夜。
大学研究棟は静まり返っていた。
旧理学部第三棟。
未公開文化財保管室。
ターゲットは―
海外流出寸前の古代装飾板。
「配置、予定通り」
吹雪の声がイヤーピース越しに響く。
「監視カメラ三基。巡回二名。警備室一箇所」
屋上。
西紀が身を乗り出す。
「陽動いくぞー!」
ドンッ、
と小さな爆音。
もちろん安全なフラッシュ。
警備員が動く。
「監視遮断」
宇宙の低い声。
映像が数秒ループ。
「侵入どうぞ」
皐月が軽やかに窓を越える。
零も続く。
静かだ。
完璧に、静か。
琉雨の声が入る。
「…左、右、まっすぐ」
眠そうだが正確。
保管室前。
吹雪が小声で言う。
「解除、30秒」
電子ロックが外れる。
「開きます」
ガチャ。
装飾板が月光を受けて光る。
西紀が笑う。
「いけるじゃん俺ら!」
その瞬間。
赤。
赤い警告灯。
サイレン。
「は?」
宇宙が舌打ちする。
「警備強化…予定外」
吹雪が即座に言う。
「おかしい、巡回数が倍です」
外から重い足音。
無線。
「警察だ!建物を包囲した!」
沈黙。
全員、
凍る。
皐月が低く言う。
「…情報漏れか?」
吹雪の声が震えない。
「違います。これは」
間。
「囮作戦です」
外のパトカーのライトが窓を染める。
想定外。
完全包囲。
「撤退ルート潰れた」
宇宙。
西紀が叫ぶ。
「やばくね!?」
琉雨の声。
「…落ち着いて」
でも。
出口がない。
吹雪が即断する。
「屋上、ロープ降下に変更」
宇宙が否定。
「照明集中してる」
詰み。
完全に。
そのとき。
パトカーの無線がざわつく。
「何だ!?屋上だ!」
全員が上を見る。
影。
月を横切る黒い影。
マントが翻る。
時間が、
歪む。
警察の動きが一瞬遅れる。
いや。
遅れたように“見える”。
黒い影が空中を滑る。
屋上から一気に内部へ。
誰も止められない。
警官が叫ぶ。
「怪盗クロノスだ!!」
その名が、夜に落ちる。
零は動かない。
部員の位置を確認。
クロノスが保管室へ滑り込む。
警察の包囲網の中心。
皐月が息を呑む。
「また、あいつか…」
吹雪が計算する。
「成功率、未知数」
クロノスは装飾板を手に取る。
警官が突入。
だが。
光。
視界が白く染まる。
次の瞬間。
クロノスは警官の背後にいる。
時間が食われたみたいに。
誰も、動きを理解できない。
零は心の中で数える。
三。
二。
一。
煙幕。
クロノスは部員の近くを通り過ぎる。
ほんの一瞬。
「下がれ」
低い声。
それだけ。
次の瞬間。
屋上の照明が落ちる。
警察無線が混乱。
「消えた!?どこだ!?」
クロノスは屋上へ。
そして。
装飾板を掲げる。
月光の中。
はっきりと。
「怪盗クロノス…!」
警官の誰かが呟く。
その姿は、
派手。
圧倒的。
包囲網の中心で、
堂々と宝を奪う。
そして。
跳ぶ。
誰も追えない。
まるで、
夜そのものが裂けたように。
静寂。
残されたのは、
唖然とする警察。
そして。
何も盗んでいない“はず”の幻影遊戯部。
皐月が息を吐く。
「…助けられたな」
西紀が笑う。
「くっそかっけぇ…!」
宇宙が低く言う。
「借りが増えた」
吹雪が呟く。
「なぜ我々の位置が正確に…?」
琉雨。
「…守られた」
零は、
何も言わない。
夜風が吹く。
遠くでサイレン。
翌朝。
ニュース速報。
『怪盗クロノス、大学保管庫から未公開文化財を奪取』
『警察の完全包囲を突破』
『その手口は時間を止めたかのよう』
世間は沸く。
クロノスの名は、
さらに広がる。
幻影遊戯部の名は、
どこにも出ない。
完全な勝者は、
怪盗クロノス。
そして。
部室。
沈黙の中。
吹雪が零を見る。
ほんの一瞬。
違和感。
あの混乱の中。
時巣零だけが、
恐ろしいほど冷静だった。
まるで、
来ると知っていたかのように。
それは小さな違和感。
だが。
確かに、
芽生えた。
夜はまだ終わらない。
怪盗クロノスの影は、
すぐそばにある。
大学研究棟は静まり返っていた。
旧理学部第三棟。
未公開文化財保管室。
ターゲットは―
海外流出寸前の古代装飾板。
「配置、予定通り」
吹雪の声がイヤーピース越しに響く。
「監視カメラ三基。巡回二名。警備室一箇所」
屋上。
西紀が身を乗り出す。
「陽動いくぞー!」
ドンッ、
と小さな爆音。
もちろん安全なフラッシュ。
警備員が動く。
「監視遮断」
宇宙の低い声。
映像が数秒ループ。
「侵入どうぞ」
皐月が軽やかに窓を越える。
零も続く。
静かだ。
完璧に、静か。
琉雨の声が入る。
「…左、右、まっすぐ」
眠そうだが正確。
保管室前。
吹雪が小声で言う。
「解除、30秒」
電子ロックが外れる。
「開きます」
ガチャ。
装飾板が月光を受けて光る。
西紀が笑う。
「いけるじゃん俺ら!」
その瞬間。
赤。
赤い警告灯。
サイレン。
「は?」
宇宙が舌打ちする。
「警備強化…予定外」
吹雪が即座に言う。
「おかしい、巡回数が倍です」
外から重い足音。
無線。
「警察だ!建物を包囲した!」
沈黙。
全員、
凍る。
皐月が低く言う。
「…情報漏れか?」
吹雪の声が震えない。
「違います。これは」
間。
「囮作戦です」
外のパトカーのライトが窓を染める。
想定外。
完全包囲。
「撤退ルート潰れた」
宇宙。
西紀が叫ぶ。
「やばくね!?」
琉雨の声。
「…落ち着いて」
でも。
出口がない。
吹雪が即断する。
「屋上、ロープ降下に変更」
宇宙が否定。
「照明集中してる」
詰み。
完全に。
そのとき。
パトカーの無線がざわつく。
「何だ!?屋上だ!」
全員が上を見る。
影。
月を横切る黒い影。
マントが翻る。
時間が、
歪む。
警察の動きが一瞬遅れる。
いや。
遅れたように“見える”。
黒い影が空中を滑る。
屋上から一気に内部へ。
誰も止められない。
警官が叫ぶ。
「怪盗クロノスだ!!」
その名が、夜に落ちる。
零は動かない。
部員の位置を確認。
クロノスが保管室へ滑り込む。
警察の包囲網の中心。
皐月が息を呑む。
「また、あいつか…」
吹雪が計算する。
「成功率、未知数」
クロノスは装飾板を手に取る。
警官が突入。
だが。
光。
視界が白く染まる。
次の瞬間。
クロノスは警官の背後にいる。
時間が食われたみたいに。
誰も、動きを理解できない。
零は心の中で数える。
三。
二。
一。
煙幕。
クロノスは部員の近くを通り過ぎる。
ほんの一瞬。
「下がれ」
低い声。
それだけ。
次の瞬間。
屋上の照明が落ちる。
警察無線が混乱。
「消えた!?どこだ!?」
クロノスは屋上へ。
そして。
装飾板を掲げる。
月光の中。
はっきりと。
「怪盗クロノス…!」
警官の誰かが呟く。
その姿は、
派手。
圧倒的。
包囲網の中心で、
堂々と宝を奪う。
そして。
跳ぶ。
誰も追えない。
まるで、
夜そのものが裂けたように。
静寂。
残されたのは、
唖然とする警察。
そして。
何も盗んでいない“はず”の幻影遊戯部。
皐月が息を吐く。
「…助けられたな」
西紀が笑う。
「くっそかっけぇ…!」
宇宙が低く言う。
「借りが増えた」
吹雪が呟く。
「なぜ我々の位置が正確に…?」
琉雨。
「…守られた」
零は、
何も言わない。
夜風が吹く。
遠くでサイレン。
翌朝。
ニュース速報。
『怪盗クロノス、大学保管庫から未公開文化財を奪取』
『警察の完全包囲を突破』
『その手口は時間を止めたかのよう』
世間は沸く。
クロノスの名は、
さらに広がる。
幻影遊戯部の名は、
どこにも出ない。
完全な勝者は、
怪盗クロノス。
そして。
部室。
沈黙の中。
吹雪が零を見る。
ほんの一瞬。
違和感。
あの混乱の中。
時巣零だけが、
恐ろしいほど冷静だった。
まるで、
来ると知っていたかのように。
それは小さな違和感。
だが。
確かに、
芽生えた。
夜はまだ終わらない。
怪盗クロノスの影は、
すぐそばにある。
- 1.時を食う怪盗、夜を抜けて
- 2.第一話 幻影という名の部活
- 3.第二話 表と裏の境界線
- 4.第三話 任務開始 ― 幻影、侵入
- 5.第四話 怪盗クロノス、夜を裂く
- 6.第五話 反省会―奪われた夜の解析
- 7.第六話 再起動―幻影作戦会議
- 8.第七話 静月―そして夜は裂ける
- 9.第八話 出遅れた一秒
- 10.番外編 第一話 時巣零の過去 『時間を喰う子ども』
- 11.番外編 第二話 時巣零の過去 『怪盗が生まれた日』
- 12.第九話 疑念は、静かに積もる
- 13.第十話 月は出ない
- 14.第十一話 夏がほどける
- 15.第十二話 仮面と素顔の距離
- 16.第十三話 夏の終わり、次の幕開け
- 17.第十四話 名前のない男
- 18.第十五話 祝祭の設計図
- 19.第十六話 時間の歯車
- 20.第十七話 学園祭前夜
- 21.第十八話 学園祭本番と盗賊団の影
- 22.第十九話 怪盗クロノスの覚醒