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とりぷるふーるず!!

#4

ぱすとめらんこりー!

 夜。静まり返った体育館。
 条兎は、誰もいない窓近くの腰掛けに一人座っていた。
 影が、でかい。けど、それを誇ることはできなかった。

「男みたいな体つきで、女を名乗るのは恥ずかしいと思わないの?」

 ──母の声が、耳の奥でリフレインする。

「私は、私でいたい。」

 その一言が言えなかった。
 ただ、吐きそうなほどの痛みを抑えて笑うことしかできなかった。

 母にスカートを隠されたあの日。

 成長痛のせいにして静かに泣いたあの日。

 男子のグループに混ぜられてスポーツをしたあの日。

 些細なことに、心が軋んだ。
 スポーツが嫌いなわけじゃない、むしろ好きだ。
 でも今は霞んで、何も感じなくなった。

 私は、どうしたらいいんだろう。

★☆★

 アトリエ。壁一面の絵。
 どれも、色彩は狂おしいほど美しい。けれど――どこか、冷たい。
 汐花はキャンバスをにらむ。
 手が動かない。
 まただ。描けない。

 ──ボクはいつの間にか、比べられることが怖くなった。

「え?これって影響受けてないの?本当にオリジナル?」

 そう言われるたび、突き放したくなる心を抑えて薄っぺらい冗談を塗りたくった。
 ボクの色なんてない、ボクは、いろんな色を混ぜたドブみたいな色なんだ。
 こんな色、誰も愛してくれるはずがない。

 両親に言われたあの言葉で、一気に“ボク”は崩れていった。

「あなたは万人のための芸術を描くべきだ」

 もう、筆はボクのものじゃなくなっていた。
 それでも描かなくちゃダメ。

 かけないボクに、意味なんてないから。

★☆★

 親から与えられた“勉強用の部屋”。
 夜に光るのは、パソコンのディスプレイと、弥生の眼だけ。
 ページをめくる。論文、論文、また論文。
 弥生の部屋に、ポスターもぬいぐるみもない。
 あるのは、物理学と解剖学と、沈黙。

 ──僕には生まれつき、視覚処理に異常があった。

 人の顔が、認識できなかった。
 目と鼻と口は認識できる。一気に認識した瞬間、のっぺらぼうのように見えなくなる。
 だから人間を顔じゃなく「科学」で認識し始めた。
 そのうち「人間、観察しても法則性ないじゃん」と思った。
 でも、数式は違う。
 光の屈折率も、波長も、完璧だった。
 僕にはそれが宝物のように見える。

 両親は科学者。弥生を天才として育てた。

「お前は、未来を変える頭脳だ」

 誇り、期待、圧――全部一緒に押しつぶされそうだった。

 ある日、全てが霞んだ。
 光の加減ではなく、心が霞んでしまった。
 何も見えないなら、もう、生きる意味も見えない気がして。

 なら、最後くらいは私の思う中で一番人間臭い選択をしたかった。

★☆★

 ──それぞれ、バラバラだった天才たち。
 孤独と呪いに喰われかけていた3人は、出会った。
 そして今、

 自分たちのルールで生きる道を選んだ。

「……でもよく考えたら、うちらやってることめっちゃバカだよね」

「バカでいいの。だから"とりぷるふーるず"なんでしょ?」

「うん……この名前、大事にしよう」

2025/12/20 20:08

枯花
ID:≫ 13U0WLjJcZw1g
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