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詩・短編小説集〜夜空の星〜

#7

【笑顔はもう、思い出だった 2】

彼の声は、驚くほど冷たかった。

「噓じゃない」

その言葉が、胸の奥を静かにひび割らせる。

忘れたなんて、嘘だ。

あの頃の彼は、よく笑っていた。
くだらないことで、息ができなくなるくらい、目尻に涙を浮かべながら。

私より、ずっと。

だからこそ、今の彼を見ていると、怖くて仕方がない。

笑えない彼を見ていると、まるで私が、あの笑顔を少しずつ削ってしまったような気がしてならない。

「噓よ」

怒っているわけじゃない。ただ、すがっているだけだ。

いなくならないで、と。

まだ、隣にいて、と。

でも、それは言ってはいけない言葉だと、私は知っている。

彼はきっと、私のために笑おうとするだろう。
無理をして、壊れてしまうだろう。

それだけは、どうしても嫌だった。

「なら……なんで、まだここにいるの?」

卑怯な質問だと思った。

答えなんて、わかっている。

私が、離れられないからだ。

彼が笑えないなら、せめて隣で一緒に立ち止まっていたいと、思ってしまう自分がいる。

でも、それは優しさじゃない。

彼の時間まで、止めてしまうだけだ。

彼の目は、もうどこか遠くを見ている。

私の向こう側。きっと、未来を。

その視線が、少しだけ寂しそうで、胸の奥でひどく痛む。

ああ、彼は、私の手を離そうとしている。

嫌だ、と叫びたいのに。

それでも――

そのほうが、いいのかもしれないと、どこかで静かに理解している自分がいる。

まだ、決められない。

頷くことも、引き止めることもできない。

ただ、彼の横顔を見つめながら、

もしその時が来たら、ちゃんと受け止められるようにと、

心の奥で、そっと準備をしていた。

――END――
華恋_karen

作者メッセージ

【笑顔はもう、思い出だった】シリーズ第2作目です!

2026/05/01 10:25

華恋_karen
ID:≫ 10a8Rho2sBdDU
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