幻影遊戯部は、
思ったよりうるさい。
「俺?一三 西紀っつーの!細かいこととかいいから、とりあえず名前教えて?」
いきなり距離が近い。
栗色の髪を後ろで結んだ先輩。
校則ギリギリ、というか半分アウト。
目がやたらまっすぐだ。
「時巣零」
「よっしゃ零な!俺にーにーって呼ばれてる。好きに呼べ!」
距離感が速い。
この人は“考える前に動く”タイプだ。
「習うより慣れよだっけ?俺あれ好きなんだよね~。やっぱ事実確認って行動じゃん?」
そう言って、
トランプを空中に投げる。
キャッチ。
そのままシャッフル。
技術は高い。
雑に見えて、
正確だ。
「俺結構マジック路線!!怪盗も好きだけど!!ね!?」
怪盗。
またその単語。
偶然だろう。
ここはそういうコンセプトの部活だ。
部室の隅。
白銀のロングヘアが椅子から垂れている。
寝ている。
完全に。
「んぅ…ねむ…い…」
「琉雨総長、起きてください」
冷たい声。
青髪ウルフの一年。
鋭い目。
「副部長の宇宙や」
皐月が紹介する。
宇宙は零を見る。
値踏み。
「…新入りか」
「そうや」
「先輩が決めたならいい」
態度が急変する。
皐月のほうを見る目だけ、
犬。
「先輩!俺のこと捨てないですよね?」
「捨てへん捨てへん」
宇宙は満足そうにうなずく。
わかりやすい。
そのとき。
「…むにゃ」
琉雨が目を閉じたまま口を開く。
「三日後の学園祭ステージ…照明トラブル…左スイッチ、予備回路、赤」
沈黙。
西紀が目を輝かせる。
「うおおお当たってたやつじゃんそれ!!」
「…任務は遂行するよ」
寝ているのに圧がある。
この人が“計画派総長”。
部活は、
実行派総長・西紀
計画派総長・琉雨
の二枚看板らしい。
なるほど。
役割分担はできている。
健全だ。
あくまで。
その日の活動は普通だった。
ステージマジックの練習。
観客をどう驚かせるか。
視線誘導。
照明タイミング。
西紀は動く。
琉雨は考える。
宇宙は皐月の指示を正確に実行。
完成度は高い。
“遊び”にしては。
帰り際。
葵が言う。
「零、どう?楽しいでしょ?」
「普通」
でも。
悪くはない。
時間が、
少しだけ早く進んだ気がした。
[水平線]
夜。
僕は忘れ物を取りに、
部室へ戻った。
灯りがついている。
遅いな。
ドアの隙間から声が聞こえる。
西紀の声。
「で?次のターゲットどこ?」
…ターゲット?
琉雨の声。
「…市立美術館。警備は三層。侵入は右、左、左…むにゃ」
宇宙。
「俺が陽動します。先輩は中央ルートで」
皐月。
「派手にいこか」
空気が違う。
昼とは。
声のトーンが低い。
真剣。
遊びじゃない。
「今回は“回収”や。盗みやない」
皐月が続ける。
「奪われたもんを、奪い返す」
西紀が笑う。
「表面上のビジネスとかクソだよな。俺らは俺らのやり方でやろうぜ」
琉雨。
「…任務、開始は金曜深夜」
沈黙。
僕の鼓動が、
静かに一定になる。
理解した。
この部活は、
ただのマジック部じゃない。
“怪盗”をやっている。
本物を。
「…そこにおるんやろ」
皐月の声。
ドア越しに。
逃げる意味はない。
僕は扉を開けた。
四人の視線が集まる。
宇宙が睨む。
「聞いたか」
「聞いた」
皐月は、
ゆっくり笑った。
「零くん」
その目は、
昼とは違う。
「君、どっち側や?」
表か。
裏か。
時間が一瞬、
止まったように感じる。
僕は静かに答える。
「…面白そうだね」
西紀が笑う。
「よっしゃ!!」
琉雨がうっすら目を開く。
「…適性、あり」
宇宙が小さくつぶやく。
「先輩の選択は正しい」
皐月が手を差し出す。
「歓迎するで。幻影遊戯部―本当の意味でな」
その手を見つめながら、
僕は思った。
なるほど。
退屈じゃない。
本当に。
時間が、
少し早くなった気がした。
思ったよりうるさい。
「俺?一三 西紀っつーの!細かいこととかいいから、とりあえず名前教えて?」
いきなり距離が近い。
栗色の髪を後ろで結んだ先輩。
校則ギリギリ、というか半分アウト。
目がやたらまっすぐだ。
「時巣零」
「よっしゃ零な!俺にーにーって呼ばれてる。好きに呼べ!」
距離感が速い。
この人は“考える前に動く”タイプだ。
「習うより慣れよだっけ?俺あれ好きなんだよね~。やっぱ事実確認って行動じゃん?」
そう言って、
トランプを空中に投げる。
キャッチ。
そのままシャッフル。
技術は高い。
雑に見えて、
正確だ。
「俺結構マジック路線!!怪盗も好きだけど!!ね!?」
怪盗。
またその単語。
偶然だろう。
ここはそういうコンセプトの部活だ。
部室の隅。
白銀のロングヘアが椅子から垂れている。
寝ている。
完全に。
「んぅ…ねむ…い…」
「琉雨総長、起きてください」
冷たい声。
青髪ウルフの一年。
鋭い目。
「副部長の宇宙や」
皐月が紹介する。
宇宙は零を見る。
値踏み。
「…新入りか」
「そうや」
「先輩が決めたならいい」
態度が急変する。
皐月のほうを見る目だけ、
犬。
「先輩!俺のこと捨てないですよね?」
「捨てへん捨てへん」
宇宙は満足そうにうなずく。
わかりやすい。
そのとき。
「…むにゃ」
琉雨が目を閉じたまま口を開く。
「三日後の学園祭ステージ…照明トラブル…左スイッチ、予備回路、赤」
沈黙。
西紀が目を輝かせる。
「うおおお当たってたやつじゃんそれ!!」
「…任務は遂行するよ」
寝ているのに圧がある。
この人が“計画派総長”。
部活は、
実行派総長・西紀
計画派総長・琉雨
の二枚看板らしい。
なるほど。
役割分担はできている。
健全だ。
あくまで。
その日の活動は普通だった。
ステージマジックの練習。
観客をどう驚かせるか。
視線誘導。
照明タイミング。
西紀は動く。
琉雨は考える。
宇宙は皐月の指示を正確に実行。
完成度は高い。
“遊び”にしては。
帰り際。
葵が言う。
「零、どう?楽しいでしょ?」
「普通」
でも。
悪くはない。
時間が、
少しだけ早く進んだ気がした。
[水平線]
夜。
僕は忘れ物を取りに、
部室へ戻った。
灯りがついている。
遅いな。
ドアの隙間から声が聞こえる。
西紀の声。
「で?次のターゲットどこ?」
…ターゲット?
琉雨の声。
「…市立美術館。警備は三層。侵入は右、左、左…むにゃ」
宇宙。
「俺が陽動します。先輩は中央ルートで」
皐月。
「派手にいこか」
空気が違う。
昼とは。
声のトーンが低い。
真剣。
遊びじゃない。
「今回は“回収”や。盗みやない」
皐月が続ける。
「奪われたもんを、奪い返す」
西紀が笑う。
「表面上のビジネスとかクソだよな。俺らは俺らのやり方でやろうぜ」
琉雨。
「…任務、開始は金曜深夜」
沈黙。
僕の鼓動が、
静かに一定になる。
理解した。
この部活は、
ただのマジック部じゃない。
“怪盗”をやっている。
本物を。
「…そこにおるんやろ」
皐月の声。
ドア越しに。
逃げる意味はない。
僕は扉を開けた。
四人の視線が集まる。
宇宙が睨む。
「聞いたか」
「聞いた」
皐月は、
ゆっくり笑った。
「零くん」
その目は、
昼とは違う。
「君、どっち側や?」
表か。
裏か。
時間が一瞬、
止まったように感じる。
僕は静かに答える。
「…面白そうだね」
西紀が笑う。
「よっしゃ!!」
琉雨がうっすら目を開く。
「…適性、あり」
宇宙が小さくつぶやく。
「先輩の選択は正しい」
皐月が手を差し出す。
「歓迎するで。幻影遊戯部―本当の意味でな」
その手を見つめながら、
僕は思った。
なるほど。
退屈じゃない。
本当に。
時間が、
少し早くなった気がした。
- 1.時を食う怪盗、夜を抜けて
- 2.第一話 幻影という名の部活
- 3.第二話 表と裏の境界線
- 4.第三話 任務開始 ― 幻影、侵入
- 5.第四話 怪盗クロノス、夜を裂く
- 6.第五話 反省会―奪われた夜の解析
- 7.第六話 再起動―幻影作戦会議
- 8.第七話 静月―そして夜は裂ける
- 9.第八話 出遅れた一秒
- 10.番外編 第一話 時巣零の過去 『時間を喰う子ども』
- 11.番外編 第二話 時巣零の過去 『怪盗が生まれた日』
- 12.第九話 疑念は、静かに積もる
- 13.第十話 月は出ない
- 14.第十一話 夏がほどける
- 15.第十二話 仮面と素顔の距離
- 16.第十三話 夏の終わり、次の幕開け
- 17.第十四話 名前のない男
- 18.第十五話 祝祭の設計図
- 19.第十六話 時間の歯車
- 20.第十七話 学園祭前夜
- 21.第十八話 学園祭本番と盗賊団の影
- 22.第十九話 怪盗クロノスの覚醒