ふっと鮮やかな、それでいてあの世界と比べると薄暗い視界が戻ってきた。
白い天井。蛍光灯。
どうやら病院のようだ。
なんで助かったんだ、と毒づきながら頭のどこかではわかっていた。
あいつの仕業だ。
クロ、とかいうやつ。
そんなことを思っていると、近くの椅子の影が揺らめいて、先程の少年が姿を表した。
「おにーさん、視えてる?僕だよ、僕」
ひらひらと微笑みながら手を降っている。
視える。視える、が。
「その口ぶり、俺以外には視えてないのか?」
少年は当然だとでも言うように頷いた。
「当たり前だよ。僕はもう死んでるんだからね」
改めて事実を突きつけられる。
ここが現実だからなのか。
一度聞いた話なのに、なぜか先ほどより感情が動いた。
これは、同情、か。
いっそ俺と立場が逆だったらよかったのに、と思う。
死にたい俺が交通事故で死ぬ。
死にたくないこいつが夢と希望を持って生きる。
それでハッピーエンドたったんじゃないだろうか。
今更いっても仕方ないけど。
ふと病院の、独特の消毒液の匂いが鼻を突く。
点滴のチューブが腕に繋がっていて、自分が生きていることを嫌でも実感させられた。
(チッ、クソが。)
死に損なった。最悪だ。そう毒づきたい。
邪魔されている。目の前の少年に。
この世に存在していないはずの少年に。
生きたくても生きられなかったこいつがいる前では、そんなことは言えなかった。
そんなところが俺は屑ではなくただの平凡な高校生なんだと突きつけられたようで苛つく。
「……じゃあ、なんでここにいるんだよ。俺の頭がバグったのか?」
「違うよ。さっき言ったじゃん。僕の魂をおにーさんに分けてあげたの。だから、僕とおにーさんは今、繋がってる状態なんだよね」
クロはベッドの柵に腰掛けるような仕草をしたが、その体は物質としての重みを持たず、ただ空気のようにそこにあるだけだった。
風が生まれない。
音もしない。
本当に、実体がないのか。
そう思っていると、クロがナースコールを指さした。
「呼ばなきゃ!目、覚ましたんだよ!ナースコール!」
「やだ、面倒くさい。看護師くるだろうが」
「…」
返答に絶句してる。
こいつの当たり前はたった今俺が反論したからだろう。
手はぽちぽちとナースコールを透けている。
「…じゃあいいもんっ!」
すねたような口調で、俺の手をがっと掴んだ。
…掴んだ。掴んだ?
そしてそのまま、ナースコールを俺の手を使って押した。
「…って馬鹿!面倒くさいことにっ…」
言い終わる間もなく、ぱたぱたと看護師の足音が聞こえた。
俺は、呆れて、目の前の少年にため息をつくしかなかった。