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完結しました【参加〆切】あなたは何の宝石ですか?話を聞かせてください。

#9

紫水晶 静かな理想は、誰のために

その場所は、
不思議と争いの気配がなかった。

風は穏やかで、
音も立てず、
まるで世界が[太字]「何も起こさない」[/太字]ことを選んだみたいだった。

その中心に、
ひとりの女性が立っている。

紫色のパーカーに、
黒の長ズボン。
背筋はまっすぐで、
立ち姿には隙がない。
ツリ目の紫の瞳は、
どこか不満げで、
それでも視線は常に遠くを見ていた。

「…紫晶 希沙です。よろしくお願いします」

完璧な声色。
柔らかく、
誠実で、
誰に対しても角が立たない。

魔女は、
一瞬だけその[太字]“完成度”[/太字]に目を細める。

「あなたが、ここを治めているの?」

「いいえ」

希沙は、
即座に否定した。

「争いが起きないよう、
調整しているだけです。
平和こそ、世界を救うのです」

その言葉には、
迷いがなかった。
まるで、
ずっとそう言い続けてきたかのように。

「誰も傷つかず、
誰も孤立せず、
誰も恨まない世界」

紫水晶が、
胸元で静かに輝く。

「それが、正しい在り方でしょう?」

魔女は、
答えない。

その沈黙に、
希沙は一瞬だけ視線を伏せた。

「…私は」

言葉が、
詰まる。

「多くの人に慕われてきました。
信頼も、期待も、好意も」

淡々と語る。

「でも、それが…
ひどく、重かった。

人間関係なんて、嫌いです」

吐き出すように言った瞬間、
紫水晶の光が、
わずかに揺らぐ。

「笑顔でいれば、
平和は保たれます。

誰かの不満を飲み込めば、
衝突は避けられます。

私が、我慢すればいい」

それは、
信念であり、
同時に、
呪いだった。

魔女は、
静かに問いかける。

「あなたは…
何者なの?」

希沙の唇が、
かすかに震えた。

「…私は…何者なんでしょうね?」

初めて、
用意された言葉ではなかった。

「縁を切ろうとしました」

希沙は、
ぽつりと言う。

「全部、終わらせてしまえば、
楽になると思った。

でも…切れなかった」

紫水晶が、
深い紫に沈む。

「大切だからです」

その一言が、
彼女のすべてだった。

「嫌いなのに。
面倒なのに。
それでも…」

魔女は、そっと言う。

「アメジストはね、
[太字]“冷静さ”[/太字]の石だけど」

希沙を見る。

[大文字][明朝体]「同時に、
[太字]“愛を断ち切れない心”[/太字]の石でもある」
[/明朝体][/大文字]
希沙は、
息を呑む。

「平和ってね」

魔女は続ける。

「誰かが無理をして保つものじゃない。

あなたが壊れないことも、
平和の一部よ」

紫水晶が、
ゆっくりと光を取り戻す。

「…私は」

希沙は、
拳を握る。

「笑わなくても、
いいのでしょうか」

その問いは、
21年分の重さを持っていた。

魔女は、
迷わず答える。

「ええ。

あなたが不満そうな顔をしていても、
世界は、すぐには壊れない」

希沙の口元が、
ほんの少しだけ、
緩む。

「私は、ここに残ります」

希沙は言う。

「でも…
 以前のような“理想”だけの私では、ありません」

「ええ」

魔女は、うなずく。

「紫は、混ざり合った色だから」

青と赤。
冷静と情熱。

「どちらかを捨てる必要はない」

魔女が立ち去るとき、
希沙は背中に向かって言った。

「…貴方」

「なに?」

「平和を信じることを、
やめなくてよかった」

魔女は、
振り返らない。

ただ、
静かに答える。

「それは、あなたが選び続けたことよ」

紫水晶は、
深く、
澄んだ紫のまま、
確かに輝いていた。

理想を愛し、
人を捨てきれなかった心の色で。

作者メッセージ

紫水晶は、
深く澄んだ紫を宿す宝石である。
冷静で、静かで、
感情に流されないように見えるその色は、
長い時間をかけて、心を鎮めてきた証でもある。

この宝石には、
「誠実」「高貴」「平和」という意味が与えられてきた。
争わないこと、
波風を立てないこと、
誰に対しても等しく接すること——
それらは、美しく、正しい在り方として語られてきた。

けれど、紫水晶は、
感情を持たない石ではない。
人を遠ざけるために、
冷たく輝いているわけでもない。
大切なものを手放せない心が、
それでも壊れないように選び続けてきた、
静かな防御の色なのだ。

だからこの宝石は、
「理想」や「節度」、
そして「愛を断ち切れなかった誠実さ」を象徴する。
笑顔でい続けることに疲れてしまっても、
人間関係を煩わしく思ってしまっても、
それは、誰かを大切にしてきた証でもある。

無理に優しくしなくていい。
完璧な平和を守れなくてもいい。
それでも、あなたが人を想うなら、
紫水晶の紫は、決して濁らない。

どうか、
紫水晶の静かな紫と、
理想を信じながら人を捨てきれなかった誠実な心のご加護が、
あなたのもとにありますように。

2026/02/09 18:01

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