夜の街は、
眠らないと言われながらも、
深夜を過ぎると不思議な静けさをまとい始める。
人影の消えた通り、
シャッターの下りた店先、
遠くで鳴る信号音さえ、
どこか夢の中の出来事のように感じられる時間帯。
そんな夜更け、一本裏道に入った先に―
地図にも記憶にも残らない、
小さな喫茶店がひっそりと現れる。
外観は古く、
流行とは無縁だ。
木製の扉は長い年月に磨かれ、
取っ手には無数の人の手の温度が染み込んでいる。
扉の上には看板もなく、
ただ一つ、
星の欠片のようなランプが淡く揺れているだけ。
それでも、
この店を必要とする者には、不思議と見つけられてしまう。
喫茶店を訪れる客は、
決して同時に重ならない。
星の巡りに導かれるように、
星座の名を持つ人々が、
一人ずつ、
その扉を開くのだ。
彼らは皆、
違う人生を歩み、
違う景色を見てきた。
成功も、
挫折も、
選ばなかった未来も、
それぞれの胸にしまい込んでいる。
共通しているのは、
[太字][明朝体]誰にも言えなかった想いを抱えていることだけ。
[/明朝体][/太字]
カラン
と鈴が鳴る。
それは、
次の物語が始まる合図。
店内は外の暗さとは対照的に、
柔らかな光に満ちている。
壁には星図のような模様が描かれ、
時計はあるのに、
針の進みは曖昧だ。
ここでは、
現実の時間が少しだけ、
遠慮しているらしい。
カウンターの向こうで、
マスターが静かに湯を沸かす。
白い湯気が立ち上り、
夜の冷えた空気をほどいていく。
[明朝体]「こんにちは。いらっしゃいませ」
[/明朝体]
穏やかな声には、
年齢も感情も読み取れない。
マスターは名を名乗らない。
必要なのは、
星座の名と―語る覚悟だけ。
差し出される紅茶は、
毎回違う。
花の香りがすることもあれば、
どこか懐かしい苦みを残すこともある。
それは偶然ではなく、
その人の心が選んだ味なのだと言われている。
紅茶を一口飲めば、
張りつめていた心が、
ゆっくりとほどけていく。
言葉にならなかった想いが、
自然と唇からこぼれ落ちる。
語られるのは、
失ったもの。
叶わなかった夢。
それでも手放さなかった想い。
その一つひとつは、
夜に溶けて消えるわけではない。
マスターはただ、
黙って聞き、
時折カップを温め直すだけだ。
けれど、
不思議なことに、
その言葉たちは次の来客へと、
静かにつながっていく。
まるで星座が、
点から線へ、
線から物語へと姿を変えていくように。
十二の星が巡り終えたとき、
最後の客が紅茶を飲み干したとき、
この喫茶店が、誰のために存在していたのかが、
静かに明かされる。
それまではただ、
夜の街の片隅で。
一杯の紅茶と、
語られなかった心を待ち続けている。
「…さて」
マスターはカウンターの奥で微笑む。
「今宵、最初のお客さまですね。
悩み事は、ございますか?」
扉の向こうで、
星がひとつ、瞬いた。
眠らないと言われながらも、
深夜を過ぎると不思議な静けさをまとい始める。
人影の消えた通り、
シャッターの下りた店先、
遠くで鳴る信号音さえ、
どこか夢の中の出来事のように感じられる時間帯。
そんな夜更け、一本裏道に入った先に―
地図にも記憶にも残らない、
小さな喫茶店がひっそりと現れる。
外観は古く、
流行とは無縁だ。
木製の扉は長い年月に磨かれ、
取っ手には無数の人の手の温度が染み込んでいる。
扉の上には看板もなく、
ただ一つ、
星の欠片のようなランプが淡く揺れているだけ。
それでも、
この店を必要とする者には、不思議と見つけられてしまう。
喫茶店を訪れる客は、
決して同時に重ならない。
星の巡りに導かれるように、
星座の名を持つ人々が、
一人ずつ、
その扉を開くのだ。
彼らは皆、
違う人生を歩み、
違う景色を見てきた。
成功も、
挫折も、
選ばなかった未来も、
それぞれの胸にしまい込んでいる。
共通しているのは、
[太字][明朝体]誰にも言えなかった想いを抱えていることだけ。
[/明朝体][/太字]
カラン
と鈴が鳴る。
それは、
次の物語が始まる合図。
店内は外の暗さとは対照的に、
柔らかな光に満ちている。
壁には星図のような模様が描かれ、
時計はあるのに、
針の進みは曖昧だ。
ここでは、
現実の時間が少しだけ、
遠慮しているらしい。
カウンターの向こうで、
マスターが静かに湯を沸かす。
白い湯気が立ち上り、
夜の冷えた空気をほどいていく。
[明朝体]「こんにちは。いらっしゃいませ」
[/明朝体]
穏やかな声には、
年齢も感情も読み取れない。
マスターは名を名乗らない。
必要なのは、
星座の名と―語る覚悟だけ。
差し出される紅茶は、
毎回違う。
花の香りがすることもあれば、
どこか懐かしい苦みを残すこともある。
それは偶然ではなく、
その人の心が選んだ味なのだと言われている。
紅茶を一口飲めば、
張りつめていた心が、
ゆっくりとほどけていく。
言葉にならなかった想いが、
自然と唇からこぼれ落ちる。
語られるのは、
失ったもの。
叶わなかった夢。
それでも手放さなかった想い。
その一つひとつは、
夜に溶けて消えるわけではない。
マスターはただ、
黙って聞き、
時折カップを温め直すだけだ。
けれど、
不思議なことに、
その言葉たちは次の来客へと、
静かにつながっていく。
まるで星座が、
点から線へ、
線から物語へと姿を変えていくように。
十二の星が巡り終えたとき、
最後の客が紅茶を飲み干したとき、
この喫茶店が、誰のために存在していたのかが、
静かに明かされる。
それまではただ、
夜の街の片隅で。
一杯の紅茶と、
語られなかった心を待ち続けている。
「…さて」
マスターはカウンターの奥で微笑む。
「今宵、最初のお客さまですね。
悩み事は、ございますか?」
扉の向こうで、
星がひとつ、瞬いた。
- 1.ティータイムの始まり。
- 2.乙女座 やさしく、つよくなれなくて。
- 3.蟹座 甘さの奥で、息を止めてきた
- 4.牡牛座 余裕の仮面と、足りない甘さ
- 5.山羊座 ゆっくりでいいと、知らなかった
- 6.双子座 言葉が二つに割れたまま
- 7.天秤座 言葉を量る、沈黙の重さは。
- 8.獅子座 微笑みの奥で、拳を握るひと
- 9.射手座 遠くを願い、声を置いてきた
- 10.水瓶座 笑っているあいだは、自由でいられた
- 11.牡羊座 引き受ける勇気と、静かな覚悟
- 12.魚座 仮の笑顔と振り返ってしまったこと
- 13.蟹座 信じられなかった手の、ぬくもりを思い出すまで
- 14.宇宙という名の空を結びに。
- 15.蛇遣い座 13番目になれなくて。
- 16.第二期 惑星たちの夜
- 17.金星 一行の本音は、金星に預けて
- 18.土星 抱え込めてしまった者は、零れ方を知らない
- 19.天王星 光を残す星