終業式の日の校舎は、
音が薄い。
廊下を歩く足音も、
教室のざわめきも、
全部が一枚ガラスを挟んだ向こう側みたいだった。
「ゆめ〜、おわったねぇ」
肩にのしかかるように、
雷が寄ってくる。
今日は羽も角も出していない。
ただの、
水色の髪の女の子みたいな姿。
「終わったね。二学期」
「えへへ。お疲れさまでしたぁ」
敬語がふわふわしている。
でも、
雷はちゃんと分かっている。
“終わった”という言葉が、
ただの区切りじゃないことを。
教室の黒板には、
もう何も書いていなかった。
消し跡だけが、
うっすらと残っている。
―この[漢字]図書室[/漢字]部室[ふりがな][/ふりがな]で、
何かが起きたことはない。
誰も傷つかなかったし、
世界も壊れなかった。
でも。
「…静かすぎない?」
ぽつりと、わたしが言う。
「そう?」
雷は首をかしげる。
「いつもと同じだよ? 人間って、終わる時はだいたい静かじゃん」
「…悪魔のくせに、変なところ詳しいね」
「こう見えても悪魔。てか黙れ」
少しだけ笑った。
廊下の向こうから、
足音がする。
「神谷さん」
振り向くと、
風白先生がいた。
いつもの白いシャツ。
いつもの優しい声。
「忘れ物はありませんか?」
「…たぶん、大丈夫です」
「そうですか」
それだけ。
先生はそれ以上、
何も聞かなかった。
見えていないふりを、
今日も完璧にやっている。
雷が小さく、
あくびをする。
「ねえ、ゆめ」
「なに?」
「この学期さ」
雷は、
少しだけ真面目な顔をした。
「誰も、線を越えなかったよね」
胸の奥が、
きゅっとなる。
「…うん」
「越えようとした人もいた。
でも、越えなかった」
「うん」
「それってさ」
雷は笑う。
「えらいことだよ。すっごく」
えらい。
でも、
同時に―
「…疲れたね」
「ねぇ」
雷は、
わたしの手をぎゅっと握る。
校舎の外に出ると、空はもう冬の色をしていた。
遠くで、
紗玖と凍鶴が並んで歩いているのが見える。
首元の黒いチョーカーが、
同じ高さで揺れた。
迷宮は、
今日は静かだ。
夜になっても、
たぶん何も起きない。
「雷」
「ん〜?」
「…三学期、どうなると思う?」
雷は一瞬だけ考えて、
それから言った。
「さあ?」
赤い目が、
まっすぐこちらを見る。
「でもね。
終わったものは、戻らないよ」
その言い方が、
子どもみたいで、
悪魔みたいで、
少しだけ大人みたいだった。
「だからさ」
雷は笑う。
「次は、ちゃんと“選ぶ番”なんじゃない?」
冷たい風が吹く。
冬が来る。
二学期は、もう戻らない。
―何も壊れなかった。
―でも、確かに何かは終わった。
それで、十分だった。
音が薄い。
廊下を歩く足音も、
教室のざわめきも、
全部が一枚ガラスを挟んだ向こう側みたいだった。
「ゆめ〜、おわったねぇ」
肩にのしかかるように、
雷が寄ってくる。
今日は羽も角も出していない。
ただの、
水色の髪の女の子みたいな姿。
「終わったね。二学期」
「えへへ。お疲れさまでしたぁ」
敬語がふわふわしている。
でも、
雷はちゃんと分かっている。
“終わった”という言葉が、
ただの区切りじゃないことを。
教室の黒板には、
もう何も書いていなかった。
消し跡だけが、
うっすらと残っている。
―この[漢字]図書室[/漢字]部室[ふりがな][/ふりがな]で、
何かが起きたことはない。
誰も傷つかなかったし、
世界も壊れなかった。
でも。
「…静かすぎない?」
ぽつりと、わたしが言う。
「そう?」
雷は首をかしげる。
「いつもと同じだよ? 人間って、終わる時はだいたい静かじゃん」
「…悪魔のくせに、変なところ詳しいね」
「こう見えても悪魔。てか黙れ」
少しだけ笑った。
廊下の向こうから、
足音がする。
「神谷さん」
振り向くと、
風白先生がいた。
いつもの白いシャツ。
いつもの優しい声。
「忘れ物はありませんか?」
「…たぶん、大丈夫です」
「そうですか」
それだけ。
先生はそれ以上、
何も聞かなかった。
見えていないふりを、
今日も完璧にやっている。
雷が小さく、
あくびをする。
「ねえ、ゆめ」
「なに?」
「この学期さ」
雷は、
少しだけ真面目な顔をした。
「誰も、線を越えなかったよね」
胸の奥が、
きゅっとなる。
「…うん」
「越えようとした人もいた。
でも、越えなかった」
「うん」
「それってさ」
雷は笑う。
「えらいことだよ。すっごく」
えらい。
でも、
同時に―
「…疲れたね」
「ねぇ」
雷は、
わたしの手をぎゅっと握る。
校舎の外に出ると、空はもう冬の色をしていた。
遠くで、
紗玖と凍鶴が並んで歩いているのが見える。
首元の黒いチョーカーが、
同じ高さで揺れた。
迷宮は、
今日は静かだ。
夜になっても、
たぶん何も起きない。
「雷」
「ん〜?」
「…三学期、どうなると思う?」
雷は一瞬だけ考えて、
それから言った。
「さあ?」
赤い目が、
まっすぐこちらを見る。
「でもね。
終わったものは、戻らないよ」
その言い方が、
子どもみたいで、
悪魔みたいで、
少しだけ大人みたいだった。
「だからさ」
雷は笑う。
「次は、ちゃんと“選ぶ番”なんじゃない?」
冷たい風が吹く。
冬が来る。
二学期は、もう戻らない。
―何も壊れなかった。
―でも、確かに何かは終わった。
それで、十分だった。
- 1.先生が声を出して。
- 2.契約シマセンカ?
- 3.優シイ先生ノ協力デ活動開始シマス
- 4.契約ナキ悪魔タチ
- 5.新しい歯車が、静かに噛み合い始める
- 6.試験と、噂の始まり。 ―それは、助ける覚悟があるかを見る試験
- 7.―星が軽くするもの
- 8.風が変わる前に悪魔、夏休みへ帰る
- 9.魔界の夏日記
- 10.タクサン人ガ増エマシタ。
- 11.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 前編
- 12.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 後編
- 13.部員、増エマシタ
- 14.準備トイウ名ノ、予兆―
- 15.迷子ガ増エル日
- 16.昼ノ、普通
- 17.夜ハ、静カニ壊レル
- 18.先生ハ、気ヅカセナイ―
- 19.点数の裏側
- 20.冬になる前に
- 21.零点ノ居場所