ステージ袖は、
思っていたよりも静かだった。
…心臓、
うるさい。
照明の熱。
床越しに伝わる振動。
向こう側には、
審査員と、
管理人さん。
そして―
三人。
如月さん。
仰凪みんと。
うち、
神谷ゆめ。
「…大丈夫?」
仰凪さんが、
小さく声をかけてくれた。
「はい」
嘘じゃない。
怖いけど、
逃げたいとは思ってない。
如月さんは、
いつもみたいに微笑んでいる。
「ふふ…。
こういう瞬間、
ボク好きなんですよねぇ」
…本音か嘘か、分からない。
「では」
アナウンスが響く。
「三人グループ評価・次の組、入ってください」
照明が、
落ちる。
一歩。
二歩。
ステージに立った瞬間、
空気が変わった。
―来た。
ドアの向こうから、
拍手とざわめきが聞こえる。
観客席には審査員と管理人さん。
ここが―、
自分たちの実力が最終的に試される舞台。
「…行くしかない」
うちは深く息を吸い、
肩の力を抜いた。
仰凪みんとを見る。
いつもの明るい笑顔が、
少しだけ硬い。
如月は壁にもたれ、
口角をほんの少し上げている。
あの人、いつも通りだけど…。
音楽が流れ始める。
低めのビート。
ゆっくりと、
心臓が音に合わせて高鳴る。
最初は、
仰凪みんと。
鏡で何度も練習した通り、
落ち着いた動きと声で全体を支える。
その安定感に、
うちは少し気持ちが落ち着く。
「…すごい」
次は、如月。
彼女が歌い始めた瞬間、
空気が変わる。
声の強弱、
表情の揺らぎ、
目線の角度―
一瞬で観客の視線を奪う。
…ずるい。
そして、
サビ直前。
うちの出番が来る。
深く息を吸う。
高鳴る鼓動を押さえ、
胸に込めた想いを歌に変える。
低音で始める―
まるで心の奥をくすぐるように、
柔らかく、
温かく。
そして、
勢いよく高音へ。
息を使い、
声を伸ばす。
胸に溜めていたすべての想いを放つ―
「…届いて」
二人の声と重なり、
三人の声が一つの波になる。
誰もが息を飲む瞬間。
そして最後、
音が止まる。
ステージは、
静寂に包まれた。
拍手も歓声も、
一瞬だけ止まったように感じる。
…やりきった!
仰凪みんとが、
少し息をつき、
目を細める。
如月は微笑み、
少し肩をすくめている。
うちは、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
拍手が始まった。
大きくもなく、
小さくもなく、
でも、
確かに、
評価されている感覚。
「…これで、私たちの全力、伝わったよね」
心の中で、
そうつぶやく。
まだ結果は出ていない。
だが、
この瞬間、
自分たちが全力を出したことだけは確かだった。
会場の空気は、
鉄のように冷たかった。
50人ほどの研修生が、
並べられた長い列の前で静かに息を殺している。
管理人さんが前に立ち、
書類を手に軽く目を通す。
「―では、三人グループ評価の結果を発表します」
言葉は淡々としているのに、
その声が、
空間に落ちるたびに重く響く。
「今回、全体としてのレベルは非常に高く、評価は割れました」
周囲が、
ざわり、
と揺れる。
息を呑む音が、
無言の合図のように広がる。
管理人さんはゆっくりと視線を巡らせ、
次の瞬間―
―名前を呼ぶ。
「仰凪みんと、神谷ゆめ―合格」
胸が、
きゅう、
と締め付けられたあと、
温かさが一気に押し寄せる。
仰凪みんとは、小さく息を吐き、
「…ありがとうございます」
と、照れくさそうに呟く。
うちも、心の底からホッとした。
だが―
管理人さんの視線は残りの一人に向けられている。
「如月―保留です」
場内の空気が、
一瞬で張り詰める。
ざわめきが広がる中、
如月は軽く肩をすくめ、
いつもの嘘混じりの笑みを見せる。
「へぇ。
…ボク、ですか」
声は明るいのに、
その目はどこか鋭く、
笑顔の裏に隠れた不安が透ける。
管理人さんは書類を見ながら、
静かに理由を述べた。
「理由は二つ。
一つ目、あなたは人を惹きつける力が強すぎる。
二つ目、本心がまだ見えない。だから現時点では判断できません」
場内は息を呑む。
「合格でも不合格でもない」
―その言葉が、異様な重みを持って響く。
「最終判断は後日、個別に通知します。
ただし次はありません」
その一言で、
保留者の重みが決定的になる。
如月は一瞬、
黙って微笑む。
「ボク、追いつくの得意ですから」
その言葉が、
挑戦状のようにも、
宣言のようにも聞こえた。
管理人さんは、
無表情で小さく頷き、
書類を閉じた。
ゆめはその背中を見ながら、
心の中で誓う。
…次は、絶対に、負けない。
緊張と安堵が交錯する中、
三人のグループは、
静かに、
ステージを後にした。
思っていたよりも静かだった。
…心臓、
うるさい。
照明の熱。
床越しに伝わる振動。
向こう側には、
審査員と、
管理人さん。
そして―
三人。
如月さん。
仰凪みんと。
うち、
神谷ゆめ。
「…大丈夫?」
仰凪さんが、
小さく声をかけてくれた。
「はい」
嘘じゃない。
怖いけど、
逃げたいとは思ってない。
如月さんは、
いつもみたいに微笑んでいる。
「ふふ…。
こういう瞬間、
ボク好きなんですよねぇ」
…本音か嘘か、分からない。
「では」
アナウンスが響く。
「三人グループ評価・次の組、入ってください」
照明が、
落ちる。
一歩。
二歩。
ステージに立った瞬間、
空気が変わった。
―来た。
ドアの向こうから、
拍手とざわめきが聞こえる。
観客席には審査員と管理人さん。
ここが―、
自分たちの実力が最終的に試される舞台。
「…行くしかない」
うちは深く息を吸い、
肩の力を抜いた。
仰凪みんとを見る。
いつもの明るい笑顔が、
少しだけ硬い。
如月は壁にもたれ、
口角をほんの少し上げている。
あの人、いつも通りだけど…。
音楽が流れ始める。
低めのビート。
ゆっくりと、
心臓が音に合わせて高鳴る。
最初は、
仰凪みんと。
鏡で何度も練習した通り、
落ち着いた動きと声で全体を支える。
その安定感に、
うちは少し気持ちが落ち着く。
「…すごい」
次は、如月。
彼女が歌い始めた瞬間、
空気が変わる。
声の強弱、
表情の揺らぎ、
目線の角度―
一瞬で観客の視線を奪う。
…ずるい。
そして、
サビ直前。
うちの出番が来る。
深く息を吸う。
高鳴る鼓動を押さえ、
胸に込めた想いを歌に変える。
低音で始める―
まるで心の奥をくすぐるように、
柔らかく、
温かく。
そして、
勢いよく高音へ。
息を使い、
声を伸ばす。
胸に溜めていたすべての想いを放つ―
「…届いて」
二人の声と重なり、
三人の声が一つの波になる。
誰もが息を飲む瞬間。
そして最後、
音が止まる。
ステージは、
静寂に包まれた。
拍手も歓声も、
一瞬だけ止まったように感じる。
…やりきった!
仰凪みんとが、
少し息をつき、
目を細める。
如月は微笑み、
少し肩をすくめている。
うちは、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
拍手が始まった。
大きくもなく、
小さくもなく、
でも、
確かに、
評価されている感覚。
「…これで、私たちの全力、伝わったよね」
心の中で、
そうつぶやく。
まだ結果は出ていない。
だが、
この瞬間、
自分たちが全力を出したことだけは確かだった。
会場の空気は、
鉄のように冷たかった。
50人ほどの研修生が、
並べられた長い列の前で静かに息を殺している。
管理人さんが前に立ち、
書類を手に軽く目を通す。
「―では、三人グループ評価の結果を発表します」
言葉は淡々としているのに、
その声が、
空間に落ちるたびに重く響く。
「今回、全体としてのレベルは非常に高く、評価は割れました」
周囲が、
ざわり、
と揺れる。
息を呑む音が、
無言の合図のように広がる。
管理人さんはゆっくりと視線を巡らせ、
次の瞬間―
―名前を呼ぶ。
「仰凪みんと、神谷ゆめ―合格」
胸が、
きゅう、
と締め付けられたあと、
温かさが一気に押し寄せる。
仰凪みんとは、小さく息を吐き、
「…ありがとうございます」
と、照れくさそうに呟く。
うちも、心の底からホッとした。
だが―
管理人さんの視線は残りの一人に向けられている。
「如月―保留です」
場内の空気が、
一瞬で張り詰める。
ざわめきが広がる中、
如月は軽く肩をすくめ、
いつもの嘘混じりの笑みを見せる。
「へぇ。
…ボク、ですか」
声は明るいのに、
その目はどこか鋭く、
笑顔の裏に隠れた不安が透ける。
管理人さんは書類を見ながら、
静かに理由を述べた。
「理由は二つ。
一つ目、あなたは人を惹きつける力が強すぎる。
二つ目、本心がまだ見えない。だから現時点では判断できません」
場内は息を呑む。
「合格でも不合格でもない」
―その言葉が、異様な重みを持って響く。
「最終判断は後日、個別に通知します。
ただし次はありません」
その一言で、
保留者の重みが決定的になる。
如月は一瞬、
黙って微笑む。
「ボク、追いつくの得意ですから」
その言葉が、
挑戦状のようにも、
宣言のようにも聞こえた。
管理人さんは、
無表情で小さく頷き、
書類を閉じた。
ゆめはその背中を見ながら、
心の中で誓う。
…次は、絶対に、負けない。
緊張と安堵が交錯する中、
三人のグループは、
静かに、
ステージを後にした。
- 1.第一部 第零話 スタートライン手前にて
- 2.第一部 第一話 スタートラインに立ったもの
- 3.第一部 第二話 開始のブザーが鳴り
- 4.第一部 第三話 前傾姿勢になって。
- 5.第一部 第四話 もう一度?
- 6.第一部 第五話 採点室にて
- 7.第一部 第六話 歌い手に。 そして本当のスタートを前に。
- 8.第一部 最終話 説明会前日
- 9.第二部 第零話 静かな会議室にて
- 10.第二部 第一話 お披露目会
- 11.第二部 第二話 お披露目会・終了後
- 12.第二部 第三話 初舞台
- 13.第二部 第四話 朱、降臨
- 14.第二部 第五話 黄、すべてを照らす
- 15.第二部 第六話 声を並べる者たち
- 16.第二部 第七話 声を剥ぐ
- 17.第二部 第七・五話 身体は嘘をつかない
- 18.第二部 最終話 管理人の記録
- 19.第三部 第零話 週刊誌
- 20.第三部 第一話 予定外の光
- 21.第三部 第二話 知らされる星
- 22.第三部 第三話 星降る夜、未来を夢見る
- 23.第三部 チーム編成
- 24.第三部 第四話 チーム分けと練習、そして思い出
- 25.第三部 第五話 グループで発表会
- 26.第三部 第六話 如月の成長
- 27.第三部 第七話 みんとは。
- 28.第三部 第八話 如月の本音
- 29.第三部 第九話 火が付く
- 30.第三部 第十話 炎上
- 31.第三部 第十一話 お願い
- 32.第三部 最終話 管理人は。
- 33.第四部 第零話 声を捨てたもの
- 34.第四部 第一話 揺れる光
- 35.第四部 第二話 疑問を持つ者
- 36.第四部 第三話 新たな火種
- 37.第四部 第四話 崩れる夜
- 38.第四部 第五話 管理人の決断
- 39.第四部 最終話 継ぐ光
- 40.第五部 第零話 余光を見つめて
- 41.第五部 第一話 違和感
- 42.第五部 第2話 選ばれない側
- 43.第五部 第三話 管理人の視線
- 44.第五部 第四話 事件、そして―
- 45.第五部 最終話 光の交代
- 46.第六部 第零話 今年の光
- 47.第六部 第一話 光の隣で
- 48.第六部 第二話 崩れた予定
- 49.第六部 第三話 本音
- 50.第六部 第四話 ソノスの役目
- 51.第六部 最終話 光は、隣で
- 52.最後に。