい。
そのどれも、彼女を軽くしてはくれない気がした。
だから代わりに、別の言葉が出た。
「……ちゃんと、食べて」
彼女が少しだけ瞬きをした。
「寝て。無理しすぎないで。……それだけは、約束して」
拍子抜けするくらい普通の言葉だった。
彼女は小さく笑った。
「なにそれ」
「それくらいしか言えない」
「うん……わかった」
その「わかった」は、さっきまでの返事とは違っていた。
電車に一歩、彼女が踏み出す。
そのとき、彼女は少しだけ振り返った。
「ねえ」
「……うん」
「もし、全部うまくいかなかったら」
言いかけて、彼女は少し笑った。
「そのときは、また怒ってくれる?」
僕は、うまく答えられなかった。
でも、うなずいた。
それでいい気がした。
ドアが閉まる直前、彼女はもう一度だけ言った。
「……行ってくる」
電車が動き出す。
離れていく窓越しに、彼女はまだこちらを見ていた。
手を振るわけでもなく、ただそこにいるみたいに。
僕は、その姿が見えなくなるまで立っていた。
しばらくして、ホームに静けさが戻る。
それでも、何かが完全に終わった感じはしなかった。
たぶんこれは別れというより、「続き方が変わる瞬間」だった。
◇
ポケットの中で、スマホが小さく震えた。
短いメッセージ。
『ちゃんと食べてる?』
それだけ。
たったそれだけの文字なのに、さっきまで止まっていた時間が、少しだけ動いた気がした。
僕はホームのベンチに座って、しばらく画面を見ていた。
返信を打つ。
『食べてるよ。そっちは?』
すぐに返事は来なかった。
でも、それでよかった。
電車はもう見えない。
それでも、この線路の向こうに、確かに続きがあることだけは分かっていた。
そしてそれはきっと、
終わりじゃない。
蛍光灯の白さは冷たくて、なのにどこか優しくも見える。
人の声や足音は確かにあるのに、それぞれが別の世界の出来事みたいに遠い。
彼女はホームの端に立っていた。
「行くんだね」
僕の声は、思ったよりも弱かった。
彼女はすぐには返事をしなかった。
ただ、線路の先を見ていた。
そこにあるのは目的地であって、同時に、ここから消えるための出口でもある。
やがて小さく息を吐いて、
「うん」
それだけ言った。
「ここにいたら、たぶん駄目になるから」
駄目になる、という言葉は便利だと思った。
理由を全部まとめて、これ以上説明しなくていい形にしてしまう。
本当は、もっと細かくて、もっと曖昧で、もっと言葉にできないものが積み重なっていたはずなのに。
電車が入ってくる。風が押し寄せて、彼女の髪が少し揺れた。
「それでもさ」
僕は、無理やり声を出した。
「本当に、それしかないの?」
彼女は初めて、ちゃんと僕を見た。
その目は、強いというより疲れていた。
何かを選び続けてきた人の目だった。
「……他の道があったら、たぶんもう選んでる」
その言葉は、否定じゃなかった。諦めでもなかった。
ただ、今までの時間の重さそのものだった。
電車のドアが開く。
「それでも」
僕は言いかけて、止めた。
それでも、行かないでほしい。
それでも、ここにいてほしい。
そのどれも、彼女を軽くしてはくれない気がした。
だから代わりに、別の言葉が出た。
「……ちゃんと、食べて」
彼女が少しだけ瞬きをした。
「寝て。無理しすぎないで。……それだけは、約束して」
拍子抜けするくらい普通の言葉だった。
彼女は小さく笑った。
「なにそれ」
「それくらいしか言えない」
「うん……わかった」
その「わかった」は、さっきまでの返事とは違っていた。
電車に一歩、彼女が踏み出す。
そのとき、彼女は少しだけ振り返った。
「ねえ」
「……うん」
「もし、全部うまくいかなかったら」
言いかけて、彼女は少し笑った。
「そのときは、また怒ってくれる?」
僕は、うまく答えられなかった。
でも、うなずいた。
それでいい気がした。
ドアが閉まる直前、彼女はもう一度だけ言った。
「……行ってくる」
電車が動き出す。
離れていく窓越しに、彼女はまだこちらを見ていた。
手を振るわけでもなく、ただそこにいるみたいに。
僕は、その姿が見えなくなるまで立っていた。
しばらくして、ホームに静けさが戻る。
それでも、何かが完全に終わった感じはしなかった。
たぶんこれは別れというより、「続き方が変わる瞬間」だった。
◇
ポケットの中で、スマホが小さく震えた。
短いメッセージ。
『ちゃんと食べてる?』
それだけ。
たったそれだけの文字なのに、さっきまで止まっていた時間が、少しだけ動いた気がした。
僕はホームのベンチに座って、しばらく画面を見ていた。
返信を打つ。
『食べてるよ。そっちは?』
すぐに返事は来なかった。
でも、それでよかった。
電車はもう見えない。
それでも、この線路の向こうに、確かに続きがあることだけは分かっていた。
そしてそれはきっと、
終わりじゃない。