大型ライブは、最高潮の盛り上がりの最中だった。
ステージに立つみんと、如月、そして終。
三人の偶像が放つ光は、観客席を埋め尽くすペンライトの海に映え、会場全体を染めていた。
しかし、突然、音源が途切れた。
重低音が止まり、華やかな演出の照明が一瞬静止する。
ステージの上の空気が凍る。
「……え?」
みんとの声が、わずかに裏返る。
普段なら笑顔で飛び跳ねる彼女が、ほんの一瞬、焦りの色を見せた。
「ちょっと待って、音が……!」
如月は冷静だった。手をわずかに広げ、動きを止めて空間を支配する。
「大丈夫……落ち着いて。観客を見て」
彼女の声は低く、しかし明確に、舞台上の空気を微かに落ち着かせる。
だが、曲は成立しない。
歌のリズムもダンスのステップも、音楽がなければ空回りするだけだ。
観客席からざわめきが広がる。
「え……どうしたの?」
「このままじゃ歌えないの?」
舞台袖でゆめは、身体が硬直するのを感じた。
「……逃げちゃダメ」
心の奥で小さな声が叫ぶ。
何度も何度も舞台で「応援する側」として、後ろに立ってきた自分。
でも今、この瞬間――誰かが必要としている。
無意識に、ゆめは一歩前に出た。
「……私が……」
震える手でマイクを握り、まだ小さな声で歌い始める。
最初は不安定で、声が揺れる。
けれど観客はざわつきながらも、その声に耳を傾けた。
ペンライトが止まり、ざわめきは次第に静まる。
“聴いている――”
会場全体が、ゆめに集中していた。
最初の数秒は、心臓が喉に浮かぶような感覚だった。
しかし、徐々に、呼吸が整い、声に力が戻る。
みんとは横で、驚きと感動の入り混じった表情で、ゆめを見つめる。
「……すごい……」
如月も冷静な顔のまま、微かに微笑む。
「その声……ちゃんと届いてる」
終は、背後で静かに立ったまま、舞台全体の空気を感じ取り、ゆめの声を包み込むように視線を送る。
その沈黙の力が、さらに観客を引きつけた。
ゆめの声は少しずつ安定し、アカペラでの旋律が会場に響き渡る。
震えていた声は、やがてまっすぐ伸び、会場を満たす光と重なるようだった。
「私……逃げなくていい」
心の奥で、確信のようなものが芽生える。
手の震えも徐々に収まり、マイクを握る手に力が戻る。
ペンライトの海が揺れ、観客の視線が全て舞台中央のゆめに集中する。
彼女は初めて、自分が偶像として、舞台の真ん中に立っている実感を抱いた。
声の一つ一つに、確かに光が宿っている。
その瞬間、みんとが手を伸ばし、ゆめの肩にそっと触れる。
如月は反対側に立ち、静かに目を合わせる。
「大丈夫、行ける」
舞台上の三人の視線が、まるで交差する光のように、ゆめを包む。
初めてのアカペラ――
でも、ゆめは逃げなかった。
歌いながら感じた。
この舞台、この瞬間、この光――
それが、彼女自身のものになったことを。
ステージに立つみんと、如月、そして終。
三人の偶像が放つ光は、観客席を埋め尽くすペンライトの海に映え、会場全体を染めていた。
しかし、突然、音源が途切れた。
重低音が止まり、華やかな演出の照明が一瞬静止する。
ステージの上の空気が凍る。
「……え?」
みんとの声が、わずかに裏返る。
普段なら笑顔で飛び跳ねる彼女が、ほんの一瞬、焦りの色を見せた。
「ちょっと待って、音が……!」
如月は冷静だった。手をわずかに広げ、動きを止めて空間を支配する。
「大丈夫……落ち着いて。観客を見て」
彼女の声は低く、しかし明確に、舞台上の空気を微かに落ち着かせる。
だが、曲は成立しない。
歌のリズムもダンスのステップも、音楽がなければ空回りするだけだ。
観客席からざわめきが広がる。
「え……どうしたの?」
「このままじゃ歌えないの?」
舞台袖でゆめは、身体が硬直するのを感じた。
「……逃げちゃダメ」
心の奥で小さな声が叫ぶ。
何度も何度も舞台で「応援する側」として、後ろに立ってきた自分。
でも今、この瞬間――誰かが必要としている。
無意識に、ゆめは一歩前に出た。
「……私が……」
震える手でマイクを握り、まだ小さな声で歌い始める。
最初は不安定で、声が揺れる。
けれど観客はざわつきながらも、その声に耳を傾けた。
ペンライトが止まり、ざわめきは次第に静まる。
“聴いている――”
会場全体が、ゆめに集中していた。
最初の数秒は、心臓が喉に浮かぶような感覚だった。
しかし、徐々に、呼吸が整い、声に力が戻る。
みんとは横で、驚きと感動の入り混じった表情で、ゆめを見つめる。
「……すごい……」
如月も冷静な顔のまま、微かに微笑む。
「その声……ちゃんと届いてる」
終は、背後で静かに立ったまま、舞台全体の空気を感じ取り、ゆめの声を包み込むように視線を送る。
その沈黙の力が、さらに観客を引きつけた。
ゆめの声は少しずつ安定し、アカペラでの旋律が会場に響き渡る。
震えていた声は、やがてまっすぐ伸び、会場を満たす光と重なるようだった。
「私……逃げなくていい」
心の奥で、確信のようなものが芽生える。
手の震えも徐々に収まり、マイクを握る手に力が戻る。
ペンライトの海が揺れ、観客の視線が全て舞台中央のゆめに集中する。
彼女は初めて、自分が偶像として、舞台の真ん中に立っている実感を抱いた。
声の一つ一つに、確かに光が宿っている。
その瞬間、みんとが手を伸ばし、ゆめの肩にそっと触れる。
如月は反対側に立ち、静かに目を合わせる。
「大丈夫、行ける」
舞台上の三人の視線が、まるで交差する光のように、ゆめを包む。
初めてのアカペラ――
でも、ゆめは逃げなかった。
歌いながら感じた。
この舞台、この瞬間、この光――
それが、彼女自身のものになったことを。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。