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完結しました【参加〆切】あなたは何の宝石ですか?話を聞かせてください。

#6

翡翠 静かな緑は、何を守るのか

森は、音を立てなかった。
風はあるのに、葉は揺れず、
世界そのものが息を潜めているみたいだった。

その中心に、ひとりの少女が立っている。

黒いパーカーに、少し大きめのジーンズ。
白いスニーカーは、土に汚れているのに、
本人は気にも留めていない様子だった。

手の中には、翡翠。

深く、静かな緑。
光を主張しないのに、確かにそこにある色。

「…こんにちは」

少女は、先に声を出した。

「髙柳茉冬です。よろしくお願いします」

言葉は丁寧で、無駄がない。
それは礼儀というより、距離の取り方だった。

魔女は、少しだけ首を傾ける。

「ここで、何をしているの?」

「…見張りです」

即答だった。

「誰かに頼まれたわけではありません。
 私が、そうするべきだと思っただけです」

翡翠が、かすかに光る。
でも、その光は外へ向かない。
内側に、沈み込むような輝きだった。

魔女は、少女の隣に立つ。
森の奥を、一緒に見る。

「疲れない?」

「…慣れています」

少しの間。

「疲れていない、とは言いません」

その訂正が、茉冬らしかった。

「貴方は、守る側ね」

魔女がそう言うと、
茉冬の指が、翡翠を握り直す。

「…はい」

否定しない。

「でも」

魔女は、続ける。

「あなたが守っているのは、
 本当に[太字]“誰か”[/太字]かしら」

沈黙。

森の奥で、枝が一本、静かに折れた。

「…分かりません」

茉冬は、目を伏せる。

「守護者だから、守る。
 優等生だから、期待に応える。
 冷静だから、感情を出さない」

一つひとつ、整理するように言う。

「そうしていれば、問題は起きません。
 誰も困りません」

「あなたは?」

魔女の声は、低い。

「…私は」

言葉が、止まる。

翡翠の緑が、わずかに揺れた。

「私は、
 何を守りたいのか、分からなくなります」

それは告白だった。

魔女は、翡翠を見る。

「この宝石はね」

静かに言う。

「癒しの石。でも同時に、
 “境界”を作る石でもあるわ」

茉冬は、顔を上げる。

[太字][明朝体]「守るために、距離を引く。
 自分を傷つけないために、役割を演じる」[/明朝体][/太字]

翡翠は、深く、深く光る。

「それは、弱さじゃない」

魔女は、茉冬を見る。

「でもね。
 守ることばかり続けていると、
 [太字]“守られていい存在”[/太字]であることを、忘れてしまう」

茉冬の胸が、少しだけ苦しくなる。

「…私は、守られる側じゃありません」

反射的に言った。

魔女は、否定しない。

「今は、そうね」

そして、こう続ける。

「でも、翡翠は[太字]“壊れない石”[/太字]じゃない。
 丁寧に扱われて、初めて、その静けさを保てる」

風が、ようやく葉を揺らした。

「…翡翠、綺麗だな」

茉冬は、小さくつぶやく。

「癒される」

それは、誰かに言うための言葉じゃない。
自分のための、確認だった。

「私」

少し迷ってから、続ける。

「完璧でいなくても、いいんでしょうか」

魔女は、即答しない。

その代わり、こう言った。

[太字][大文字][明朝体]「守る理由を、
 “義務”から“選択”に変えられたら」[/明朝体][/大文字][/太字]

翡翠が、淡く光る。

「それだけで、色は違って見えるわ」

茉冬は、しばらく宝石を見つめていた。

深い緑。
揺れないようでいて、確かに変わっている。

「…私は、ここに残ります」

「ええ」

魔女はうなずく。

「静かな場所が、必要な人もいる」

別れ際、茉冬は言った。

「貴方は、名前を聞かないんですね」

魔女は、少しだけ笑う。

「必要になったら、風が教えてくれるから」

魔女は、森を出ていく。

茉冬は、見送らない。

ただ、翡翠を胸に当てる。

守ること。
演じること。
そして、少しだけ、自分を緩めること。

静かな緑は、今日も光っている。

完全じゃなくても、
役割の中に閉じこもっていても。

それでも—
翡翠は、確かにここにある。

作者メッセージ

翡翠は、
深くやわらかな緑を宿す宝石である。
強く光るわけでも、
遠くから目を引くわけでもない。
けれどその色は、
そっと寄り添うように、確かにそこに在り続ける。

この宝石には、
「癒し」「調和」「守護」という意味が与えられてきた。
争わないこと、
壊さないこと、
静かに支えること—
それらは時に、
声を上げる強さよりも見えにくい。

翡翠は、
感情を隠すための石ではない。
耐え続けることを、
美徳として縛る石でもない。
誰かを守ろうとしてきた心が、
自分の居場所を失わないために、
そっと選び取ってきた静けさを、肯定する石だ。

だからこの宝石は、
「優しさ」や「境界」、
そして「役割の中にある自分」を象徴する。
守ることを選び続けてきた心が、
もし少し疲れていたとしても、
その緑は、もう十分に深い。

無理に強くならなくていい。
完璧でなくていい。
それでも、あなたがここに在るなら、
翡翠は変わらず、あなたのそばにある。

どうか、
翡翠の静かな緑と、
守ることを選んできた優しさのご加護が、
あなたのもとにありますように。

2026/02/08 00:00

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