―風が変わる前
終業式の日。
体育館は、
湿った空気と眠気で満ちていた。
校長先生の話は長く、
途中から誰も聞いていない。
それでも―
[太字][大文字]「一学期が終わる」
[/大文字][/太字]という事実だけは、
全員に平等に降りてくる。
終業式が終わると、
校内は一気に夏の空気になる。
廊下には笑い声。
体育館の湿気は、
もう誰も気にしていない。
◇
図書室に戻ると、
いつものメンバーが集まっていた。
「じゃあ」
私は、
一度、
全員を見渡して言った。
「一学期の活動は、ここまでです」
雷が、
ぴょん、と跳ねる。
「夏休みー!
…と言いたいところだけど」
Affectusが、
くるりと回る。
「ボクら、帰省ダ」
「魔界に」
ファイヤー・ルビーが、
一瞬固まる。
「…は?」
「悪魔はね」
雷が、指を立てる。
「長期間、人間界に居ると」
「魔力、薄まるの」
ポラリスが、
だるそうに頷く。
「夏は特に
星の流れ、変わるし」
鬼灯が、
腕を組む。
「妾は、魔界で訓練だ
怠ける気はない」
スーラが、
小さく手を挙げる。
「…スーラも
おうち、帰る」
「永遠の9歳でも、帰省はあるんだね」
神田先輩が、
真顔で言う。
スーラは、
こくりと頷いた。
「つまり」
ファイヤー・ルビーが、整理する。
「夏休み中は」
「会えない?」
「基本的には」
私は、答える。
「完全に、別行動です」
神田先輩が、
少し笑った。
「何でも屋、長期休業か」
「はい」
「ただし――」
私は、
最後に付け加える。
[大文字][明朝体][斜体]「[太字]終わった[/太字]わけじゃありません」
[/斜体][/明朝体][/大文字]
かっこよくシメられた!
と心のなかでガッツポーズを決めていたが、
次の一声で、
それがガラガラと崩れた。
◇
「神谷さん」
その声で、
全員が振り向いた。
入口に立っていたのは、
風白先生だった。
白いシャツ。
いつもと変わらない、
穏やかな表情。
「そろそろ下校の時間ですよ」
雷が、
一瞬だけ姿勢を正す。
「はーい、先生」
風白先生は、
雷の声が聞こえていないはずなのに、
なぜか少しだけ、
空間を避けて歩いた。
偶然、
というには綺麗すぎる動き。
でも―
視線は、誰にも向けない。
「皆さん」
先生は、
円になった椅子を見て言う。
「一学期、お疲れさまでした」
一人ずつ、
[太字]さん付け[/太字]で。
「神田さん」
「ファイヤー・ルビーさん」
「神谷さん」
悪魔も、人も、
分け隔てなく。
「夏休みは」
先生は、
少しだけ声を和らげる。
[太字][明朝体][大文字]「無理をしないでください」
[/大文字][/明朝体][/太字]
[明朝体][太字][大文字]「何かあっても急がなくていいです」
[/大文字][/太字][/明朝体]
鬼灯が、
鼻で小さく笑う。
「甘いな」
風白先生は、
それを否定もしない。
◇
「先生」
私が言う。
「二学期も…」
「ええ」
即答だった。
「図書室は、使って構いません」
「ただし」
少しだけ、真剣になる。
「神谷さん」
「全部を背負わないこと
困ったら、休むこと」
私は、
しっかり頷いた。
「約束します」
風白先生は、
それで十分だというように微笑んだ。
◇
帰り道。
校門の前で、
悪魔たちは別れの準備をする。
「じゃあね」
雷が手を振る。
「夏、ちゃんと休めよー」
「九月に」
ポラリスが言う。
「また、星の話しよう」
スーラは、
少しだけ近づいてきて。
「…忘れないで」
「忘れません」
そう答えると、
スーラは安心したように消えた。
◇
残ったのは、
人間と、先生。
夕焼けが、
校門を赤く染めている。
「静かになりますね」
私が言う。
風白先生は、
空を見上げた。
「静かな時間も、
大切ですよ
考えるための」
休むための」
私は、
その言葉を胸に刻む。
「神谷さん」
「はい」
「二学期も」
先生は、変わらない距離で言う。
「私は、ここにいます」
それ以上は、言わない。
見ない。
聞かない。
でも、いなくならない。
雷の声が、
小さく耳元で響く。
「…ねぇ」
「この人さ」
「うん」
「見えてないフリで、
全部守ってる」
私は、
否定しなかった。
◇
一学期は、終わった。
何でも屋は、
一度、静かになる。
悪魔は帰る。
人間は日常に戻る。
でも―
考える場所は、消えない。
風白先生は、
最後まで振り返らず、
それでも確かに、
見送っていた。
終業式の日。
体育館は、
湿った空気と眠気で満ちていた。
校長先生の話は長く、
途中から誰も聞いていない。
それでも―
[太字][大文字]「一学期が終わる」
[/大文字][/太字]という事実だけは、
全員に平等に降りてくる。
終業式が終わると、
校内は一気に夏の空気になる。
廊下には笑い声。
体育館の湿気は、
もう誰も気にしていない。
◇
図書室に戻ると、
いつものメンバーが集まっていた。
「じゃあ」
私は、
一度、
全員を見渡して言った。
「一学期の活動は、ここまでです」
雷が、
ぴょん、と跳ねる。
「夏休みー!
…と言いたいところだけど」
Affectusが、
くるりと回る。
「ボクら、帰省ダ」
「魔界に」
ファイヤー・ルビーが、
一瞬固まる。
「…は?」
「悪魔はね」
雷が、指を立てる。
「長期間、人間界に居ると」
「魔力、薄まるの」
ポラリスが、
だるそうに頷く。
「夏は特に
星の流れ、変わるし」
鬼灯が、
腕を組む。
「妾は、魔界で訓練だ
怠ける気はない」
スーラが、
小さく手を挙げる。
「…スーラも
おうち、帰る」
「永遠の9歳でも、帰省はあるんだね」
神田先輩が、
真顔で言う。
スーラは、
こくりと頷いた。
「つまり」
ファイヤー・ルビーが、整理する。
「夏休み中は」
「会えない?」
「基本的には」
私は、答える。
「完全に、別行動です」
神田先輩が、
少し笑った。
「何でも屋、長期休業か」
「はい」
「ただし――」
私は、
最後に付け加える。
[大文字][明朝体][斜体]「[太字]終わった[/太字]わけじゃありません」
[/斜体][/明朝体][/大文字]
かっこよくシメられた!
と心のなかでガッツポーズを決めていたが、
次の一声で、
それがガラガラと崩れた。
◇
「神谷さん」
その声で、
全員が振り向いた。
入口に立っていたのは、
風白先生だった。
白いシャツ。
いつもと変わらない、
穏やかな表情。
「そろそろ下校の時間ですよ」
雷が、
一瞬だけ姿勢を正す。
「はーい、先生」
風白先生は、
雷の声が聞こえていないはずなのに、
なぜか少しだけ、
空間を避けて歩いた。
偶然、
というには綺麗すぎる動き。
でも―
視線は、誰にも向けない。
「皆さん」
先生は、
円になった椅子を見て言う。
「一学期、お疲れさまでした」
一人ずつ、
[太字]さん付け[/太字]で。
「神田さん」
「ファイヤー・ルビーさん」
「神谷さん」
悪魔も、人も、
分け隔てなく。
「夏休みは」
先生は、
少しだけ声を和らげる。
[太字][明朝体][大文字]「無理をしないでください」
[/大文字][/明朝体][/太字]
[明朝体][太字][大文字]「何かあっても急がなくていいです」
[/大文字][/太字][/明朝体]
鬼灯が、
鼻で小さく笑う。
「甘いな」
風白先生は、
それを否定もしない。
◇
「先生」
私が言う。
「二学期も…」
「ええ」
即答だった。
「図書室は、使って構いません」
「ただし」
少しだけ、真剣になる。
「神谷さん」
「全部を背負わないこと
困ったら、休むこと」
私は、
しっかり頷いた。
「約束します」
風白先生は、
それで十分だというように微笑んだ。
◇
帰り道。
校門の前で、
悪魔たちは別れの準備をする。
「じゃあね」
雷が手を振る。
「夏、ちゃんと休めよー」
「九月に」
ポラリスが言う。
「また、星の話しよう」
スーラは、
少しだけ近づいてきて。
「…忘れないで」
「忘れません」
そう答えると、
スーラは安心したように消えた。
◇
残ったのは、
人間と、先生。
夕焼けが、
校門を赤く染めている。
「静かになりますね」
私が言う。
風白先生は、
空を見上げた。
「静かな時間も、
大切ですよ
考えるための」
休むための」
私は、
その言葉を胸に刻む。
「神谷さん」
「はい」
「二学期も」
先生は、変わらない距離で言う。
「私は、ここにいます」
それ以上は、言わない。
見ない。
聞かない。
でも、いなくならない。
雷の声が、
小さく耳元で響く。
「…ねぇ」
「この人さ」
「うん」
「見えてないフリで、
全部守ってる」
私は、
否定しなかった。
◇
一学期は、終わった。
何でも屋は、
一度、静かになる。
悪魔は帰る。
人間は日常に戻る。
でも―
考える場所は、消えない。
風白先生は、
最後まで振り返らず、
それでも確かに、
見送っていた。