金曜、
深夜。
市立美術館。
閉館後の静寂は、
昼とは別の建物みたいだ。
照明は最小限。
警備は三層。
「…時間や」
皐月の声がイヤーピースから響く。
僕は黒い簡易装束に身を包み、
屋上の縁に立っていた。
隣に西紀。
「うっわテンション上がるわ~!」
声が明るい。
本気で楽しんでいる。
「静かに」
宇宙が低く言う。
「先輩の作戦だ」
その言葉だけで、
西紀は素直に口を閉じる。
下では、
琉雨が車内でモニターを見ている。
「…巡回警備、今右。三十秒後、死角」
眠そうな声。
でも正確。
「零くんは西紀と東口侵入や」
皐月の指示。
「まずは空調ダクトからやな」
頷く。
ロープ降下。
着地、
無音。
西紀が小声で笑う。
「零、動ききれいだよなー」
「普通」
空調ダクト。
狭い。
埃。
息を殺す。
前を進む西紀は、
意外と慎重だ。
雑に見えて、
身体操作は正確。
“実行派総長”の肩書きは伊達じゃない。
ダクト出口。
下は展示室。
目的は中央ケースの美術品。
違法取引で奪われた物を、
“回収”するのが今回の任務。
「…警報線、床三本」
琉雨の声。
赤外線。
僕は視線を走らせる。
反射角度。
センサー位置。
発信機の癖。
一瞬で把握。
「西紀先輩、二本目が不安定」
「え?」
「発信間隔が微妙にズレてる。通るなら今」
一秒。
間。
西紀は笑う。
「よっしゃ、行く!」
滑り込む。
成功。
「…合ってる」
琉雨が小さく呟く。
僕も続く。
無音。
無駄なし。
時間の隙間に入る感覚。
展示ケース前。
宇宙が合流。
「俺が解除する」
工具を出す。
精密。
冷静。
皐月が監視カメラをループさせる。
完璧な連携。
ケースが開く。
目的物―
深い蒼の宝石。
「回収」
西紀がそっと持ち上げる。
その瞬間。
―ピッ
小さな電子音。
全員が止まる。
琉雨の声が変わる。
「…想定外。追加センサー。熱感知」
宇宙が舌打ち。
「聞いてない」
皐月の声も低い。
「外周警備、増えとる」
足音。
複数。
予想より早い。
罠か。
西紀が小声で言う。
「…これ、やばくね?」
宇宙が前に出る。
「俺が陽動」
「待って」
僕は初めて、
少しだけ強く言った。
視線を走らせる。
天井。
換気口。
警備の動線。
五秒。
いや、
三秒でいい。
「左奥の展示壁、裏が空洞。そこ通れる」
全員が僕を見る。
「なんでわかる?」
西紀。
「音」
さっき足音が反響した。
壁の厚みが違う。
時間をかければ誰でも気づく。
でも今は時間がない。
「…行くで」
皐月の決断は早い。
壁パネルを外す。
狭い通路。
逃走経路変更。
背後で警備員の声。
「侵入者だ!」
ライトが走る。
緊張が走る。
でも。
まだ崩れていない。
僕は最後尾につく。
仲間の動きを確認。
焦りがある。
呼吸が乱れている。
このままだと―
捕まる可能性は、三割。
出口目前。
そのとき。
重いシャッター音。
前方封鎖。
宇宙が睨む。
「囲まれた」
琉雨の声が、
わずかに途切れる。
「…通信、妨害」
西紀が笑う。
無理に。
「はは、マジかよ」
皐月が低く言う。
「ここからが本番やな」
包囲。
逃げ場なし。
僕は静かに状況を計算する。
このままでは、
“部員として”の僕では、
突破できない。
まだ、
出すべきじゃない。
でも―
時間が、
足りない。
警備のライトが近づく。
足音が迫る。
西紀が小さく呟く。
「零、初任務でこれとかごめんな」
その言葉に、
ほんのわずか、
心が動く。
退屈じゃない。
本当に。
さて。
どうする。
深夜。
市立美術館。
閉館後の静寂は、
昼とは別の建物みたいだ。
照明は最小限。
警備は三層。
「…時間や」
皐月の声がイヤーピースから響く。
僕は黒い簡易装束に身を包み、
屋上の縁に立っていた。
隣に西紀。
「うっわテンション上がるわ~!」
声が明るい。
本気で楽しんでいる。
「静かに」
宇宙が低く言う。
「先輩の作戦だ」
その言葉だけで、
西紀は素直に口を閉じる。
下では、
琉雨が車内でモニターを見ている。
「…巡回警備、今右。三十秒後、死角」
眠そうな声。
でも正確。
「零くんは西紀と東口侵入や」
皐月の指示。
「まずは空調ダクトからやな」
頷く。
ロープ降下。
着地、
無音。
西紀が小声で笑う。
「零、動ききれいだよなー」
「普通」
空調ダクト。
狭い。
埃。
息を殺す。
前を進む西紀は、
意外と慎重だ。
雑に見えて、
身体操作は正確。
“実行派総長”の肩書きは伊達じゃない。
ダクト出口。
下は展示室。
目的は中央ケースの美術品。
違法取引で奪われた物を、
“回収”するのが今回の任務。
「…警報線、床三本」
琉雨の声。
赤外線。
僕は視線を走らせる。
反射角度。
センサー位置。
発信機の癖。
一瞬で把握。
「西紀先輩、二本目が不安定」
「え?」
「発信間隔が微妙にズレてる。通るなら今」
一秒。
間。
西紀は笑う。
「よっしゃ、行く!」
滑り込む。
成功。
「…合ってる」
琉雨が小さく呟く。
僕も続く。
無音。
無駄なし。
時間の隙間に入る感覚。
展示ケース前。
宇宙が合流。
「俺が解除する」
工具を出す。
精密。
冷静。
皐月が監視カメラをループさせる。
完璧な連携。
ケースが開く。
目的物―
深い蒼の宝石。
「回収」
西紀がそっと持ち上げる。
その瞬間。
―ピッ
小さな電子音。
全員が止まる。
琉雨の声が変わる。
「…想定外。追加センサー。熱感知」
宇宙が舌打ち。
「聞いてない」
皐月の声も低い。
「外周警備、増えとる」
足音。
複数。
予想より早い。
罠か。
西紀が小声で言う。
「…これ、やばくね?」
宇宙が前に出る。
「俺が陽動」
「待って」
僕は初めて、
少しだけ強く言った。
視線を走らせる。
天井。
換気口。
警備の動線。
五秒。
いや、
三秒でいい。
「左奥の展示壁、裏が空洞。そこ通れる」
全員が僕を見る。
「なんでわかる?」
西紀。
「音」
さっき足音が反響した。
壁の厚みが違う。
時間をかければ誰でも気づく。
でも今は時間がない。
「…行くで」
皐月の決断は早い。
壁パネルを外す。
狭い通路。
逃走経路変更。
背後で警備員の声。
「侵入者だ!」
ライトが走る。
緊張が走る。
でも。
まだ崩れていない。
僕は最後尾につく。
仲間の動きを確認。
焦りがある。
呼吸が乱れている。
このままだと―
捕まる可能性は、三割。
出口目前。
そのとき。
重いシャッター音。
前方封鎖。
宇宙が睨む。
「囲まれた」
琉雨の声が、
わずかに途切れる。
「…通信、妨害」
西紀が笑う。
無理に。
「はは、マジかよ」
皐月が低く言う。
「ここからが本番やな」
包囲。
逃げ場なし。
僕は静かに状況を計算する。
このままでは、
“部員として”の僕では、
突破できない。
まだ、
出すべきじゃない。
でも―
時間が、
足りない。
警備のライトが近づく。
足音が迫る。
西紀が小さく呟く。
「零、初任務でこれとかごめんな」
その言葉に、
ほんのわずか、
心が動く。
退屈じゃない。
本当に。
さて。
どうする。
- 1.時を食う怪盗、夜を抜けて
- 2.第一話 幻影という名の部活
- 3.第二話 表と裏の境界線
- 4.第三話 任務開始 ― 幻影、侵入
- 5.第四話 怪盗クロノス、夜を裂く
- 6.第五話 反省会―奪われた夜の解析
- 7.第六話 再起動―幻影作戦会議
- 8.第七話 静月―そして夜は裂ける
- 9.第八話 出遅れた一秒
- 10.番外編 第一話 時巣零の過去 『時間を喰う子ども』
- 11.番外編 第二話 時巣零の過去 『怪盗が生まれた日』
- 12.第九話 疑念は、静かに積もる
- 13.第十話 月は出ない
- 14.第十一話 夏がほどける
- 15.第十二話 仮面と素顔の距離
- 16.第十三話 夏の終わり、次の幕開け
- 17.第十四話 名前のない男
- 18.第十五話 祝祭の設計図
- 19.第十六話 時間の歯車
- 20.第十七話 学園祭前夜
- 21.第十八話 学園祭本番と盗賊団の影
- 22.第十九話 怪盗クロノスの覚醒