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詩・短編小説集〜夜空の星〜

#6

【笑顔はもう、思い出だった】 1

彼女の声が、遠くから届く。

「……笑ってよ」
「また、あの頃みたいに……笑って」

その声が胸の奥を突き刺す。

でも、答えられない。

何を言っても、何をしても、もう手遅れだと知っているから。

――"あの頃"。

高校を辞めたあの日から、彼女はずっとそばにいてくれた、
無邪気に笑い合えたあの頃。

「……あの頃だって? もう、忘れたよ」

その言葉が口をついて出た瞬間、胸の中で何かが崩れ落ちる。

忘れた――?
違う。
本当は、あの笑顔を、あの頃を、取り戻したい。

それでも、どうしても手が届かない自分がいる。
彼女を傷つけたくないのに、無力さが胸を締めつける。

「噓よ」

震える声が胸を刺す。

「噓じゃない」

冷たい声だった。
それが自分のものだと理解するのに、少し時間がかかった。
まるで、他人が喋っているみたいで、息が詰まりそうだった。

「なら…なんで、まだここにいるの?」

彼女の瞳を見つめる。
そこには、まだ俺を求める光が残っていた。
縋るような、壊れそうな光だった。

でも――
俺はもう、彼女を支えられない。

「……笑いたいからでしょ……?」

泣きそうな顔。

その瞬間、胸の奥が強く締め付けられる。

けれど、言葉が出ない。

俺はもう、笑えない。
彼女を笑わせることも、できない。

「……もう、笑顔なんていらない」

その言葉は彼女に向けたはずなのに、最も深く刺さったのは
――俺自身だった。

取り戻したいと思わなかったわけじゃない。あの頃の、何気ない笑顔を。

けれど――

俺はもう、笑い方さえ、忘れてしまったから。

笑顔はもう、ただの思い出になった。

――心のどこかで、彼女を愛しているのに、
その彼女を壊さないために、手を離すしかなかった。

――END――
華恋_karen

作者メッセージ

笑顔はもう、思い出だった
第1話 ――"あの頃"。


全5話でお送りします!

2026/04/21 10:12

華恋_karen
ID:≫ 10a8Rho2sBdDU
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