十二月。
空気が、少しだけ乾いていた。
放課後の廊下を歩く音も、
夏より遠く聞こえる。
図書室の奥― 何でも屋の部室は、
今日も静かだった。
「……暇だねぇ」
雷が、
机に突っ伏したまま言う。
「平和ってことだよ」
私がノートを閉じると、
雷はむくっと顔を上げた。
「それ、 この学校だと逆に怖い」
否定できない。
「それはそうと、今年はいくつプレゼントもらえるかなー?」
……琉々矢先輩……。
いつの間にか増えていた部員その一…って雷がいってたっけ…。
琉々矢先輩――
琉々矢水連先輩はクリスマスが誕生日だから、
クリスマスプレゼントと誕生日プレゼント、
2つ合わせて一つしかもらえないらしい。
「今日は……悪魔の数、少ない……?」
そう言いながら周りを見渡しているのは、
れもんちゃん。
いつの間にか増えていた部員その二……。
なんでも自分の名前がないらしく、
「私…の名前?わかんない…ん~…れもん、れもんにする」
といっていた。
雷も珍しく驚いていた。
「やっほー、れもん」
横からやってきたのは、
いつの間にか増え……この呼び方やめよう。
「えっと……病葉棺…ちゃん……」
病葉棺ちゃんは悪魔なんだけど、
れもんちゃんと契約している。
それで何だけど――棺が契約した人って「不老」になれるらしい。
ホントかどうかはわからないけど。
◇
そのとき。
コンコンコン。
丁寧なノック。
「ど、どうぞ…?」
語尾に疑問符がなぜか付いた。
扉が開く。
入ってきたのはー
目が不安そうな女子生徒。
何かを探しているみたいに、
部屋を見回している。
「……あの」
小さな声。
「ここ、 何でも屋で合ってますか」
「はい」
私が答えると、 彼女は少しだけ安心した顔をした。
でも、 次の瞬間には、 また不安そうに俯く。
「依頼…… したくて」
◇
机を挟んで座る。
雷は、 私の隣で頬杖をついていた。
「それで、 どうしました?」
彼女は、 少し迷ってから口を開く。
「友達が…… いなくなったんです」
空気が、 静かに止まった。
「警察には?」
「まだ……」
「家出とか、 そういう感じでもなくて」
彼女は、 鞄をぎゅっと抱きしめる。
「昨日の放課後まで、 普通だったんです」
「一緒に帰る約束してて」
でも。
「途中で、 いなくなった」
◇
「途中って?」
雷が、 珍しく真面目な声を出す。
「途中っていつですか?」
雷の代わりに聞く。
彼女は、 小さく答えた。
「北校舎の、 三階です」
その瞬間。
雷の目が、 細くなる。
◇
北校舎三階。
そこは、 今はほとんど使われていない。
昔の特別教室が並んでいて、 放課後になると人通りも減る。
「そこで、 はぐれたんですか?」
「はい」
「先に曲がったはずなのに、 いなくて」
スマホにも、 連絡はつかない。
先生たちも、 今朝から探しているらしい。
でも。
「なんか…… 変なんです」
彼女は、 震える声で言った。
「みんな、 ちゃんと探してるのに」
「だんだん、 “そんな子いたっけ” みたいになってて……」
ぞくり、 とした。
◇
雷が、 小さく舌打ちする。
「……嫌な感じ」
「悪魔?」
私が聞くと、 雷はすぐには答えなかった。
代わりに。
「名前」
「え?」
「消えた子の名前」
⋯⋯。
真剣そうな問いに、慌てて聞く。
「消えた子の名前って、なんですか?」
彼女は、 すぐに答えようとして。
――止まった。
「あれ……」
顔が青くなる。
「え…… ちょっと待って」
口は動いている。
でも、 音にならない。
思い出せない。
さっきまで、 話していたはずなのに。
◇
「……やば」
雷が、 低く呟く。
その声は、 冗談じゃなかった。
◇
そのとき。
「失礼します」
穏やかな声。
振り向くと、 風白先生が立っていた。
いつもの静かな目。
「神谷さん、 部活の書類を――」
そこで、 言葉が止まる。
先生の視線が、 依頼人へ向いた。
「……どうかしましたか」
女子生徒は、 泣きそうな顔で言った。
「友達が…… いなくなったんです」
先生は、 静かに聞いている。
否定しない。 驚かない。
ただ、 続きを待つ。
◇
「名前が…… 思い出せなくて……」
その瞬間。
ほんの一瞬だけ。
風白先生の表情から、 感情が抜けた。
空白。
本当に、 一瞬だけ。
でも、 私は見てしまった。
◇
「……そうですか」
先生は、 静かに言った。
「最後に見た場所は?」
「北校舎の…… 三階です」
その答えに、 先生は目を伏せた。
まるで、 何かを確認するみたいに。
◇
「神谷さん」
穏やかな声。
でも、 少しだけ低い。
「今日は、 あまり遅くならないように」
「……え?」
「北校舎は、 現在ほとんど使用されていません」
「暗くなると、 迷いやすいので」
普通の言葉。
普通の、 注意。
でも。
雷が、 ぴくりとも動かない。
◇
依頼人が帰ったあと。
部屋は、 しばらく静かだった。
やがて。
「……先生」
私が口を開く。
「……何か、 知ってますよね」
風白先生は、 否定しなかった。
ただ。
「神谷さん」
静かな声。
「“見つからないもの”には、 近づきすぎない方がいいです」
それだけ言った。
◇
先生が去ったあと。
雷が、 ゆっくり息を吐く。
「……最悪」
「そんなに?」
「うん」
雷は、 珍しく笑っていなかった。
「“消える”系だ」
◇
窓の外。
夕暮れが、 校舎を暗く染めていく。
北校舎。
三階。
使われていない廊下。
そして、 思い出せない名前。
私は、 依頼書の空欄を見つめた。
依頼対象: 『行方不明の生徒を探してほしい』
その下。
行方不明の名前を書く欄だけが、 どうしても埋められなかった。
◇
その夜。
誰もいない北校舎。
古い廊下を、 風が抜ける。
――ことり。
どこかで、 足音がした。
「……あれ?」
小さな声。
制服姿の少女が、 廊下の奥に立っている。
「わたし…… 何してたんだっけ」
首を傾げる。
それから、 ゆっくり振り向いた。
廊下の先。
“まだ続いているはずのない校舎”が、 暗闇の中へ伸びていた。
少女は、 ためらいもなく、 その奥へ歩いていく。
まるで。
帰る場所を、 思い出したみたいに。
空気が、少しだけ乾いていた。
放課後の廊下を歩く音も、
夏より遠く聞こえる。
図書室の奥― 何でも屋の部室は、
今日も静かだった。
「……暇だねぇ」
雷が、
机に突っ伏したまま言う。
「平和ってことだよ」
私がノートを閉じると、
雷はむくっと顔を上げた。
「それ、 この学校だと逆に怖い」
否定できない。
「それはそうと、今年はいくつプレゼントもらえるかなー?」
……琉々矢先輩……。
いつの間にか増えていた部員その一…って雷がいってたっけ…。
琉々矢先輩――
琉々矢水連先輩はクリスマスが誕生日だから、
クリスマスプレゼントと誕生日プレゼント、
2つ合わせて一つしかもらえないらしい。
「今日は……悪魔の数、少ない……?」
そう言いながら周りを見渡しているのは、
れもんちゃん。
いつの間にか増えていた部員その二……。
なんでも自分の名前がないらしく、
「私…の名前?わかんない…ん~…れもん、れもんにする」
といっていた。
雷も珍しく驚いていた。
「やっほー、れもん」
横からやってきたのは、
いつの間にか増え……この呼び方やめよう。
「えっと……病葉棺…ちゃん……」
病葉棺ちゃんは悪魔なんだけど、
れもんちゃんと契約している。
それで何だけど――棺が契約した人って「不老」になれるらしい。
ホントかどうかはわからないけど。
◇
そのとき。
コンコンコン。
丁寧なノック。
「ど、どうぞ…?」
語尾に疑問符がなぜか付いた。
扉が開く。
入ってきたのはー
目が不安そうな女子生徒。
何かを探しているみたいに、
部屋を見回している。
「……あの」
小さな声。
「ここ、 何でも屋で合ってますか」
「はい」
私が答えると、 彼女は少しだけ安心した顔をした。
でも、 次の瞬間には、 また不安そうに俯く。
「依頼…… したくて」
◇
机を挟んで座る。
雷は、 私の隣で頬杖をついていた。
「それで、 どうしました?」
彼女は、 少し迷ってから口を開く。
「友達が…… いなくなったんです」
空気が、 静かに止まった。
「警察には?」
「まだ……」
「家出とか、 そういう感じでもなくて」
彼女は、 鞄をぎゅっと抱きしめる。
「昨日の放課後まで、 普通だったんです」
「一緒に帰る約束してて」
でも。
「途中で、 いなくなった」
◇
「途中って?」
雷が、 珍しく真面目な声を出す。
「途中っていつですか?」
雷の代わりに聞く。
彼女は、 小さく答えた。
「北校舎の、 三階です」
その瞬間。
雷の目が、 細くなる。
◇
北校舎三階。
そこは、 今はほとんど使われていない。
昔の特別教室が並んでいて、 放課後になると人通りも減る。
「そこで、 はぐれたんですか?」
「はい」
「先に曲がったはずなのに、 いなくて」
スマホにも、 連絡はつかない。
先生たちも、 今朝から探しているらしい。
でも。
「なんか…… 変なんです」
彼女は、 震える声で言った。
「みんな、 ちゃんと探してるのに」
「だんだん、 “そんな子いたっけ” みたいになってて……」
ぞくり、 とした。
◇
雷が、 小さく舌打ちする。
「……嫌な感じ」
「悪魔?」
私が聞くと、 雷はすぐには答えなかった。
代わりに。
「名前」
「え?」
「消えた子の名前」
⋯⋯。
真剣そうな問いに、慌てて聞く。
「消えた子の名前って、なんですか?」
彼女は、 すぐに答えようとして。
――止まった。
「あれ……」
顔が青くなる。
「え…… ちょっと待って」
口は動いている。
でも、 音にならない。
思い出せない。
さっきまで、 話していたはずなのに。
◇
「……やば」
雷が、 低く呟く。
その声は、 冗談じゃなかった。
◇
そのとき。
「失礼します」
穏やかな声。
振り向くと、 風白先生が立っていた。
いつもの静かな目。
「神谷さん、 部活の書類を――」
そこで、 言葉が止まる。
先生の視線が、 依頼人へ向いた。
「……どうかしましたか」
女子生徒は、 泣きそうな顔で言った。
「友達が…… いなくなったんです」
先生は、 静かに聞いている。
否定しない。 驚かない。
ただ、 続きを待つ。
◇
「名前が…… 思い出せなくて……」
その瞬間。
ほんの一瞬だけ。
風白先生の表情から、 感情が抜けた。
空白。
本当に、 一瞬だけ。
でも、 私は見てしまった。
◇
「……そうですか」
先生は、 静かに言った。
「最後に見た場所は?」
「北校舎の…… 三階です」
その答えに、 先生は目を伏せた。
まるで、 何かを確認するみたいに。
◇
「神谷さん」
穏やかな声。
でも、 少しだけ低い。
「今日は、 あまり遅くならないように」
「……え?」
「北校舎は、 現在ほとんど使用されていません」
「暗くなると、 迷いやすいので」
普通の言葉。
普通の、 注意。
でも。
雷が、 ぴくりとも動かない。
◇
依頼人が帰ったあと。
部屋は、 しばらく静かだった。
やがて。
「……先生」
私が口を開く。
「……何か、 知ってますよね」
風白先生は、 否定しなかった。
ただ。
「神谷さん」
静かな声。
「“見つからないもの”には、 近づきすぎない方がいいです」
それだけ言った。
◇
先生が去ったあと。
雷が、 ゆっくり息を吐く。
「……最悪」
「そんなに?」
「うん」
雷は、 珍しく笑っていなかった。
「“消える”系だ」
◇
窓の外。
夕暮れが、 校舎を暗く染めていく。
北校舎。
三階。
使われていない廊下。
そして、 思い出せない名前。
私は、 依頼書の空欄を見つめた。
依頼対象: 『行方不明の生徒を探してほしい』
その下。
行方不明の名前を書く欄だけが、 どうしても埋められなかった。
◇
その夜。
誰もいない北校舎。
古い廊下を、 風が抜ける。
――ことり。
どこかで、 足音がした。
「……あれ?」
小さな声。
制服姿の少女が、 廊下の奥に立っている。
「わたし…… 何してたんだっけ」
首を傾げる。
それから、 ゆっくり振り向いた。
廊下の先。
“まだ続いているはずのない校舎”が、 暗闇の中へ伸びていた。
少女は、 ためらいもなく、 その奥へ歩いていく。
まるで。
帰る場所を、 思い出したみたいに。
- 1.先生が声を出して。
- 2.契約シマセンカ?
- 3.優シイ先生ノ協力デ活動開始シマス
- 4.契約ナキ悪魔タチ
- 5.新しい歯車が、静かに噛み合い始める
- 6.試験と、噂の始まり。 ―それは、助ける覚悟があるかを見る試験
- 7.―星が軽くするもの
- 8.風が変わる前に悪魔、夏休みへ帰る
- 9.魔界の夏日記
- 10.タクサン人ガ増エマシタ。
- 11.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 前編
- 12.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 後編
- 13.部員、増エマシタ
- 14.準備トイウ名ノ、予兆―
- 15.迷子ガ増エル日
- 16.昼ノ、普通
- 17.夜ハ、静カニ壊レル
- 18.先生ハ、気ヅカセナイ―
- 19.点数の裏側
- 20.冬になる前に
- 21.零点ノ居場所
- 22.消エタ生徒