夜の街は静かだった。
うるさいはずの信号の音も、
今日は遠くて、
まるで夢の中みたい。
…なのに。
「…ッ」
胸の奥が、
ぎゅっと縮む。
息を吸おうとすると、
うまくいかない。
だいじょぶ。
だいじょぶだよ、
ゆめ。
明るく言えば、
体もちゃんと、
言うことを聞いてくれるはず。
そう思って顔を上げたとき、
光が見えた。
星みたいな、
小さなランプ。
「…なに、ここ」
裏道の先。
来た覚えのない場所。
でも、
怖くはなかった。
むしろ、ここなら―
[太字][明朝体][大文字]少し、座ってもいい気がした。
[/大文字][/明朝体][/太字]
カラン。
鈴の音が鳴った瞬間、
胸の苦しさが、
ほんの少しだけ引いた。
店の中は、
あったかい。
夜の冷たさが、
嘘みたい。
壁には星の絵。
時計はあるのに、
時間が動いてないみたい。
カウンターの向こうにいる人が、
こっちを見て、
静かに言った。
「こんにちは。いらっしゃいませ」
「よろしくね! ゆめだよ!」
いつもの調子で、
笑う。
「神谷ゆめ。蠍座!」
ちゃんと言えた。
ちゃんと、
明るい。
差し出された紅茶は、
見た目より、
ずっと甘い匂いがした。
一口飲んで、
思わず目を開く。
「…甘い」
砂糖、入ってないのに。
でも、ちゃんと甘い。
「うち、甘いの好きなんだ」
カップを両手で持つ。
あったかい。
…なのに。
「…ねえ」
声が、少しだけ小さくなる。
「うちさ、皆と仲良くしたいだけなんだよ」
笑顔は、
[太字][大文字][明朝体]崩さない。
[/明朝体][/大文字][/太字]
「怒らせたくないし、
悲しませたくもないし」
胸の奥が、
また、きゅっとする。
「だから、明るくするの。
ちゃんと、いい子でいる」
言葉にした瞬間、
昔の空気が、
少しだけよみがえる。
息が―
「…っ」
カップを強く握る。
「急にね、思い出すとさ…
息、できなくなるんだ」
それ以上は、
言えなかった。
言わなくてもいい気がした。
ここでは。
[大文字]♋[/大文字]
マスターは、
目の前の少女を静かに見ていた。
明るい声。
よく練習された笑顔。
けれど、
紅茶を持つ指先だけが、
ほんのわずかに震えている。
この店が見つけられた理由は、
もう十分だった。
マスターは、
何も問い返さない。
ただ、
カップを温め直す。
[太字][大文字][明朝体]「蠍座は、
感情を深く沈める星です」[/明朝体][/大文字][/太字]
少女は首をかしげた。
「うち、
明るいよ?」
その言葉に、
マスターは小さく頷く。
「ええ。とても」
だからこそ、と
心の中で続ける。
だからこそ、
痛みは底に沈んだままなのだ。
「…じゃあさ」
少女は、小さく笑った。
「苦しくなるのって、
うちが弱いからじゃないんだ」
「はい」
答えは、
短く。
「生きるために、
やさしさを選んできた結果です」
紅茶を飲み干す音。
甘さが、静かに消えていく。
「…また、来てもいい?」
「ええ」
マスターは、
はっきりと言う。
「扉は、あなたを覚えています」
カラン。
扉が閉まる。
星図の壁に、
深く、
濃い線が一本、刻まれた。
乙女座の線のさらに奥、
感情を受け止める位置に。
マスターは、それを見つめる。
[大文字][明朝体][太字]「明るさは、
強さの一種です」[/太字][/明朝体][/大文字]
ランプの光が、わずかに揺れた。
夜は、まだ深い。
次の星もまた、
静かに、息を整えているところだ。
うるさいはずの信号の音も、
今日は遠くて、
まるで夢の中みたい。
…なのに。
「…ッ」
胸の奥が、
ぎゅっと縮む。
息を吸おうとすると、
うまくいかない。
だいじょぶ。
だいじょぶだよ、
ゆめ。
明るく言えば、
体もちゃんと、
言うことを聞いてくれるはず。
そう思って顔を上げたとき、
光が見えた。
星みたいな、
小さなランプ。
「…なに、ここ」
裏道の先。
来た覚えのない場所。
でも、
怖くはなかった。
むしろ、ここなら―
[太字][明朝体][大文字]少し、座ってもいい気がした。
[/大文字][/明朝体][/太字]
カラン。
鈴の音が鳴った瞬間、
胸の苦しさが、
ほんの少しだけ引いた。
店の中は、
あったかい。
夜の冷たさが、
嘘みたい。
壁には星の絵。
時計はあるのに、
時間が動いてないみたい。
カウンターの向こうにいる人が、
こっちを見て、
静かに言った。
「こんにちは。いらっしゃいませ」
「よろしくね! ゆめだよ!」
いつもの調子で、
笑う。
「神谷ゆめ。蠍座!」
ちゃんと言えた。
ちゃんと、
明るい。
差し出された紅茶は、
見た目より、
ずっと甘い匂いがした。
一口飲んで、
思わず目を開く。
「…甘い」
砂糖、入ってないのに。
でも、ちゃんと甘い。
「うち、甘いの好きなんだ」
カップを両手で持つ。
あったかい。
…なのに。
「…ねえ」
声が、少しだけ小さくなる。
「うちさ、皆と仲良くしたいだけなんだよ」
笑顔は、
[太字][大文字][明朝体]崩さない。
[/明朝体][/大文字][/太字]
「怒らせたくないし、
悲しませたくもないし」
胸の奥が、
また、きゅっとする。
「だから、明るくするの。
ちゃんと、いい子でいる」
言葉にした瞬間、
昔の空気が、
少しだけよみがえる。
息が―
「…っ」
カップを強く握る。
「急にね、思い出すとさ…
息、できなくなるんだ」
それ以上は、
言えなかった。
言わなくてもいい気がした。
ここでは。
[大文字]♋[/大文字]
マスターは、
目の前の少女を静かに見ていた。
明るい声。
よく練習された笑顔。
けれど、
紅茶を持つ指先だけが、
ほんのわずかに震えている。
この店が見つけられた理由は、
もう十分だった。
マスターは、
何も問い返さない。
ただ、
カップを温め直す。
[太字][大文字][明朝体]「蠍座は、
感情を深く沈める星です」[/明朝体][/大文字][/太字]
少女は首をかしげた。
「うち、
明るいよ?」
その言葉に、
マスターは小さく頷く。
「ええ。とても」
だからこそ、と
心の中で続ける。
だからこそ、
痛みは底に沈んだままなのだ。
「…じゃあさ」
少女は、小さく笑った。
「苦しくなるのって、
うちが弱いからじゃないんだ」
「はい」
答えは、
短く。
「生きるために、
やさしさを選んできた結果です」
紅茶を飲み干す音。
甘さが、静かに消えていく。
「…また、来てもいい?」
「ええ」
マスターは、
はっきりと言う。
「扉は、あなたを覚えています」
カラン。
扉が閉まる。
星図の壁に、
深く、
濃い線が一本、刻まれた。
乙女座の線のさらに奥、
感情を受け止める位置に。
マスターは、それを見つめる。
[大文字][明朝体][太字]「明るさは、
強さの一種です」[/太字][/明朝体][/大文字]
ランプの光が、わずかに揺れた。
夜は、まだ深い。
次の星もまた、
静かに、息を整えているところだ。
- 1.ティータイムの始まり。
- 2.乙女座 やさしく、つよくなれなくて。
- 3.蟹座 甘さの奥で、息を止めてきた
- 4.牡牛座 余裕の仮面と、足りない甘さ
- 5.山羊座 ゆっくりでいいと、知らなかった
- 6.双子座 言葉が二つに割れたまま
- 7.天秤座 言葉を量る、沈黙の重さは。
- 8.獅子座 微笑みの奥で、拳を握るひと
- 9.射手座 遠くを願い、声を置いてきた
- 10.水瓶座 笑っているあいだは、自由でいられた
- 11.牡羊座 引き受ける勇気と、静かな覚悟
- 12.魚座 仮の笑顔と振り返ってしまったこと
- 13.蟹座 信じられなかった手の、ぬくもりを思い出すまで
- 14.宇宙という名の空を結びに。
- 15.蛇遣い座 13番目になれなくて。
- 16.第二期 惑星たちの夜
- 17.金星 一行の本音は、金星に預けて
- 18.土星 抱え込めてしまった者は、零れ方を知らない
- 19.天王星 光を残す星