その部屋に、
無駄な装飾はなかった。
長いテーブル。
落とされた照明。
壁際に並ぶ、三つの椅子。
―今の歌い手界の頂点。
“偶像”と呼ばれる者たちが、
そこに座っている。
誰も、
喋らない。
視線だけが、
前を向いている。
管理人は、
資料を開かずに口を開いた。
「…今年の人材は、偏りがあります」
その一言で、
空気が少しだけ動いた。
「声が強い子が多い。
技術も、感覚も、十分にある」
管理人は、
偶像たちを見ない。
あくまで、
“状況”に向かって話している。
「でも」
一拍。
「完成している子はいません」
静寂。
「自己表現に長けた子。
人を惹きつける子。
場を明るくする子。
―…どれもいる。
ただし」
管理人は、
低く、
はっきりと言った。
「覚悟が、まだ揃っていない」
偶像たちは、
微動だにしない。
頷きも、
否定も、
ない。
「今年は、
“才能を磨く年”ではありません。
“才能を残すかどうか”を、
選ぶ年です」
少しだけ、
声が柔らぐ。
「あなた達は、
その先を知っている。
選ばれたあと、
何を失うのか。
声が、
ただの武器ではなくなる瞬間を」
管理人は、
一瞬だけ、
指先を止めた。
「だからこそ、
今年の研修生たちは―
あなた達の鏡になります。
同じ道を辿る者もいる。
途中で折れる者もいる。
…戻れなくなる者も、いるでしょう」
その言葉でも、
偶像たちは、
黙っている。
管理人は、
最後に、
静かに言った。
「感情移入は、しないでください。
期待もしないでいい。
ただ」
一拍。
「見ていてください。
彼女たちが、
どこで歌うことを選ぶのか。
―これからのcolorful jewelry (カラジュエ)のためにも―」
沈黙。
それが、
答えだった。
管理人は、
それ以上何も言わず、
会議室を後にした。
扉が閉まる。
偶像たちは、
最後まで、
一言も発さなかった。
―今年の声が、
どこへ行くのか。
それを知るのは、
まだ、
少し先の話だ。
無駄な装飾はなかった。
長いテーブル。
落とされた照明。
壁際に並ぶ、三つの椅子。
―今の歌い手界の頂点。
“偶像”と呼ばれる者たちが、
そこに座っている。
誰も、
喋らない。
視線だけが、
前を向いている。
管理人は、
資料を開かずに口を開いた。
「…今年の人材は、偏りがあります」
その一言で、
空気が少しだけ動いた。
「声が強い子が多い。
技術も、感覚も、十分にある」
管理人は、
偶像たちを見ない。
あくまで、
“状況”に向かって話している。
「でも」
一拍。
「完成している子はいません」
静寂。
「自己表現に長けた子。
人を惹きつける子。
場を明るくする子。
―…どれもいる。
ただし」
管理人は、
低く、
はっきりと言った。
「覚悟が、まだ揃っていない」
偶像たちは、
微動だにしない。
頷きも、
否定も、
ない。
「今年は、
“才能を磨く年”ではありません。
“才能を残すかどうか”を、
選ぶ年です」
少しだけ、
声が柔らぐ。
「あなた達は、
その先を知っている。
選ばれたあと、
何を失うのか。
声が、
ただの武器ではなくなる瞬間を」
管理人は、
一瞬だけ、
指先を止めた。
「だからこそ、
今年の研修生たちは―
あなた達の鏡になります。
同じ道を辿る者もいる。
途中で折れる者もいる。
…戻れなくなる者も、いるでしょう」
その言葉でも、
偶像たちは、
黙っている。
管理人は、
最後に、
静かに言った。
「感情移入は、しないでください。
期待もしないでいい。
ただ」
一拍。
「見ていてください。
彼女たちが、
どこで歌うことを選ぶのか。
―これからのcolorful jewelry (カラジュエ)のためにも―」
沈黙。
それが、
答えだった。
管理人は、
それ以上何も言わず、
会議室を後にした。
扉が閉まる。
偶像たちは、
最後まで、
一言も発さなかった。
―今年の声が、
どこへ行くのか。
それを知るのは、
まだ、
少し先の話だ。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。