夜。静まり返った体育館。
条兎は、誰もいない窓近くの腰掛けに一人座っていた。 影が、でかい。けど、それを誇ることはできなかった。
「男みたいな体つきで、女を名乗るのは恥ずかしいと思わないの?」
──母の声が、耳の奥でリフレインする。
「私は、私でいたい。」
その一言が言えなかった。
ただ、吐きそうなほどの痛みを抑えて笑うことしかできなかった。
母にスカートを隠されたあの日。
成長痛のせいにして静かに泣いたあの日。
男子のグループに混ぜられてスポーツをしたあの日。
些細なことに、心が軋んだ。
スポーツが嫌いなわけじゃない、むしろ好きだ。
でも今は霞んで、何も感じなくなった。
私は、どうしたらいいんだろう。
★☆★
アトリエ。壁一面の絵。 どれも、色彩は狂おしいほど美しい。けれど――どこか、冷たい。
汐花はキャンバスをにらむ。 手が動かない。
まただ。描けない。
──ボクはいつの間にか、比べられることが怖くなった。
「え?これって影響受けてないの?本当にオリジナル?」
そう言われるたび、突き放したくなる心を抑えて薄っぺらい冗談を塗りたくった。
ボクの色なんてない、ボクは、いろんな色を混ぜたドブみたいな色なんだ。
こんな色、誰も愛してくれるはずがない。
両親に言われたあの言葉で、一気に“ボク”は崩れていった。
「あなたは万人のための芸術を描くべきだ」
もう、筆はボクのものじゃなくなっていた。
それでも描かなくちゃダメ。
かけないボクに、意味なんてないから。
★☆★
親から与えられた“勉強用の部屋”。
夜に光るのは、パソコンのディスプレイと、弥生の眼だけ。
ページをめくる。論文、論文、また論文。
弥生の部屋に、ポスターもぬいぐるみもない。 あるのは、物理学と解剖学と、沈黙。
──僕には生まれつき、視覚処理に異常があった。
人の顔が、認識できなかった。
目と鼻と口は認識できる。一気に認識した瞬間、のっぺらぼうのように見えなくなる。
だから人間を顔じゃなく「科学」で認識し始めた。
そのうち「人間、観察しても法則性ないじゃん」と思った。
でも、数式は違う。 光の屈折率も、波長も、完璧だった。
僕にはそれが宝物のように見える。
両親は科学者。弥生を天才として育てた。
「お前は、未来を変える頭脳だ」
誇り、期待、圧――全部一緒に押しつぶされそうだった。
ある日、全てが霞んだ。 光の加減ではなく、心が霞んでしまった。
何も見えないなら、もう、生きる意味も見えない気がして。
なら、最後くらいは私の思う中で一番人間臭い選択をしたかった。
★☆★
──それぞれ、バラバラだった天才たち。 孤独と呪いに喰われかけていた3人は、出会った。
そして今、
自分たちのルールで生きる道を選んだ。
「……でもよく考えたら、うちらやってることめっちゃバカだよね」
「バカでいいの。だから"とりぷるふーるず"なんでしょ?」
「うん……この名前、大事にしよう」
条兎は、誰もいない窓近くの腰掛けに一人座っていた。 影が、でかい。けど、それを誇ることはできなかった。
「男みたいな体つきで、女を名乗るのは恥ずかしいと思わないの?」
──母の声が、耳の奥でリフレインする。
「私は、私でいたい。」
その一言が言えなかった。
ただ、吐きそうなほどの痛みを抑えて笑うことしかできなかった。
母にスカートを隠されたあの日。
成長痛のせいにして静かに泣いたあの日。
男子のグループに混ぜられてスポーツをしたあの日。
些細なことに、心が軋んだ。
スポーツが嫌いなわけじゃない、むしろ好きだ。
でも今は霞んで、何も感じなくなった。
私は、どうしたらいいんだろう。
★☆★
アトリエ。壁一面の絵。 どれも、色彩は狂おしいほど美しい。けれど――どこか、冷たい。
汐花はキャンバスをにらむ。 手が動かない。
まただ。描けない。
──ボクはいつの間にか、比べられることが怖くなった。
「え?これって影響受けてないの?本当にオリジナル?」
そう言われるたび、突き放したくなる心を抑えて薄っぺらい冗談を塗りたくった。
ボクの色なんてない、ボクは、いろんな色を混ぜたドブみたいな色なんだ。
こんな色、誰も愛してくれるはずがない。
両親に言われたあの言葉で、一気に“ボク”は崩れていった。
「あなたは万人のための芸術を描くべきだ」
もう、筆はボクのものじゃなくなっていた。
それでも描かなくちゃダメ。
かけないボクに、意味なんてないから。
★☆★
親から与えられた“勉強用の部屋”。
夜に光るのは、パソコンのディスプレイと、弥生の眼だけ。
ページをめくる。論文、論文、また論文。
弥生の部屋に、ポスターもぬいぐるみもない。 あるのは、物理学と解剖学と、沈黙。
──僕には生まれつき、視覚処理に異常があった。
人の顔が、認識できなかった。
目と鼻と口は認識できる。一気に認識した瞬間、のっぺらぼうのように見えなくなる。
だから人間を顔じゃなく「科学」で認識し始めた。
そのうち「人間、観察しても法則性ないじゃん」と思った。
でも、数式は違う。 光の屈折率も、波長も、完璧だった。
僕にはそれが宝物のように見える。
両親は科学者。弥生を天才として育てた。
「お前は、未来を変える頭脳だ」
誇り、期待、圧――全部一緒に押しつぶされそうだった。
ある日、全てが霞んだ。 光の加減ではなく、心が霞んでしまった。
何も見えないなら、もう、生きる意味も見えない気がして。
なら、最後くらいは私の思う中で一番人間臭い選択をしたかった。
★☆★
──それぞれ、バラバラだった天才たち。 孤独と呪いに喰われかけていた3人は、出会った。
そして今、
自分たちのルールで生きる道を選んだ。
「……でもよく考えたら、うちらやってることめっちゃバカだよね」
「バカでいいの。だから"とりぷるふーるず"なんでしょ?」
「うん……この名前、大事にしよう」