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マッドサイエンティスト

彼の名前は、
すでに歴史から削除されている。


論文はすべて撤回され、
所属していた研究機関も彼の存在を否定した。

だが、
それは「何も成し得なかった者」に対する扱いではない。
むしろ逆だ。

――あまりにも成し過ぎた者に対する、
徹底した消去だった。

彼は、人を作った。


それは比喩ではない。
クローンでも、
人工知能でもない。

細胞から設計され、
意識を持ち、
自ら考え、
感じる“完全な人間”を、
ゼロから創り出したのだ。


最初の記録は、
ひどく冷静だった。


[明朝体]     被験体Aは自律的な呼吸を開始。
     神経反応正常。
     感情の兆候は未確認。[/明朝体]


だが、
その数日後の記録には、
わずかな揺らぎがある。

[明朝体]     被験体Aは「寒い」と発言。
     環境温度は一定。
     主観的感覚の発生を確認。[/明朝体]


そして一ヶ月後――


[明朝体]     被験体Aは夢を見たと報告。
     「見たことのない風景」と述べる。[/明朝体]


彼はその一文の前で、
長い時間ペンを止めていた。

夢。
つまりそれは、
経験していないはずの記憶のようなもの。
どこから来たのか分からない“内側の世界”。

彼はそこで初めて、
自分の行為にわずかな疑問を抱いた。



[明朝体]「私は、[太字]何[/太字]を作った?」[/明朝体]

被験体Aは成長した。
知識を学び、
言葉を覚え、
笑うようになった。
怒ることもあった。


ある日、
Aは彼に尋ねた。

「私は、どこから来たの?」

彼は答えなかった。

答えられなかったのだ。


「あなたが作ったの?」と続けて問われたとき、
彼は初めて恐怖を覚えた。

それは、
倫理でも社会でもない。


[大文字]“責任”[/大文字]という、逃げ場のない概念だった。


彼は神になろうとしたわけではない。
ただ、
生命の仕組みを解き明かし、
その延長として“再現”したに過ぎない。

だが結果として生まれたものは、
単なる現象ではなく、
“誰か”だった。


ある夜、
研究室の監視カメラには、
奇妙な映像が残されている。

Aが、
眠っている彼をじっと見つめている。

長い沈黙のあと、
Aは小さく呟いた。

「あなたも、誰かに作られたの?」

その言葉に、
答える者はいなかった。




最終記録は、
手書きで残されている。


     [明朝体]被験体Aは自律的に施設を離脱。
     追跡は行わない。
     彼(あるいは彼女)は、
     もはや“被験体”ではない。
     私は創造者ではなかった。
     ただ、
     扉を開けただけだ。[/明朝体]


その後、
彼の行方は分からない。

だが世界のどこかで、
「生まれた理由を知らない人間」がもう一人、
静かに生きている。

そして時折、
こう考えるのだ。

――自分は、
[明朝体]本当に“最初の人間”ではないのかもしれない、[/明朝体]
と。

作者メッセージ

久しぶりに読切書いたらツマンナイやつが…

あ、この後詩は投稿します!

では!

2026/04/18 19:09

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