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900閲覧!!【完結いたしました!】 憧れのアイドル―偶像と同じステージに立つ日まで―勝つか、消えるか、歌い手としての最初の一歩

#16

第二部 第七話 声を剥ぐ

レッスンルームの空気は、
朝よりも冷えていた。

照明は半分。
音響だけが生きている。

「一人ずつ」

歌影 奏は、
静かに告げた。

「他の二人は、
そこで聞いていてください」

逃げ場はない。

◆一人目:如月
マイクを持つ手が、
やけに軽い。

「曲は、自由で構いません」

「じゃあ…」

如月は、
微笑んだ。

甘く、
作った笑顔。

歌い出す。

―完璧。

音程。
リズム。
息の位置。

全部、正しい。

歌い終わる。

拍手は、
ない。

「…以上です」

如月が言う。

奏は、
少し首を傾けた。

「如月さん」

「はい?」

「貴女、今“誰の声”で歌いましたか?」

空気が止まる。

「…?」

「正解が分からないなら、
もう一度歌いなさい」

如月は、
一瞬だけ沈黙し―

もう一度、歌う。

今度は、
感情を足す。

それでも。

奏は、
首を振った。

「嘘が、増えましたね」

静かに。

「技術で嘘を塗り重ねると、
声は空洞になります」

如月の笑みが、
ほんの一瞬だけ、歪む。

「如月さん」

低く。

「貴女が舞台に立ち続けたいなら」

一拍。

「嘘を武器にする覚悟を、
もっと深く持ちなさい」

「中途半端は、
一番残酷です」

如月は、
何も言わなかった。

ただ、
マイクを置いた。

◆二人目:仰凪 みんと
「次、みんと」

「は、はいっ!」

マイクを持つと同時に、
姿勢が変わる。

歌いながら、
身体が動く。

声は、
遅れる。

「止めます」

即座。

「歌う前に、
一つだけ」

奏は、
みんとの胸元に手を向ける。

「声は、脚から出ます」

「…え?」

「重心、前」

床を、
軽く叩く。

「そこから、
息を上げて」

「…!」

もう一度。

今度は、
声が前に出る。

だが。

「まだ、足りません」

奏は、
淡々と続ける。

「貴女は、
踊れる自分を信じすぎている」

みんとの目が、
揺れる。

「歌は、
身体能力の延長じゃない」

一拍。

「止まった瞬間の“みんと”が、
一番弱い」

胸に、
突き刺さる。

「…もう一回、歌って」

声が、
少し震える。

それでも、
みんとは歌う。

最後、
息が切れた。

奏は、
小さく頷いた。

「今のが、
貴女です」

◆三人目:神谷 ゆめ
「最後」

名前を呼ばれた瞬間、
ゆめは、
少しだけ笑った。

いつもの、
“守る笑顔”。

「…お願いします」

曲は、
王道。

高音は、
澄んでいる。

低音も、
安定している。

―優しい。

歌い終わる。

沈黙。

「神谷さん」

奏の声は、
今までで一番、低かった。

「その歌い方で、
誰を守るつもりですか?」

心臓が、
跳ねる。

「…みんな、です」

即答。

奏は、
目を細める。

「では、
質問を変えます」

一歩、近づく。

「貴女が崩れた時、
誰が舞台を守りますか?」

息が、詰まる。

答えが、
出ない。

「神谷さん」

優しく、
残酷に。

「主役は、
盾になってはいけません」

一拍。

「矢になる覚悟がないなら、
真ん中に立つ資格はない」

視界が、
滲む。

「…もう一度、歌いなさい」

「今度は」

「誰も守らず」

「自分だけの為に」

マイクを、
握る手が震える。

歌い出す。

声が、
揺れる。

優しさが、
剥がれていく。

途中で、
息が詰まる。

止まる。

「…っ」

奏は、
何も言わなかった。

ただ。

「―今日は、ここまでです」

レッスン終了。

だが。

管理人は、
壁際でずっと見ていた。

誰よりも、
何も言わずに。

扉の前。

一度だけ、
振り返る。

「…明日」

低く。

「一人、落ちる覚悟で来い」

静かに。

「それが、
“次”だ」

扉が閉まる。

残された三人。

ゆめは、
マイクを握ったまま、
動けなかった。

―守れなくなる予感が、
はっきりと、
形を持ち始めていた。
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作者メッセージ

次回予告!

トレーニングを予定しています!

では!(きどってらぁ)

2026/02/05 18:05

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歌い手研修生から参加型

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