それは、
リハーサルの合間だった。
汗を拭いて、
水を飲んで、
床に座り込んだまま、
次の指示を待っている時間。
「…あ」
みんとが、
スマホを覗き込んだまま声を出す。
「ねえ、これ…見て」
ゆめは、
差し出された画面を覗いた。
配信サイトの告知欄。
大きく表示された文字。
―《特別ライブ開催》
―偶像ユニット asternitas
一瞬、
意味が理解できなかった。
「…え?」
如月が、
ゆっくりと立ち上がる。
「へぇ」
どこか楽しそうに、
でも目は笑っていない。
「ついに、来たんだ」
ゆめは、
喉が鳴るのを感じた。
asternitas。
朱と、黄と、
―銀灰。
“次元が違う”三人。
「…ライブ?」
みんとが、
少し声を落とす。
「うちらが出るとかじゃ、ないよね?」
「違いますよ」
如月が、
スマホを指で弾く。
「完全に“彼女たちだけ”」
その言い方が、
妙に引っかかった。
ただの事実なのに、
線を引かれたみたいで。
「…観るだけ、だよね」
ゆめは、
自分に言い聞かせるように呟いた。
でも。
胸の奥が、
ざわついている。
「ま、そうだろうね」
みんとは笑う。
「うちら、まだ研修生だし!」
明るい声。
でも、
足先が小さく揺れている。
如月は、
画面から目を離さない。
「…」
しばらくして、
ぽつりと言った。
「観せる気、満々ですね」
「え?」
「日程」
如月が、
画面を見せる。
そこには、
見覚えのある文字。
―《会場:同ステージ》
ゆめは、
息を止めた。
「…同じ、場所?」
「同じステージ」
如月は微笑む。
「つまり」
少し間を置いて。
「比較される」
言葉が、
胸に落ちた。
「…そんなの」
みんとが、
小さく言う。
「酷くない?」
如月は、
肩をすくめた。
「でも」
「それが、ここですよ」
その時。
控室の扉が、
静かに開いた。
「…知った?」
管理人の声。
ゆめは、
反射的に背筋を伸ばす。
「はい」
如月が答える。
管理人は、
三人を見渡してから、
一言だけ言った。
「今回は―見て、帰ってきて」
それだけ。
評価も、
指示も、
ない。
「質問は?」
そう聞かれて、
誰も口を開けなかった。
管理人は、
少しだけ視線を伏せる。
「…心が折れそうになったら、
無理に、真似しなくていい」
その言葉が、
妙に重かった。
「歌い方も」
「立ち方も」
「生き方も」
一拍。
「―違っていい」
そう言って、
管理人は部屋を出ていった。
扉が閉まる。
沈黙。
「…ねえ」
みんとが、
ゆめを見る。
「正直さ、怖い?」
ゆめは、
少しだけ考えてから、
頷いた。
「…うん」
でも。
視界の奥で、
銀灰の光が
ちらついた気がした。
“成功は当然”。
あの声。
「…でも」
ゆめは、
拳を握る。
「観たい」
みんとが、
驚いた顔をする。
如月は、
ゆっくりと笑った。
「でしょうね」
「だって」
ゆめは、
まっすぐ前を見る。
「…知らないままの方が」
「もっと、怖いから」
三人の前に、
まだ遠い星が、
静かに瞬いていた。
―それが、
“越えてはいけない光”だと、
まだ誰も知らないまま。
リハーサルの合間だった。
汗を拭いて、
水を飲んで、
床に座り込んだまま、
次の指示を待っている時間。
「…あ」
みんとが、
スマホを覗き込んだまま声を出す。
「ねえ、これ…見て」
ゆめは、
差し出された画面を覗いた。
配信サイトの告知欄。
大きく表示された文字。
―《特別ライブ開催》
―偶像ユニット asternitas
一瞬、
意味が理解できなかった。
「…え?」
如月が、
ゆっくりと立ち上がる。
「へぇ」
どこか楽しそうに、
でも目は笑っていない。
「ついに、来たんだ」
ゆめは、
喉が鳴るのを感じた。
asternitas。
朱と、黄と、
―銀灰。
“次元が違う”三人。
「…ライブ?」
みんとが、
少し声を落とす。
「うちらが出るとかじゃ、ないよね?」
「違いますよ」
如月が、
スマホを指で弾く。
「完全に“彼女たちだけ”」
その言い方が、
妙に引っかかった。
ただの事実なのに、
線を引かれたみたいで。
「…観るだけ、だよね」
ゆめは、
自分に言い聞かせるように呟いた。
でも。
胸の奥が、
ざわついている。
「ま、そうだろうね」
みんとは笑う。
「うちら、まだ研修生だし!」
明るい声。
でも、
足先が小さく揺れている。
如月は、
画面から目を離さない。
「…」
しばらくして、
ぽつりと言った。
「観せる気、満々ですね」
「え?」
「日程」
如月が、
画面を見せる。
そこには、
見覚えのある文字。
―《会場:同ステージ》
ゆめは、
息を止めた。
「…同じ、場所?」
「同じステージ」
如月は微笑む。
「つまり」
少し間を置いて。
「比較される」
言葉が、
胸に落ちた。
「…そんなの」
みんとが、
小さく言う。
「酷くない?」
如月は、
肩をすくめた。
「でも」
「それが、ここですよ」
その時。
控室の扉が、
静かに開いた。
「…知った?」
管理人の声。
ゆめは、
反射的に背筋を伸ばす。
「はい」
如月が答える。
管理人は、
三人を見渡してから、
一言だけ言った。
「今回は―見て、帰ってきて」
それだけ。
評価も、
指示も、
ない。
「質問は?」
そう聞かれて、
誰も口を開けなかった。
管理人は、
少しだけ視線を伏せる。
「…心が折れそうになったら、
無理に、真似しなくていい」
その言葉が、
妙に重かった。
「歌い方も」
「立ち方も」
「生き方も」
一拍。
「―違っていい」
そう言って、
管理人は部屋を出ていった。
扉が閉まる。
沈黙。
「…ねえ」
みんとが、
ゆめを見る。
「正直さ、怖い?」
ゆめは、
少しだけ考えてから、
頷いた。
「…うん」
でも。
視界の奥で、
銀灰の光が
ちらついた気がした。
“成功は当然”。
あの声。
「…でも」
ゆめは、
拳を握る。
「観たい」
みんとが、
驚いた顔をする。
如月は、
ゆっくりと笑った。
「でしょうね」
「だって」
ゆめは、
まっすぐ前を見る。
「…知らないままの方が」
「もっと、怖いから」
三人の前に、
まだ遠い星が、
静かに瞬いていた。
―それが、
“越えてはいけない光”だと、
まだ誰も知らないまま。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。