コンティニュー・スタート最終話
死して時間を巻き戻す力――コンティニュー。
その力は何度も優斗を救ってきたが、同時に何度も優斗を殺してきた。この力は決して素晴らしいものとは口が裂けても言えない。何故なら、これは人生を都合よくコンティニューできる万能な力ではなく、ただ強制コンティニューさせ続けられる、それ以上でもそれ以下でもない力だったからだ。
望まないやり直しを何度もさせられ、優斗は幾度となく精神を壊してきた。死んでも死んでも死ねない絶望は、まさしく終わりのない無限地獄。無情なことに、死んだ心だけはコンティニューせず、肉体が蘇ったあとも死の前の状態を引き継いでいる。死ねば死ぬほど心の傷は広がり、それがどれだけ優斗を追い詰めたかなんて、説明しなくとも想像に容易いだろう。
「――ちょっとお父さん! 休日だからっていつまで寝てるのっ。子供たちが退屈してるから早く起きてよ!」
だが、そんな壊れた彼の心を支え、ずっと寄り添い続けてくれた女性が居る。彼女が居なかったら優斗はきっとこの世界を救えなかった。そう断言できるくらいには、彼女――遠藤結理の存在は優斗にとって大きかっただろう。
「......分かってるよ。......あと十分」
「分かってないじゃん!?」
結理が怒り声でモーニングコールをしてくれるが、睡魔に抗えず二度寝してしまう。今日は休日なので、仕事も休み。なのでこれくらいの我儘は許されてもいいだろう。
「許されるわけないから! ほら、早く起きる!」
「うわっさむっ!」
毛布に顔を隠したら、勢いよくはぎとられた。温かな感触が一瞬にして消え去り、優斗は小さく悲鳴を上げた。
「早く起きてっ。私、今日はランと一緒に家事を手伝わないといけないの。お父さんが子供の面倒みてくれないと、仕事に送れちゃう」
結理の甲高い声を聞きながら、優斗はなかなか開かない目をごしごしと擦る。それからゆっくりと顔を上げ、ぼやける視界に結理を映した。目が慣れてきたのか、だんだんと輪郭がはっきりとしてくる。
「――なんか、変な夢見た」
結理の怒り顔を見ながら、優斗はぽつりとこぼした。すると結理はきょとんとした顔つきになる。
「夢?」
「うん。毎日同じ人が、俺らのことを画面越しに見ているんだよ。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなく、ただ必死な顔つきで毎日毎日。それでその人は、俺が結理と世界を救った日を境に、いなくなったんだ」
「何それ。すごく気味悪いよ」
「いや、不気味とかそういう感じじゃなかったけどな。でも、ほんと変な夢だった」
優斗が見た夢。それは、優斗が今まで見てきた世界、そして行動を、何者かが毎日画面越しに見ているというものだ。それだけ聞けば確かに不気味の一言に尽きるが、これを夢で見た優斗は不気味とは思わない。しかし、その人物が何をしたかったのかは分からなかった。
「まぁ、いいや。それでなんだっけ。姫菜の世話?」
「そう! お父さんと遊びたいらしいから、付き合ってあげて」
夢の話から切り替え、本題に戻す。今、優斗と結理は結婚し、二人の間には姫菜という娘が産まれていた。今でも屋敷暮らしのこの家族は、屋敷の人間からも支えられながら、幸せな生活を送っている。
「――パパ―! 遊ぼう!」
勢いよく扉を開けて、姫菜がやってきた。それを優斗は笑顔で出迎え、こちらに向かって走ってくる娘を優しく抱きしめてあげる。
「じゃあ、姫菜のこと頼むね」
「ああ。母さんも仕事頑張って」
「うん。ありがとう」
そうして、今日も明日も優斗にとって幸せな生活が続いていく。
もう彼らを脅かすものはこの世界には存在しない。何せ、この世界は『完全クリア』を成し遂げた、エンディング後の世界なのだから。
***
死にゲーというものがある。
それは、何度も死にながら少しずつ攻略していくタイプのゲームのことだ。この肩書を関するものは、当然ゲームとして難易度が高く、死を前提として物語を進める必要がある。
そしてその中でも特に理不尽要素が多く、真のゲーマーでなければ手の付けただけで火傷する、クリア不可能といっても過言ではないとてつもない難易度を誇るものが存在した。
「――これか」
とある日、一人のゲーマーがゲームセンターにやってきた。そこでお目当てのゲームを見つけ、席につく。
「――」
100円玉を入れ、ゲームを開始した。まず最初に自分のセーブデータを作り、そして物語が開始される。
「主人公は......高校生か」
映った画面には、二人の高校生の姿があった。おそらくゲーム本編のメインキャラクターなのだろう。
「さて、ゲーマーの本気見せちゃいますか」
そしてゲーマーである彼の死闘が始まる。彼は、この超高難易度のゲームに何度も何度もコンティニューを繰り返し、何度も何度も絶望を味合わされた。それでも彼は諦めず、毎日ゲームセンターに通い、ゲーマーの意地で物語に向き合い続ける。
そして一年以上かけて、この超高難易度死にゲーは『完全クリア』されるのだった。
その力は何度も優斗を救ってきたが、同時に何度も優斗を殺してきた。この力は決して素晴らしいものとは口が裂けても言えない。何故なら、これは人生を都合よくコンティニューできる万能な力ではなく、ただ強制コンティニューさせ続けられる、それ以上でもそれ以下でもない力だったからだ。
望まないやり直しを何度もさせられ、優斗は幾度となく精神を壊してきた。死んでも死んでも死ねない絶望は、まさしく終わりのない無限地獄。無情なことに、死んだ心だけはコンティニューせず、肉体が蘇ったあとも死の前の状態を引き継いでいる。死ねば死ぬほど心の傷は広がり、それがどれだけ優斗を追い詰めたかなんて、説明しなくとも想像に容易いだろう。
「――ちょっとお父さん! 休日だからっていつまで寝てるのっ。子供たちが退屈してるから早く起きてよ!」
だが、そんな壊れた彼の心を支え、ずっと寄り添い続けてくれた女性が居る。彼女が居なかったら優斗はきっとこの世界を救えなかった。そう断言できるくらいには、彼女――遠藤結理の存在は優斗にとって大きかっただろう。
「......分かってるよ。......あと十分」
「分かってないじゃん!?」
結理が怒り声でモーニングコールをしてくれるが、睡魔に抗えず二度寝してしまう。今日は休日なので、仕事も休み。なのでこれくらいの我儘は許されてもいいだろう。
「許されるわけないから! ほら、早く起きる!」
「うわっさむっ!」
毛布に顔を隠したら、勢いよくはぎとられた。温かな感触が一瞬にして消え去り、優斗は小さく悲鳴を上げた。
「早く起きてっ。私、今日はランと一緒に家事を手伝わないといけないの。お父さんが子供の面倒みてくれないと、仕事に送れちゃう」
結理の甲高い声を聞きながら、優斗はなかなか開かない目をごしごしと擦る。それからゆっくりと顔を上げ、ぼやける視界に結理を映した。目が慣れてきたのか、だんだんと輪郭がはっきりとしてくる。
「――なんか、変な夢見た」
結理の怒り顔を見ながら、優斗はぽつりとこぼした。すると結理はきょとんとした顔つきになる。
「夢?」
「うん。毎日同じ人が、俺らのことを画面越しに見ているんだよ。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなく、ただ必死な顔つきで毎日毎日。それでその人は、俺が結理と世界を救った日を境に、いなくなったんだ」
「何それ。すごく気味悪いよ」
「いや、不気味とかそういう感じじゃなかったけどな。でも、ほんと変な夢だった」
優斗が見た夢。それは、優斗が今まで見てきた世界、そして行動を、何者かが毎日画面越しに見ているというものだ。それだけ聞けば確かに不気味の一言に尽きるが、これを夢で見た優斗は不気味とは思わない。しかし、その人物が何をしたかったのかは分からなかった。
「まぁ、いいや。それでなんだっけ。姫菜の世話?」
「そう! お父さんと遊びたいらしいから、付き合ってあげて」
夢の話から切り替え、本題に戻す。今、優斗と結理は結婚し、二人の間には姫菜という娘が産まれていた。今でも屋敷暮らしのこの家族は、屋敷の人間からも支えられながら、幸せな生活を送っている。
「――パパ―! 遊ぼう!」
勢いよく扉を開けて、姫菜がやってきた。それを優斗は笑顔で出迎え、こちらに向かって走ってくる娘を優しく抱きしめてあげる。
「じゃあ、姫菜のこと頼むね」
「ああ。母さんも仕事頑張って」
「うん。ありがとう」
そうして、今日も明日も優斗にとって幸せな生活が続いていく。
もう彼らを脅かすものはこの世界には存在しない。何せ、この世界は『完全クリア』を成し遂げた、エンディング後の世界なのだから。
***
死にゲーというものがある。
それは、何度も死にながら少しずつ攻略していくタイプのゲームのことだ。この肩書を関するものは、当然ゲームとして難易度が高く、死を前提として物語を進める必要がある。
そしてその中でも特に理不尽要素が多く、真のゲーマーでなければ手の付けただけで火傷する、クリア不可能といっても過言ではないとてつもない難易度を誇るものが存在した。
「――これか」
とある日、一人のゲーマーがゲームセンターにやってきた。そこでお目当てのゲームを見つけ、席につく。
「――」
100円玉を入れ、ゲームを開始した。まず最初に自分のセーブデータを作り、そして物語が開始される。
「主人公は......高校生か」
映った画面には、二人の高校生の姿があった。おそらくゲーム本編のメインキャラクターなのだろう。
「さて、ゲーマーの本気見せちゃいますか」
そしてゲーマーである彼の死闘が始まる。彼は、この超高難易度のゲームに何度も何度もコンティニューを繰り返し、何度も何度も絶望を味合わされた。それでも彼は諦めず、毎日ゲームセンターに通い、ゲーマーの意地で物語に向き合い続ける。
そして一年以上かけて、この超高難易度死にゲーは『完全クリア』されるのだった。
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