お披露目会から一日たった。
またあのステージに私は立つ。
―と、その前に。
ステージ袖は、
思ったよりも狭かった。
黒いカーテンの向こうから、
客席のざわめきが、
波みたいに押し寄せてくる。
…いる。
人が。
たくさん。
「…」
みんとは、
靴の先を揃えて、
落ち着きなく体を揺らしている。
如月は、
壁に背中を預けて、
天井を見上げていた。
「…静かだね」
みんとが、
小さく言う。
「本番前って、
いつもこうなの?」
「…分かんない」
うちは、
正直に答えた。
こんな場所、
初めてだ。
袖の床は、
少し冷たい。
足の裏から、
現実が伝わってくる。
ここで、
歌うんだ。
Aster Codeとして。
三人で。
「ね」
みんとが、
こちらを見る。
「逃げたい?」
一瞬、
言葉に詰まる。
「…ちょっとだけ」
本音。
如月が、
ふっと笑った。
「それでいいと思いますよ。
逃げたいくらいが、
ちょうどいい。
逃げたら、
ここにいないでしょうし」
…確かに。
照明が、
一段階落ちる。
アナウンスが、
遠くで始まった。
「次のステージ、
準備お願いします」
スタッフの声。
心臓が、
一気に早くなる。
「…ゆめ」
如月が、
こちらを見る。
「最初の音、
任せました」
「…うん」
喉が、
きゅっと鳴る。
みんとが、
拳を軽く握って、
小さく跳ねる。
「よしっ!
失敗しても、
死なないし!」
「…それ、
フォローになってる?」
「なってるなってる!」
少し、
笑える。
その瞬間、
袖の空気が、
ほんの少し緩んだ。
…大丈夫。
一人じゃない。
三人で、
ここに立ってる。
幕の隙間から、
光が漏れる。
白くて、
強い。
「…行くよ」
スタッフが、
合図を出す。
三人、
並ぶ。
足先が、
ラインにかかる。
この一歩で、
戻れなくなる。
でも。
如月が、
静かに言った。
「―歌いましょう」
その言葉で、
覚悟が、
胸に落ちた。
カーテンが、
開く。
まだ、
声は出していない。
でも。
もう、
歌は―
始まっていた。
イントロ。
低く、澄んだシンセ音が、
会場に一筋の線を引く。
照明は、
まだ落ちたまま。
カウントが入る。
―3、2、1。
一歩、前へ。
ライトが点く。
胸の前で、
そっと手を重ねる振り。
視線は、
客席の奥へ。
息を吸って―
歌う。
♪「まだ名前も 形も
風に溶けたままだけど
それでも今 ここに立つ
声が 答えになるから」♪
高音は、
無理に張らない。
水面みたいに、
まっすぐ伸ばす。
…聞こえてる。
自分の声が、
スピーカーを通して、
世界に出ていく。
ゆめの声に重なるように、
みんとが前へ出る。
ステップは軽く、
でも大きく。
肩から腕へ、
波を描くような動き。
♪「転んだって 笑えばいい
ほら 前はまだ続いてる
怖いのは 夢が
ほんものになる瞬間」♪
サビ前、
みんとは小さくジャンプ。
着地と同時に、
身体をひねる。
その動きに、
歓声が混じる。
照明が、
一段暗くなる。
如月が、
影から出てくる。
片手を伸ばし、
指先で空を切る。
♪「信じるって 簡単で
壊すのは もっと簡単で
それでも 嘘のない
声だけは ここにある」♪
声は低く、
少し掠れて。
物語を語るみたいに。
…引き込まれる。
三人の声が、
絡み始める。
照明が、
一気に開く。
三人、
横一列。
足を揃えて―
踏み出す。
♪「重ねた声が 道になる
迷っても 戻らない
まだ知らない 明日へ
いま 歌うよ
―Aster Code」♪
振り付けは、
シンプルだけど揃っている。
手を胸へ。
前へ伸ばす。
最後に、
三人で同じ方向を見る。
…揃ってる。
客席の空気が、
変わるのが分かる。
音が一度、
切れる。
次の瞬間。
みんとが、
一歩前。
バク転―
綺麗に決まる。
歓声。
そこから、
如月が滑るように回り、
腕で線を描く。
最後に、
ゆめが中心に戻る。
三人で、
円を作る。
♪「失くしたって いい
それでも 歌う
声がある限り
終わらない
いま ここから
始まるんだ」♪
最後の音。
三人で、
声を揃える。
♪「―Aster Code」♪
音が、
止まる。
一拍。
…拍手。
波みたいな音。
ライトが、
ゆっくり落ちる。
胸が、
熱い。
…歌えた!
ステージの端で、
管理人さんが、
じっとこちらを見ている。
その目は、
厳しいまま。
でも―
どこか、
懐かしそうだった。
カーテンが、
閉じる。
息を吐く。
「…終わった」
「生きてる…!」
みんとが、
笑う。
如月は、
静かに言った。
「―悪くない初手、ですね」
うちは、
胸に手を当てる。
まだ、
始まったばかり。
でも。
Aster Codeの声は、
確かに―
この舞台に刻まれた。
またあのステージに私は立つ。
―と、その前に。
ステージ袖は、
思ったよりも狭かった。
黒いカーテンの向こうから、
客席のざわめきが、
波みたいに押し寄せてくる。
…いる。
人が。
たくさん。
「…」
みんとは、
靴の先を揃えて、
落ち着きなく体を揺らしている。
如月は、
壁に背中を預けて、
天井を見上げていた。
「…静かだね」
みんとが、
小さく言う。
「本番前って、
いつもこうなの?」
「…分かんない」
うちは、
正直に答えた。
こんな場所、
初めてだ。
袖の床は、
少し冷たい。
足の裏から、
現実が伝わってくる。
ここで、
歌うんだ。
Aster Codeとして。
三人で。
「ね」
みんとが、
こちらを見る。
「逃げたい?」
一瞬、
言葉に詰まる。
「…ちょっとだけ」
本音。
如月が、
ふっと笑った。
「それでいいと思いますよ。
逃げたいくらいが、
ちょうどいい。
逃げたら、
ここにいないでしょうし」
…確かに。
照明が、
一段階落ちる。
アナウンスが、
遠くで始まった。
「次のステージ、
準備お願いします」
スタッフの声。
心臓が、
一気に早くなる。
「…ゆめ」
如月が、
こちらを見る。
「最初の音、
任せました」
「…うん」
喉が、
きゅっと鳴る。
みんとが、
拳を軽く握って、
小さく跳ねる。
「よしっ!
失敗しても、
死なないし!」
「…それ、
フォローになってる?」
「なってるなってる!」
少し、
笑える。
その瞬間、
袖の空気が、
ほんの少し緩んだ。
…大丈夫。
一人じゃない。
三人で、
ここに立ってる。
幕の隙間から、
光が漏れる。
白くて、
強い。
「…行くよ」
スタッフが、
合図を出す。
三人、
並ぶ。
足先が、
ラインにかかる。
この一歩で、
戻れなくなる。
でも。
如月が、
静かに言った。
「―歌いましょう」
その言葉で、
覚悟が、
胸に落ちた。
カーテンが、
開く。
まだ、
声は出していない。
でも。
もう、
歌は―
始まっていた。
イントロ。
低く、澄んだシンセ音が、
会場に一筋の線を引く。
照明は、
まだ落ちたまま。
カウントが入る。
―3、2、1。
一歩、前へ。
ライトが点く。
胸の前で、
そっと手を重ねる振り。
視線は、
客席の奥へ。
息を吸って―
歌う。
♪「まだ名前も 形も
風に溶けたままだけど
それでも今 ここに立つ
声が 答えになるから」♪
高音は、
無理に張らない。
水面みたいに、
まっすぐ伸ばす。
…聞こえてる。
自分の声が、
スピーカーを通して、
世界に出ていく。
ゆめの声に重なるように、
みんとが前へ出る。
ステップは軽く、
でも大きく。
肩から腕へ、
波を描くような動き。
♪「転んだって 笑えばいい
ほら 前はまだ続いてる
怖いのは 夢が
ほんものになる瞬間」♪
サビ前、
みんとは小さくジャンプ。
着地と同時に、
身体をひねる。
その動きに、
歓声が混じる。
照明が、
一段暗くなる。
如月が、
影から出てくる。
片手を伸ばし、
指先で空を切る。
♪「信じるって 簡単で
壊すのは もっと簡単で
それでも 嘘のない
声だけは ここにある」♪
声は低く、
少し掠れて。
物語を語るみたいに。
…引き込まれる。
三人の声が、
絡み始める。
照明が、
一気に開く。
三人、
横一列。
足を揃えて―
踏み出す。
♪「重ねた声が 道になる
迷っても 戻らない
まだ知らない 明日へ
いま 歌うよ
―Aster Code」♪
振り付けは、
シンプルだけど揃っている。
手を胸へ。
前へ伸ばす。
最後に、
三人で同じ方向を見る。
…揃ってる。
客席の空気が、
変わるのが分かる。
音が一度、
切れる。
次の瞬間。
みんとが、
一歩前。
バク転―
綺麗に決まる。
歓声。
そこから、
如月が滑るように回り、
腕で線を描く。
最後に、
ゆめが中心に戻る。
三人で、
円を作る。
♪「失くしたって いい
それでも 歌う
声がある限り
終わらない
いま ここから
始まるんだ」♪
最後の音。
三人で、
声を揃える。
♪「―Aster Code」♪
音が、
止まる。
一拍。
…拍手。
波みたいな音。
ライトが、
ゆっくり落ちる。
胸が、
熱い。
…歌えた!
ステージの端で、
管理人さんが、
じっとこちらを見ている。
その目は、
厳しいまま。
でも―
どこか、
懐かしそうだった。
カーテンが、
閉じる。
息を吐く。
「…終わった」
「生きてる…!」
みんとが、
笑う。
如月は、
静かに言った。
「―悪くない初手、ですね」
うちは、
胸に手を当てる。
まだ、
始まったばかり。
でも。
Aster Codeの声は、
確かに―
この舞台に刻まれた。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。