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完結しました【参加〆切】あなたは何の宝石ですか?話を聞かせてください。

#7

オパール 掴まない光は、どこへ行く

そこは、
境目のない場所だった。

空と地面の区別が曖昧で、
色だけが、
ゆっくりと流れている。

白に見えたかと思えば、
次の瞬間には淡い桃色。
角度を変えれば、
青、緑、金。

「…ここ、地図に載ってないわね」

魔女がそう言うと、
少し離れたところで、
誰かが首を傾けた。

「そうだね。載せる理由がないから」

声は、
静かで、幼くも大人でもない。

白いワンピース。
けれど白というには曖昧で、
見るたびに、
違う色を含んでいる。

長い髪も、
同じだった。

何色、
と言えない。
光の通り道そのものみたいだった。

「私は白虹いとだよ」

名乗りは軽く、
でも嘘の気配はなかった。

「君、なんかあったの?」

魔女を見る瞳は、
何色でもない。

期待も、
警戒も、
好奇心さえ薄い。

「別に其れで、私の行動が変わるわけではないよ」

それは冷たい言葉じゃない。
ただ、
事実を述べているだけだった。

魔女は、いとのそばに立つ。

「あなた、宝石を持っていないの?」

「持ってるよ」

いとは、
胸元に手を当てる。

そこにあったのは、
オパール。

形は定まらず、
色は留まらない。
触れた瞬間、
消えてしまいそうな光。

「…執着しないのね」

魔女が言うと、
いとは少し考える。

「あれって、とってもこうじゃない?」

宙を指でなぞる。

「捕まえようとした瞬間に、
変わっちゃうやつ」

「…分かるような、分からないような」

「うん。私もたぶん、分かってない」

あっさり言って、
いとは微笑んだ。

「あなたは、守護者?」

「そうかも」

「曖昧ね」

「オパールだから」

それだけ。

魔女は、
問いを変える。

「守りたいものは?」

「ないよ」

即答。

「過去は?」

「ない」

「悩みは?」

「ない」

言葉は、すべて軽い。
重さを拒むように。

でも—
魔女は、
見てしまった。

オパールの光が、
わずかに、震えていることを。

「…脆いのね」

魔女のその一言に、
いとは否定しなかった。

「うん」

「割れたら?」

「その時は、その時」

怖がっていない。
でも、
耐えようともしていない。

「ねえ、魔女」

いとが言う。

「君はさ、
みんなに[太字][明朝体]意味[/明朝体][/太字]を渡して回ってる?」

「私は、問いを置いていくだけ」

「ふうん」

いとは、
オパールを指先で転がす。

光が、
七色に散る。

「じゃあ、私には何を置いていくの?」

魔女は、
少し考えた。

そして、こう言った。

[明朝体][大文字][太字]「掴まなくても、壊れなくてもいいってこと」
[/太字][/大文字][/明朝体]
いとは、瞬きをする。

「…それ、ちょっと危ない考えじゃない?」

「ええ」

魔女は、うなずく。

「でも、あなたはもう、
それを選んでここにいる」

オパールの色が、
一瞬だけ、
強くなる。

「私はね」

いとは、
ぽつりと言う。

「何も大切にしてないから、
何も失わない」

「でも」

「うん」

「何も失わない代わりに、
何も残らない」

いとは、少しだけ黙る。

「…それでも?」

「それでも」

魔女は、
肯定も否定もしない。

「それが、あなたの在り方なら」

風が吹く。
色が、
流れる。

「じゃあ」

いとは、笑う。

「私は、ここにいるよ。
残るわけでも、ついていくわけでもなく」

「ええ」

魔女は、
歩き出す。

「それでいい」

別れ際、いとは言った。

「君、名前は?」

「必要になったら、オパールが映すわ」

「そっか」

いとは、
興味を失ったように空を見る。

色の境界が、
溶けていく。

「…じゃあね」

それは、
執着のない別れだった。

でも、
確かに、
存在していた。

掴めない光。
意味を持たない選択。
それでも、
ここにある輝き。

オパールは、
今日も、
何色でもなく、
何色にでもなりながら、
静かに、
そこに在った。

作者メッセージ

オパールは、
ひとつの色を持たない宝石である。
見る角度や光によって、
白にも、虹にも、何色にもなり、
そして、どれでもないまま存在している。

この宝石には、
「自由」「可能性」「変化」という意味が与えられてきた。
何かを強く求めることも、
何かに深く縛られることもなく、
ただ在るという選択を、否定しない石だ。

オパールは、
意志を持たない宝石ではない。
覚悟がないわけでも、空虚なわけでもない。
掴まないこと、決めきらないこと、
執着しないことを、
自分の形として選び続ける光である。

だからこの宝石は、
「曖昧さ」や「余白」、
そして「意味を持たなくても存在していい心」を象徴する。
脆く見えたとしても、
揺らいで消えそうだとしても、
その輝きは、最初から嘘ではない。

強くなくていい。
何かを大切にしていなくてもいい。
それでも、あなたがここに在るなら、
オパールは、何色にもならないまま、そばにある。

どうか、
オパールの掴めない光と、
何にも縛られず在ることを許す静けさのご加護が、
あなたのもとにありますように。

2026/02/08 18:00

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