掲示板の前に、
人が集まり始めていた。
朝の光が差し込む廊下。
なのに、空気だけがやけに重い。
…来たんだ。
紙は一枚。
白いボードの中央に、
静かに貼られている。
管理人さんが前に立つ。
「緊急追加筆記試験の結果を、発表します」
声は低く、
淡々。
「今回の試験は、
合否を決めるためのものではありませんでした」
…?
「ここから先に進めるかどうか。
それだけを見るための試験です」
誰も、
うなずかない。
ただ、
聞く。
「名前を呼ばれた者は、
一歩前に出てください」
心臓が、
どくん、
と鳴った。
…来る。
「―神谷ゆめ」
…え。
足が、
少し遅れて動く。
前に出た瞬間、
周囲の視線を感じた。
「―仰凪みんと」
横に、
みんとが並ぶ。
ぎゅっと拳を握って、
こっちを見る。
「―如月」
一瞬。
空気が、
確かに揺れた。
如月は、
いつも通りの笑顔で前に出る。
…合格、だよね?
考える余裕は、
なかった。
管理人さんは、
名簿に視線を落としながら、
次々に名前を呼ぶ。
…正直、
ほとんど聞こえていなかった。
音としては、
耳に入っている。
でも、
意味として、
入ってこない。
…ゆめ、って呼ばれた。
前に立ってる。
それだけで、
頭がいっぱいだった。
「以上です」
その言葉で、
ようやく現実が戻ってくる。
「呼ばれた者は、
この後、別室に集合してください。
呼ばれなかった者は、
指示があるまで待機」
…それだけ。
拍手も、
お祝いの言葉も、
なかった。
ただ、
結果だけが置かれる。
別室の空気は、
まだ少しだけ落ち着かなかった。
椅子の数は、
人の数とぴったり同じ。
…減ったな。
五十人いた頃を思い出して、
そう思う。
管理人さんが、
扉を閉めた。
音は、
静かだった。
でも、
その音で、
「ここから先は別」という線が引かれた気がした。
「改めて」
管理人さんが、
前に立つ。
「合格、おめでとうございます」
その言葉は、
思ったよりも軽かった。
拍手もない。
笑顔もない。
「ですが」
やっぱり、
続く。
「今日は、何も説明しません」
…え?
部屋の空気が、
一瞬だけ揺れた。
「今のあなた達は、
試験を終えた直後で、
判断力が不安定です」
…そこまで言う?
「期待も、不安も、
両方、膨らみすぎている」
管理人さんは、
一人ずつを見る。
「そういう状態で、
大事な話はしません」
沈黙。
「―後日」
その一言が、
やけに重い。
「合格者のみを対象とした説明会を行います。
日程と場所は、
個別に通知します。
―全員、参加必須。
欠席は、
辞退と同義です」
…辞退。
言葉が、
胸に刺さる。
「そこで、
あなた達がこれから進む道。
研修内容。
制限事項。
―そして」
一拍。
「戻れなくなる一線について話します」
…戻れなくなる。
隣で、
みんとが小さく息を呑んだ。
如月は、
腕を組んだまま、
無言で聞いている。
「今日は、解散。
浮かれる必要も、
落ち込む必要もありません、
―ただ」
管理人さんは、
最後に、
静かに言った。
「覚悟だけは、持ってきてください」
それだけ言って、
背を向けた。
扉が閉まる。
しばらく、
誰も動かなかった。
「…説明会、かぁ」
誰かが、
小さく呟く。
「怖くない?」
みんとが、
こちらを見る。
「…ちょっと」
うちは、
正直に答えた。
如月が、
くすっと笑う。
「楽しみですねぇ。
何が出てくるか、
分からない方が」
その笑顔の裏に、
本音があるのかは―
まだ、分からない。
部屋を出ると、
廊下の先に、
夕方の光が差していた。
…次は、説明会。
歌う前の、
深呼吸みたいな時間。
本当のスタートは、
まだ先。
でも。
「…来たんだ!」
この場所に、
立ち続ける資格だけは―
確かに、
手に入れた。
人が集まり始めていた。
朝の光が差し込む廊下。
なのに、空気だけがやけに重い。
…来たんだ。
紙は一枚。
白いボードの中央に、
静かに貼られている。
管理人さんが前に立つ。
「緊急追加筆記試験の結果を、発表します」
声は低く、
淡々。
「今回の試験は、
合否を決めるためのものではありませんでした」
…?
「ここから先に進めるかどうか。
それだけを見るための試験です」
誰も、
うなずかない。
ただ、
聞く。
「名前を呼ばれた者は、
一歩前に出てください」
心臓が、
どくん、
と鳴った。
…来る。
「―神谷ゆめ」
…え。
足が、
少し遅れて動く。
前に出た瞬間、
周囲の視線を感じた。
「―仰凪みんと」
横に、
みんとが並ぶ。
ぎゅっと拳を握って、
こっちを見る。
「―如月」
一瞬。
空気が、
確かに揺れた。
如月は、
いつも通りの笑顔で前に出る。
…合格、だよね?
考える余裕は、
なかった。
管理人さんは、
名簿に視線を落としながら、
次々に名前を呼ぶ。
…正直、
ほとんど聞こえていなかった。
音としては、
耳に入っている。
でも、
意味として、
入ってこない。
…ゆめ、って呼ばれた。
前に立ってる。
それだけで、
頭がいっぱいだった。
「以上です」
その言葉で、
ようやく現実が戻ってくる。
「呼ばれた者は、
この後、別室に集合してください。
呼ばれなかった者は、
指示があるまで待機」
…それだけ。
拍手も、
お祝いの言葉も、
なかった。
ただ、
結果だけが置かれる。
別室の空気は、
まだ少しだけ落ち着かなかった。
椅子の数は、
人の数とぴったり同じ。
…減ったな。
五十人いた頃を思い出して、
そう思う。
管理人さんが、
扉を閉めた。
音は、
静かだった。
でも、
その音で、
「ここから先は別」という線が引かれた気がした。
「改めて」
管理人さんが、
前に立つ。
「合格、おめでとうございます」
その言葉は、
思ったよりも軽かった。
拍手もない。
笑顔もない。
「ですが」
やっぱり、
続く。
「今日は、何も説明しません」
…え?
部屋の空気が、
一瞬だけ揺れた。
「今のあなた達は、
試験を終えた直後で、
判断力が不安定です」
…そこまで言う?
「期待も、不安も、
両方、膨らみすぎている」
管理人さんは、
一人ずつを見る。
「そういう状態で、
大事な話はしません」
沈黙。
「―後日」
その一言が、
やけに重い。
「合格者のみを対象とした説明会を行います。
日程と場所は、
個別に通知します。
―全員、参加必須。
欠席は、
辞退と同義です」
…辞退。
言葉が、
胸に刺さる。
「そこで、
あなた達がこれから進む道。
研修内容。
制限事項。
―そして」
一拍。
「戻れなくなる一線について話します」
…戻れなくなる。
隣で、
みんとが小さく息を呑んだ。
如月は、
腕を組んだまま、
無言で聞いている。
「今日は、解散。
浮かれる必要も、
落ち込む必要もありません、
―ただ」
管理人さんは、
最後に、
静かに言った。
「覚悟だけは、持ってきてください」
それだけ言って、
背を向けた。
扉が閉まる。
しばらく、
誰も動かなかった。
「…説明会、かぁ」
誰かが、
小さく呟く。
「怖くない?」
みんとが、
こちらを見る。
「…ちょっと」
うちは、
正直に答えた。
如月が、
くすっと笑う。
「楽しみですねぇ。
何が出てくるか、
分からない方が」
その笑顔の裏に、
本音があるのかは―
まだ、分からない。
部屋を出ると、
廊下の先に、
夕方の光が差していた。
…次は、説明会。
歌う前の、
深呼吸みたいな時間。
本当のスタートは、
まだ先。
でも。
「…来たんだ!」
この場所に、
立ち続ける資格だけは―
確かに、
手に入れた。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。