拍手が、
完全には止まらないまま。
次の名前が告げられる。
「―偶像、十朱みや」
その瞬間。
空気が、
“張り替えられた”。
ざわめきが、
喉で止まる。
息を吸う音すら、
邪魔になる。
カツ―
カツ―
下駄の音。
それだけで、
観客は「来た」と理解する。
朱色の照明が、
一気に天井から落ちる。
赤じゃない。
炎でもない。
“朱”。
舞台中央。
十朱みやは、
一切の無駄なく立っていた。
視線を上げるだけで、
会場の温度が変わる。
「…皆さん」
マイクに触れた指先。
―震えていない。
「少しだけ、
僕の時間を使わせて」
その言葉に、
誰も逆らえない。
音がなり始めた。
和音。
一音目で、
背筋が伸びる。
音が、
“正しい場所”に落ちてくる。
♪「朱に染まる この道を
何度も 踏みしめてきた」♪
声が、
会場を支配する。
大きくない。
派手でもない。
なのに、
逃げ場がない。
みやは、
一歩も走らない。
腕も、
大きく振らない。
ただ、
指を開く。
それだけで、
視線が奪われる。
照明が、
彼女の指先を追う。
♪「完璧なんて 言葉は
僕には 重すぎるけど」♪
一瞬、
足が引っかかる。
―誰もが見た。
でも。
みやは、
表情を変えない。
その“乱れ”すら、
振り付けの一部に変わる。
…次元が違う。
音が、
一段上がる。
♪「それでも ここに立つ
理由は ひとつだけ
君の居場所に
この声が なれたなら」♪
両手を広げた瞬間。
朱色の照明が、
客席にまで流れ込む。
―会場が、
彼女の世界になる。
拍手も、
歓声も、
まだ起きない。
起こせない。
誰も、
割り込めない。
音が落ちる。
みやは、
舞う。
神楽。
一歩、
半歩。
下駄の音が、
拍子になる。
カツ。
カツ。
心拍と、
重なる。
袖が翻るたび、
朱が軌跡を描く。
…美しい、という言葉が軽い。
♪「もし 全てを失っても
それでも 歌が残るなら
僕は ここにいたって
きっと 胸を張れる」♪
最後の音。
完全な、
無音。
一秒。
二秒。
そして。
爆発。
拍手。
歓声。
叫び。
床が、
揺れる。
みやは、
ゆっくりと一礼。
その瞬間。
ふらり。
「…っ」
体が、
前に傾く。
「だ、大丈夫…」
言葉より先に、
息が切れる。
でも、
倒れない。
倒れないまま、
最後まで立つ。
それが、
“偶像”。
袖に戻る途中。
Aster Codeの三人を見る。
視線だけで。
「―次は、
君たちが“見られる番”だよ」
何も言われていないのに、
そう聞こえた。
研修生と、
偶像。
その差が。
はっきり、
刻まれた瞬間だった。
完全には止まらないまま。
次の名前が告げられる。
「―偶像、十朱みや」
その瞬間。
空気が、
“張り替えられた”。
ざわめきが、
喉で止まる。
息を吸う音すら、
邪魔になる。
カツ―
カツ―
下駄の音。
それだけで、
観客は「来た」と理解する。
朱色の照明が、
一気に天井から落ちる。
赤じゃない。
炎でもない。
“朱”。
舞台中央。
十朱みやは、
一切の無駄なく立っていた。
視線を上げるだけで、
会場の温度が変わる。
「…皆さん」
マイクに触れた指先。
―震えていない。
「少しだけ、
僕の時間を使わせて」
その言葉に、
誰も逆らえない。
音がなり始めた。
和音。
一音目で、
背筋が伸びる。
音が、
“正しい場所”に落ちてくる。
♪「朱に染まる この道を
何度も 踏みしめてきた」♪
声が、
会場を支配する。
大きくない。
派手でもない。
なのに、
逃げ場がない。
みやは、
一歩も走らない。
腕も、
大きく振らない。
ただ、
指を開く。
それだけで、
視線が奪われる。
照明が、
彼女の指先を追う。
♪「完璧なんて 言葉は
僕には 重すぎるけど」♪
一瞬、
足が引っかかる。
―誰もが見た。
でも。
みやは、
表情を変えない。
その“乱れ”すら、
振り付けの一部に変わる。
…次元が違う。
音が、
一段上がる。
♪「それでも ここに立つ
理由は ひとつだけ
君の居場所に
この声が なれたなら」♪
両手を広げた瞬間。
朱色の照明が、
客席にまで流れ込む。
―会場が、
彼女の世界になる。
拍手も、
歓声も、
まだ起きない。
起こせない。
誰も、
割り込めない。
音が落ちる。
みやは、
舞う。
神楽。
一歩、
半歩。
下駄の音が、
拍子になる。
カツ。
カツ。
心拍と、
重なる。
袖が翻るたび、
朱が軌跡を描く。
…美しい、という言葉が軽い。
♪「もし 全てを失っても
それでも 歌が残るなら
僕は ここにいたって
きっと 胸を張れる」♪
最後の音。
完全な、
無音。
一秒。
二秒。
そして。
爆発。
拍手。
歓声。
叫び。
床が、
揺れる。
みやは、
ゆっくりと一礼。
その瞬間。
ふらり。
「…っ」
体が、
前に傾く。
「だ、大丈夫…」
言葉より先に、
息が切れる。
でも、
倒れない。
倒れないまま、
最後まで立つ。
それが、
“偶像”。
袖に戻る途中。
Aster Codeの三人を見る。
視線だけで。
「―次は、
君たちが“見られる番”だよ」
何も言われていないのに、
そう聞こえた。
研修生と、
偶像。
その差が。
はっきり、
刻まれた瞬間だった。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。