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【リクエストOK】流行(もちろん曲とかも)知らない人の曲パロ

#2

【かくれんぼ】もう…いいよ

雨の気配だけが、ずっと空に残っていた。

降りそうで降らない夜だった。

湿った風が高架下を抜けて、終電前の駅に冷たく流れ込む。
ホームに並ぶ人たちは皆、疲れ切った顔をしてスマホを見ていた。
誰とも目を合わせないまま、一日を終わらせようとしている。

その空気が、妙に好きだった。

都会には時々、誰にも期待されない静けさがある。

私はそれを知っている。

 

改札を抜けたところで、スマホが震えた。

短い通知音。

画面には、名前だけ。

 

[斜体][太字]——《今どこ?》
[/太字][/斜体]
 

たったそれだけのメッセージ。

句読点もない。

相変わらずだな、と思った。

私は立ち止まったまま数秒考えて、それから返信を打つ。

 

[太字][斜体]《駅》
[/斜体][/太字]
 

送信してすぐ、既読がつく。

 

[斜体][太字]《いた》
[/太字][/斜体]
 

その直後、背後から声がした。

「ほんとにいた」

 

振り返る。

黒いコート。
無造作な髪。
少し眠たそうな目。

三年ぶりだった。

 

「……なにそれ」

思わず笑うと、彼も小さく笑った。

「いや、お前って急にいなくなるから」

「そっちでしょ」

「俺はちゃんといるよ」

「連絡返さないくせに」

「生きてる確認はできるじゃん」

「最低限すぎる」

 

他愛もない会話だった。

なのに、胸の奥が妙に静かになる。

たぶん私は、この空気を覚えていた。

 

彼とは、昔付き合っていた。

“昔”と言うには長すぎて、“今”と言うには曖昧な関係。

最初は恋人だった。

ちゃんと好きだと言われたし、私も好きだった。

でも年月が経つにつれて、関係は少しずつ形を失っていった。

仕事が忙しくなって。

会う頻度が減って。

連絡が途切れて。

久しぶりに会っても、前みたいに未来の話をしなくなった。

 

別れ話はしなかった。

自然消滅、というやつだったのだと思う。

東京にはそういう終わり方がよく似合う。

 

それでも、彼は時々戻ってきた。

忘れた頃に連絡をしてきて、何事もなかったみたいに「飯行く?」と言う。

私は毎回無視しようとして、結局返信してしまう。

 

自分でも呆れるくらい、終わりきれなかった。

 

「飲む?」

彼がコンビニ袋を軽く持ち上げる。

中には缶コーヒーが二本入っていた。

「最初から誘う気だったんだ」

「まあね」

「断ったら?」

「それでも来てた」

「怖」

 

彼は笑いながら一本を差し出す。

缶の冷たさが手に馴染んだ。

 

ホームの端にあるベンチへ移動する。

終電前の駅は、不思議と時間が遅い。

アナウンスが遠く響いて、電車のライトが時々線路を流れていく。

 

「仕事は」

彼が訊く。

「普通。そっちは」

「普通」

「絶対嘘」

「なんで」

「普通な人は深夜に突然呼び出さない」

「会いたかったんだよ」

 

あまりにも自然に言うから、返事に困る。

昔からそうだった。

彼は大事なことを、冗談みたいに言う。

だから本気なのか逃げなのか分からない。

 

「……何かあった?」

訊くと、彼は少しだけ黙った。

視線を線路へ向けたまま、缶コーヒーを揺らす。

その沈黙に、胸がざわつく。

 

「あー……」

彼は小さく息を吐いた。

「転勤」

「え」

「来月」

「どこ」

「仙台」

 

思ったより遠かった。

私は「へえ」とだけ返す。

それ以上の言葉が出なかった。

 

彼は昔から、突然どこかへ行く人だった。

大学時代も、卒業旅行だと言って一ヶ月東南アジアを放浪したり、仕事を辞めて海外へ行ったり。

気づけばいなくなっている。

でも、ふと戻ってくる。

まるで渡り鳥みたいに。

 

「いつ決まったの」

「結構前」

「なんで今言うの」

「今会ったから」

「連絡くらいできたでしょ」

「できたね」

「……腹立つ」

 

彼は笑った。

悪びれもなく。

その顔を見ていると、怒っている自分が馬鹿みたいになる。

 

沈黙が落ちる。

ホームを風が抜けた。

遠くで誰かの咳が聞こえる。

 

「そういえばさ」

彼が突然言う。

「昔、かくれんぼしたよね」

私は眉を寄せた。

「……いつ」

「終電逃した時」

 

思い出す。

何年も前。

付き合っていた頃。

二人で飲みすぎて終電を逃し、始発まで時間を潰していた夜。

冬だった。

街は静かで、公園には誰もいなかった。

 

彼が突然、「かくれんぼしよう」と言い出したのだ。

 

「意味分かんなかった」

「楽しかったじゃん」

「寒かった記憶しかない」

「お前本気で探してたよね」

「当たり前でしょ」

 

あの日、彼は本当に見つからなかった。

滑り台の裏にもいない。

トイレにもいない。

コンビニにもいない。

十分、二十分。

だんだん腹が立ってきて、帰ろうと思った頃。

 

彼は、公園の外れの自販機の横にいた。

体育座りをして、ぼんやり空を見ていた。

 

「なにしてんの」

「待ってた」

「は?」

「見つけてくれるかなって」

 

その時のことを、なぜか今でも覚えている。

白い息。
自販機の明かり。
真夜中の静かな道路。

 

あの時から、少しだけ思っていた。

この人はたぶん、“いなくなる側”の人間なんだろうと。

 

「お前、あの時泣きそうだった」

彼が笑う。

「寒かったから」

「嘘」

「嘘じゃない」

「俺、ちょっと嬉しかったもん」

「何が」

「ちゃんと探してくれたから」

 

私は返事をしなかった。

できなかった。

 

ホームに電車が滑り込んでくる。

金属音が夜に響く。

 

乗客が降りて、また乗っていく。

その流れを、私たちは黙って見ていた。

 

「……向こう行ったら、戻るの」

「どうだろ」

「曖昧」

「でも東京飽きたんだよね」

 

彼はそう言って笑った。

でもその笑顔は少し薄かった。

 

私は知っている。

彼は、何かを失くした時ほど軽く笑う。

 

「向こうで誰かできるかもね」

冗談っぽく言うと、彼は「かもね」と返した。

その返事が思ったより静かで、胸が少し痛む。

 

昔なら、こんな会話しなかった。

もっと子どもだった。

未来が永遠に続くと思っていた。

別れなんて、自分たちには関係ないと思っていた。

 

でも大人になると、終わりは静かに来る。

前触れもなく。

 

電車の発車ベルが鳴る。

彼が立ち上がった。

「じゃ、乗るわ」

「うん」

「見送り?」

「なんで」

「寂しいかなって」

「自意識過剰」

 

笑い合う。

なのに、どこか息苦しい。

 

彼はドアの前で振り返った。

何か言いかけて、やめる。

昔からそうだった。

一番大事な言葉だけ、いつも飲み込む。

 

ドアが閉まる。

電車が動き出す。

 

窓越しに彼が見える。

ぼやけた光の中で、彼は少しだけ笑っていた。

 

そのまま電車は闇の向こうへ消える。

残ったのは、静かなホームと、冷えた缶コーヒーだけだった。

 

私はしばらく動けなかった。

もう帰ろうと思った時、スマホが震える。

 

彼からだった。

 

[太字][斜体]《もういいかい》
[/斜体][/太字]
 

短い文字。

それだけ。

 

私は画面を見つめたまま、小さく息を吐く。

 

昔のかくれんぼ。

見つけてほしいくせに、隠れるのが上手かった人。

 

ホームの蛍光灯が白く滲む。

雨はまだ降らない。

まるで空まで、何かを迷っているみたいだった。

作者メッセージ

はい、かくれんぼ(AliA様)の曲の曲パロでした!

この曲はですね、ちゃんと最後まで歌えるんですよ!(音痴は別として)
耳コピできたんですよ、ピアノで!(一応マジ)

えっと、とにかくほんとに大好きです、この曲。


ん…?こんなことやってる暇あったら参加型かけって?
う…わ…わかったよ((

ちなみにこれはアナログ執筆をデジタルに書き直したものです笑

では!

2026/06/24 21:49

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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