ライブ終演後の楽屋は、
いつもより静かだった。
歓声は確かにあった。
ペンライトも揺れていた。
笑顔も返ってきた。
――なのに。
「……お疲れさま」
みんとは、
鏡越しにそう言って笑った。
完璧な笑顔だった。
汗のにじむ額も、乱れた髪も、
すべて[太字]“偶像として正しい”[/太字]。
けれど。
ゆめは、
気づいてしまった。
声が、
ほんの一瞬だけ震えていたことを。
本番中、
二番サビの入り。
一瞬だけ、
音程が揺れた。
観客は気づいていない。
いや、
気づいていないはずだ。
けれどゆめは、
分かってしまう。
「みんと……」
「うん?」
振り返る。
笑顔。
完璧。
何も言えなかった。
控室の隅で、
スマホが震えた。
ぴくり、
とみんとの肩が跳ねる。
「通知、切っておいたほうがいいよ」
如月が淡々と言う。
如月 の声は静かだった。
「うん、でも……大丈夫」
画面を伏せる。
だが視線は、
そこから離れない。
炎上は終わった。
世論は反転した。
むしろ支持は増えている。
けれど。
「ざわめき」に、
敏感になっている。
観客の拍手が一瞬揺れるだけで、
誰かが囁くだけで、
“評価”に聞こえる。
夜のレッスンスタジオ。
鏡の中の自分を、
みんとは見つめる。
音源を流す。
歌う。
伸びる。
響く。
正確。
完璧だ。
――完璧なはずだ。
サビ前。
息を吸う。
その瞬間。
胸の奥が、
きゅ、
と縮む。
また、
震える。
「……っ」
止まる。
音が止まる。
スタジオが静まり返る。
「ごめん、もう一回」
明るい声で言う。
だが、
マイクを持つ手が、
わずかに冷たい。
[水平線]
廊下の向こうで。
管理人は足を止めていた。
扉越しに、
歌声が途切れるのを聞いた。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
目を閉じる。
――まだ、
判断はしない。
ドアノブに触れない。
そのまま、
静かに歩き去る。
[水平線]
再び、スタジオ。
「みんと」
ゆめが近づく。
神谷ゆめ の瞳は、
まっすぐだ。
「無理、してない?」
「してないよ」
即答。
早すぎるくらいに。
「ねえ」
ゆめの声が少しだけ揺れる。
「怖い?」
沈黙。
ほんの、
数秒。
みんとは笑った。
「ちょっとだけ」
その声は、
驚くほど素直だった。
「歓声が、急に静かになるとね……」
視線が、
遠くを見る。
「今、比べられてるのかなって思う」
誰と、
とは言わない。
けれど、
分かる。
[太字][太字][斜体]“伝説”。
“初代”。
“復帰説”。[/斜体][/太字][/太字]
名前は言わなくても、
空気に漂っている。
「私、誰かの代わりなのかな」
ぽつり。
その言葉に、
ゆめの喉が詰まる。
如月の視線が鋭くなる。
「違う」
ゆめが言う。
強く。
けれど。
みんとは首を横に振る。
「違わないよ」
静かな声。
「守られて、話題になって、持ち上げられて」
少しだけ、
笑う。
「私、守られてばっかりだよね」
その言葉は、
軽いのに重かった。
廊下の奥。
足音が止まる。
管理人は、
聞いてしまった。
拳を、
ゆっくり握る。
――まだだ。
まだ、
出るな。
光を奪うな。
胸の奥で、
封じたはずの声が揺れる。
けれど。
ドアは、
開かない。
[水平線]
スタジオの中。
如月が前に出る。
「守られるのが悪いわけじゃない」
静かな声。
「でも」
みんとを見る。
「守られたまま終わるかどうかは、自分で決められる」
その言葉に、
みんとの瞳が揺れる。
ゆめが、
そっと手を伸ばす。
触れる。
逃げない。
「次のライブ」
ゆめは言う。
「一番前で、私が支える」
みんとは、
少しだけ笑った。
「うん。でもね」
深く、
息を吸う。
震えは、
まだある。
それでも。
「次は、私が前に立つ」
小さな宣言。
かすかに震える声で。
けれど確かに。
揺れながら。
揺れたまま。
光は、
消えていない。
いつもより静かだった。
歓声は確かにあった。
ペンライトも揺れていた。
笑顔も返ってきた。
――なのに。
「……お疲れさま」
みんとは、
鏡越しにそう言って笑った。
完璧な笑顔だった。
汗のにじむ額も、乱れた髪も、
すべて[太字]“偶像として正しい”[/太字]。
けれど。
ゆめは、
気づいてしまった。
声が、
ほんの一瞬だけ震えていたことを。
本番中、
二番サビの入り。
一瞬だけ、
音程が揺れた。
観客は気づいていない。
いや、
気づいていないはずだ。
けれどゆめは、
分かってしまう。
「みんと……」
「うん?」
振り返る。
笑顔。
完璧。
何も言えなかった。
控室の隅で、
スマホが震えた。
ぴくり、
とみんとの肩が跳ねる。
「通知、切っておいたほうがいいよ」
如月が淡々と言う。
如月 の声は静かだった。
「うん、でも……大丈夫」
画面を伏せる。
だが視線は、
そこから離れない。
炎上は終わった。
世論は反転した。
むしろ支持は増えている。
けれど。
「ざわめき」に、
敏感になっている。
観客の拍手が一瞬揺れるだけで、
誰かが囁くだけで、
“評価”に聞こえる。
夜のレッスンスタジオ。
鏡の中の自分を、
みんとは見つめる。
音源を流す。
歌う。
伸びる。
響く。
正確。
完璧だ。
――完璧なはずだ。
サビ前。
息を吸う。
その瞬間。
胸の奥が、
きゅ、
と縮む。
また、
震える。
「……っ」
止まる。
音が止まる。
スタジオが静まり返る。
「ごめん、もう一回」
明るい声で言う。
だが、
マイクを持つ手が、
わずかに冷たい。
[水平線]
廊下の向こうで。
管理人は足を止めていた。
扉越しに、
歌声が途切れるのを聞いた。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
目を閉じる。
――まだ、
判断はしない。
ドアノブに触れない。
そのまま、
静かに歩き去る。
[水平線]
再び、スタジオ。
「みんと」
ゆめが近づく。
神谷ゆめ の瞳は、
まっすぐだ。
「無理、してない?」
「してないよ」
即答。
早すぎるくらいに。
「ねえ」
ゆめの声が少しだけ揺れる。
「怖い?」
沈黙。
ほんの、
数秒。
みんとは笑った。
「ちょっとだけ」
その声は、
驚くほど素直だった。
「歓声が、急に静かになるとね……」
視線が、
遠くを見る。
「今、比べられてるのかなって思う」
誰と、
とは言わない。
けれど、
分かる。
[太字][太字][斜体]“伝説”。
“初代”。
“復帰説”。[/斜体][/太字][/太字]
名前は言わなくても、
空気に漂っている。
「私、誰かの代わりなのかな」
ぽつり。
その言葉に、
ゆめの喉が詰まる。
如月の視線が鋭くなる。
「違う」
ゆめが言う。
強く。
けれど。
みんとは首を横に振る。
「違わないよ」
静かな声。
「守られて、話題になって、持ち上げられて」
少しだけ、
笑う。
「私、守られてばっかりだよね」
その言葉は、
軽いのに重かった。
廊下の奥。
足音が止まる。
管理人は、
聞いてしまった。
拳を、
ゆっくり握る。
――まだだ。
まだ、
出るな。
光を奪うな。
胸の奥で、
封じたはずの声が揺れる。
けれど。
ドアは、
開かない。
[水平線]
スタジオの中。
如月が前に出る。
「守られるのが悪いわけじゃない」
静かな声。
「でも」
みんとを見る。
「守られたまま終わるかどうかは、自分で決められる」
その言葉に、
みんとの瞳が揺れる。
ゆめが、
そっと手を伸ばす。
触れる。
逃げない。
「次のライブ」
ゆめは言う。
「一番前で、私が支える」
みんとは、
少しだけ笑った。
「うん。でもね」
深く、
息を吸う。
震えは、
まだある。
それでも。
「次は、私が前に立つ」
小さな宣言。
かすかに震える声で。
けれど確かに。
揺れながら。
揺れたまま。
光は、
消えていない。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。