「…これ、試験ですよね?」
神田先輩が、ぽつりと言った。
図書室の奥。
割れたガラス瓶は片づけられ、
椅子が円になるように並べられている。
中央には、
スーラが座っていた。
小さな手を膝に置いて、
静かに。
「試験?」
ファイヤー・ルビーが、
眉をひそめる。
「誰の?」
私は、少しだけ迷ってから答えた。
「…二人の、です」
一瞬、空気が止まる。
◇
「何でも屋は、部活じゃありません」
私は、ゆっくり話し始めた。
「困ってる人の話を聞いて
選択肢を一緒に考える場所です」
「だから―」
視線を上げる。
「[太字][大文字]力があるか[/大文字][/太字]は、見ません」
ファイヤー・ルビーが、
即座に言った。
「じゃあ、何を見るんだ?」
私は、
スーラを一度だけ見てから、
答えた。
「[太字][大文字]どう扱うか[/大文字][/太字]です」
神田先輩が、
小さく笑った。
「人?」
「存在、
です」
即答だった。
◇
雷が、
いつものふわふわした声で言う。
「入部試験の内容、
発表しまーす」
ぴょこん、
とスーラの後ろに立つ。
「この子は、悪魔です
んで、能力は、心を読むこと」
ファイヤー・ルビーの目が、
一瞬だけ鋭くなる。
「…知ってる」
「知ってても、ね」
雷は、にこにこしたまま続ける。
「この子は、今
自分がここに居ていいのか、分かんなくなってる」
スーラは、
何も言わない。
でも―
感情だけが、静かに溢れている。
不安。
自己否定。
役に立たなかったら、という恐怖。
Affectusが、
楽しそうに呟く。
「感情、ダダ漏れダ」
鬼灯は、
腕を組んだまま。
「さて、人間」
「どうする」
◇
[太字][明朝体][水平線][斜体][大文字]試験その一:ファイヤー・ルビー
[/大文字][/斜体][/明朝体][/太字]「……簡単だ」
ファイヤー・ルビーは、
迷わず前に出た。
スーラの前に、しゃがむ。
目線を合わせる。
「私は、君と契約してる
だから、君を守る」
一拍。
「でも」
声を、少しだけ落とす。
[太字][明朝体][大文字][斜体]「君が考えたいなら
私は、横に立つ」[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字]
スーラの心が、
揺れた。
守られたい。
でも、守られたくない。
その矛盾を、
ファイヤー・ルビーは否定しない。
[太字][明朝体][大文字][斜体]「選べ
私は、待つ」
[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字]
それだけ。
鬼灯が、
低く笑った。
「合格だな」
Affectusも、
満足そうに回転する。
「力を使わずに、委ねた」
「良イ選択ダ」
◇
[水平線][明朝体][太字][斜体][大文字]試験その二:神田 酔
[/大文字][/斜体][/太字][/明朝体]「……参ったな」
神田先輩は、
頭をかいた。
「正解、用意されてないでしょ」
私は、
小さく頷く。
「はい」
「じゃあ」
先輩は、
スーラから一歩、
距離を取った。
「僕は、君の心を覗かない」
スーラが、
驚いて顔を上げる。
「君は、読む」
「僕は、読まない」
「不公平だけど
それでいい」
視線を合わせる。
「それでも話したくなったら
聞くよ」
「聞かなくていいなら
それも尊重する」
沈黙。
ポラリスが、
ぽつりと呟く。
「…優しい選択」
スーラの心が、
少しずつ、静まっていく。
「…ありがとう」
小さな声。
神田先輩は、
笑った。
「どういたしまして」
◇
結果発表
雷が、
ぱちぱちと手を叩く。
「はーい、終了!」
私は、
二人を見る。
「何でも屋は――」
一呼吸。
「[明朝体][太字][大文字]誰かを正しくする場所[/大文字][/太字][/明朝体]じゃありません」
[明朝体][太字][大文字]一緒に、間違えないように考える場所です[/大文字][/太字][/明朝体]
それでも、来ますか?
ファイヤー・ルビーは、
即答した。
「来る」
神田先輩も、
肩をすくめる。
「面白そうだし」
「それに」
一瞬、目を開く。
「ここ、後悔を誤魔化さない場所だ」
私は、
小さく笑った。
「―入部、許可します」
◇
こうして。
何でも屋の部員は増えた。
強い人間と、
軽い人間。
でも共通しているのは―
選択を他人に押しつけなかったこと。
鬼灯が、
満足そうに言った。
「人間も、捨てたものではない」
Affectusは、
楽しそうに呟く。
「次の試験者が、楽しみダ」
何でも屋の入部試験は、
今日も静かに行われる。
正解は、
いつも―
用意されていない。
「…これで終わり、ですね」
私がそう言うと、
図書室の奥に、ふっと力が抜けた空気が流れた。
ファイヤー・ルビーは、
少し肩を回してから言う。
「次は?」
「わかりません」
即答だった。
神田先輩が、
少し意外そうに眉を上げる。
「へぇ。意外とあっさり」
雷が、
ふわっと浮かびながら言う。
「ここに来る時点で、
もう十分ややこしい選択してるしね」
鬼灯が、
鼻で笑う。
「選別を続ければ、
いずれ人は歪む」
Affectusは、
愉快そうに言った。
「正解を作らない方が、
長持ちスル」
ポラリスは、
天井を見ながら。
「星も、固定しすぎると壊れる」
…全会一致、らしい。
◇
少しの沈黙。
それを破ったのは、
神田先輩だった。
「で」
軽い口調。
「そろそろ本題?」
ファイヤー・ルビーが、
頷く。
「語部先輩の噂だな」
私は、
小さく息を吸った。
「…はい」
「星を見ると、
感情が軽くなる」
「悲しみも、怒りも、
薄くなる」
「その代わり―」
言葉を選ぶ。
「[太字][大文字]考えなくなる[/大文字][/太字]可能性がある」
スーラが、
小さく反応した。
「…ノイズ、似てる」
雷が、
すぐに振り向く。
「どういう意味?」
「心、静かすぎる」
「…空っぽ」
Affectusが、
楽しそうに回る。
「感情を[太字][大文字]削る[/大文字][/太字]タイプか」
「契約じゃない」
「環境干渉ダ」
ポラリスが、
珍しく真面目な声で言った。
「星を[太字][大文字]見る[/大文字][/太字]って表現、引っかかる」
「自然現象じゃない」
「誰かが、配置してる」
◇
ファイヤー・ルビーが、
机に手を置いた。
「つまり」
「噂を信じた人は、
楽になる
でも、
問題は解決してない」
神田先輩が、
少しだけ目を細める。
「それ、
最悪のパターンだ」
「逃げ場所が、
[太字][大文字]正解[/大文字][/太字]になるやつ」
私は、
頷いた。
「椎奈先輩も、
そこを気にしてました
悲劇になるなら、
避けたい、って」
雷が、
私を見る。
「で、ゆめ
―どうする?」
◇
私は、
一人ずつ、顔を見た。
守る人。
考える悪魔。
星を見る存在。
感情を知りすぎる者。
そして―
ここにいる、人間。
「噂を、
否定はしません」
全員の視線が集まる。
「楽になること自体は、
悪くない
―でも」
少し、声を強くする。
「[太字][大文字]それしかない[/大文字][/太字]状況は、
作らせない」
神田先輩が、
小さく笑った。
「選択肢を潰さない、か」
ファイヤー・ルビーは、
即座に言う。
「じゃあ、調べる」
「噂の発生源」
「星が見える場所」
ポラリスが、
手を挙げる。
「星の配置、
俺が見る」
「自然か、
不自然か」
Affectusは、
にやりとする。
「感情の変化は、
ボクが観測スル」
鬼灯が、
短く言った。
「危険なら、
力で止める」
雷が、
ふわっと笑った。
「ゆめは?」
私は、
少しだけ考えてから答えた。
「…話を聞きます
噂を信じた人の」
[太字][大文字]軽くなった後
[/大文字][/太字]を。」
◇
作戦は、
派手じゃない。
誰かを捕まえるわけでも、
暴くわけでもない。
ただ―
見て、聞いて、確かめる。
神田先輩が、
立ち上がりながら言った。
「いいね
何でも屋らしい」
「派手じゃないけど、
一番やっかい」
私は、
少しだけ笑った。
「はい」
「それが、
私たちのやり方です」
図書室の時計が、
小さく鳴る。
放課後の時間が、
静かに進んでいく。
次の選択は、もう始まっている。
語部椎奈先輩の噂は、
まだ物語の途中だ。
そして私たちは、
その続きを―
誰かに任せず、
自分たちで見に行く。
何でも屋は、
今日も静かに動き出す。
星の下で。
神田先輩が、ぽつりと言った。
図書室の奥。
割れたガラス瓶は片づけられ、
椅子が円になるように並べられている。
中央には、
スーラが座っていた。
小さな手を膝に置いて、
静かに。
「試験?」
ファイヤー・ルビーが、
眉をひそめる。
「誰の?」
私は、少しだけ迷ってから答えた。
「…二人の、です」
一瞬、空気が止まる。
◇
「何でも屋は、部活じゃありません」
私は、ゆっくり話し始めた。
「困ってる人の話を聞いて
選択肢を一緒に考える場所です」
「だから―」
視線を上げる。
「[太字][大文字]力があるか[/大文字][/太字]は、見ません」
ファイヤー・ルビーが、
即座に言った。
「じゃあ、何を見るんだ?」
私は、
スーラを一度だけ見てから、
答えた。
「[太字][大文字]どう扱うか[/大文字][/太字]です」
神田先輩が、
小さく笑った。
「人?」
「存在、
です」
即答だった。
◇
雷が、
いつものふわふわした声で言う。
「入部試験の内容、
発表しまーす」
ぴょこん、
とスーラの後ろに立つ。
「この子は、悪魔です
んで、能力は、心を読むこと」
ファイヤー・ルビーの目が、
一瞬だけ鋭くなる。
「…知ってる」
「知ってても、ね」
雷は、にこにこしたまま続ける。
「この子は、今
自分がここに居ていいのか、分かんなくなってる」
スーラは、
何も言わない。
でも―
感情だけが、静かに溢れている。
不安。
自己否定。
役に立たなかったら、という恐怖。
Affectusが、
楽しそうに呟く。
「感情、ダダ漏れダ」
鬼灯は、
腕を組んだまま。
「さて、人間」
「どうする」
◇
[太字][明朝体][水平線][斜体][大文字]試験その一:ファイヤー・ルビー
[/大文字][/斜体][/明朝体][/太字]「……簡単だ」
ファイヤー・ルビーは、
迷わず前に出た。
スーラの前に、しゃがむ。
目線を合わせる。
「私は、君と契約してる
だから、君を守る」
一拍。
「でも」
声を、少しだけ落とす。
[太字][明朝体][大文字][斜体]「君が考えたいなら
私は、横に立つ」[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字]
スーラの心が、
揺れた。
守られたい。
でも、守られたくない。
その矛盾を、
ファイヤー・ルビーは否定しない。
[太字][明朝体][大文字][斜体]「選べ
私は、待つ」
[/斜体][/大文字][/明朝体][/太字]
それだけ。
鬼灯が、
低く笑った。
「合格だな」
Affectusも、
満足そうに回転する。
「力を使わずに、委ねた」
「良イ選択ダ」
◇
[水平線][明朝体][太字][斜体][大文字]試験その二:神田 酔
[/大文字][/斜体][/太字][/明朝体]「……参ったな」
神田先輩は、
頭をかいた。
「正解、用意されてないでしょ」
私は、
小さく頷く。
「はい」
「じゃあ」
先輩は、
スーラから一歩、
距離を取った。
「僕は、君の心を覗かない」
スーラが、
驚いて顔を上げる。
「君は、読む」
「僕は、読まない」
「不公平だけど
それでいい」
視線を合わせる。
「それでも話したくなったら
聞くよ」
「聞かなくていいなら
それも尊重する」
沈黙。
ポラリスが、
ぽつりと呟く。
「…優しい選択」
スーラの心が、
少しずつ、静まっていく。
「…ありがとう」
小さな声。
神田先輩は、
笑った。
「どういたしまして」
◇
結果発表
雷が、
ぱちぱちと手を叩く。
「はーい、終了!」
私は、
二人を見る。
「何でも屋は――」
一呼吸。
「[明朝体][太字][大文字]誰かを正しくする場所[/大文字][/太字][/明朝体]じゃありません」
[明朝体][太字][大文字]一緒に、間違えないように考える場所です[/大文字][/太字][/明朝体]
それでも、来ますか?
ファイヤー・ルビーは、
即答した。
「来る」
神田先輩も、
肩をすくめる。
「面白そうだし」
「それに」
一瞬、目を開く。
「ここ、後悔を誤魔化さない場所だ」
私は、
小さく笑った。
「―入部、許可します」
◇
こうして。
何でも屋の部員は増えた。
強い人間と、
軽い人間。
でも共通しているのは―
選択を他人に押しつけなかったこと。
鬼灯が、
満足そうに言った。
「人間も、捨てたものではない」
Affectusは、
楽しそうに呟く。
「次の試験者が、楽しみダ」
何でも屋の入部試験は、
今日も静かに行われる。
正解は、
いつも―
用意されていない。
「…これで終わり、ですね」
私がそう言うと、
図書室の奥に、ふっと力が抜けた空気が流れた。
ファイヤー・ルビーは、
少し肩を回してから言う。
「次は?」
「わかりません」
即答だった。
神田先輩が、
少し意外そうに眉を上げる。
「へぇ。意外とあっさり」
雷が、
ふわっと浮かびながら言う。
「ここに来る時点で、
もう十分ややこしい選択してるしね」
鬼灯が、
鼻で笑う。
「選別を続ければ、
いずれ人は歪む」
Affectusは、
愉快そうに言った。
「正解を作らない方が、
長持ちスル」
ポラリスは、
天井を見ながら。
「星も、固定しすぎると壊れる」
…全会一致、らしい。
◇
少しの沈黙。
それを破ったのは、
神田先輩だった。
「で」
軽い口調。
「そろそろ本題?」
ファイヤー・ルビーが、
頷く。
「語部先輩の噂だな」
私は、
小さく息を吸った。
「…はい」
「星を見ると、
感情が軽くなる」
「悲しみも、怒りも、
薄くなる」
「その代わり―」
言葉を選ぶ。
「[太字][大文字]考えなくなる[/大文字][/太字]可能性がある」
スーラが、
小さく反応した。
「…ノイズ、似てる」
雷が、
すぐに振り向く。
「どういう意味?」
「心、静かすぎる」
「…空っぽ」
Affectusが、
楽しそうに回る。
「感情を[太字][大文字]削る[/大文字][/太字]タイプか」
「契約じゃない」
「環境干渉ダ」
ポラリスが、
珍しく真面目な声で言った。
「星を[太字][大文字]見る[/大文字][/太字]って表現、引っかかる」
「自然現象じゃない」
「誰かが、配置してる」
◇
ファイヤー・ルビーが、
机に手を置いた。
「つまり」
「噂を信じた人は、
楽になる
でも、
問題は解決してない」
神田先輩が、
少しだけ目を細める。
「それ、
最悪のパターンだ」
「逃げ場所が、
[太字][大文字]正解[/大文字][/太字]になるやつ」
私は、
頷いた。
「椎奈先輩も、
そこを気にしてました
悲劇になるなら、
避けたい、って」
雷が、
私を見る。
「で、ゆめ
―どうする?」
◇
私は、
一人ずつ、顔を見た。
守る人。
考える悪魔。
星を見る存在。
感情を知りすぎる者。
そして―
ここにいる、人間。
「噂を、
否定はしません」
全員の視線が集まる。
「楽になること自体は、
悪くない
―でも」
少し、声を強くする。
「[太字][大文字]それしかない[/大文字][/太字]状況は、
作らせない」
神田先輩が、
小さく笑った。
「選択肢を潰さない、か」
ファイヤー・ルビーは、
即座に言う。
「じゃあ、調べる」
「噂の発生源」
「星が見える場所」
ポラリスが、
手を挙げる。
「星の配置、
俺が見る」
「自然か、
不自然か」
Affectusは、
にやりとする。
「感情の変化は、
ボクが観測スル」
鬼灯が、
短く言った。
「危険なら、
力で止める」
雷が、
ふわっと笑った。
「ゆめは?」
私は、
少しだけ考えてから答えた。
「…話を聞きます
噂を信じた人の」
[太字][大文字]軽くなった後
[/大文字][/太字]を。」
◇
作戦は、
派手じゃない。
誰かを捕まえるわけでも、
暴くわけでもない。
ただ―
見て、聞いて、確かめる。
神田先輩が、
立ち上がりながら言った。
「いいね
何でも屋らしい」
「派手じゃないけど、
一番やっかい」
私は、
少しだけ笑った。
「はい」
「それが、
私たちのやり方です」
図書室の時計が、
小さく鳴る。
放課後の時間が、
静かに進んでいく。
次の選択は、もう始まっている。
語部椎奈先輩の噂は、
まだ物語の途中だ。
そして私たちは、
その続きを―
誰かに任せず、
自分たちで見に行く。
何でも屋は、
今日も静かに動き出す。
星の下で。