最強な君と豪勢な食
#1
第一食目 たっぷり幸せ中華料理
「いただきます‼」
8ビットのキビキビした声が響く。街の片隅にあるこの裏路地は、僕たちチームの毎度決まったお昼ご飯場所だ。
8ビットのご飯といったら、近くで買ったカラフルなサンドウィッチの詰め合わせと強炭酸水といったなんとも奇抜なものだ。
そしてなぜか、お茶までもおいてある。誰の影響何だろう。しかもシェーディもなぜか8ビットと同じ変な色のサンドウィッチとお茶を持っており、たぶんこれは8ビットにおすすめされたのだろう。
そして、彼、ワイヤーグラスはというと………
[太字][大文字]ズシンッ[/大文字][/太字]
地面に響く重々しい音とともに、真っ黒の重箱がでてきた。その段なんと……12段ある。
彼がその重箱を開けた途端、重箱の中は見渡す限りの肉、肉、肉‼
見るだけで胃が痛くなりそうだが、彼はそれを何ともなさそうに豪快に食いつくしていく。
いったいこんな量、誰が用意したというのだろう。
「ワイヤーグラス、いつも思うんだが、この量って………。誰に用意してもらったんだ?」
「さんかくすのばあさん。なんか知らねぇけど俺の重箱見るなり、いっつもこの量を注いでくれんだよ。俺がアゲバサミサンド買うついでだろうがな」
それにしてもこの量、サービスとかいう量じゃないぞ。まぁ変な輩に作られるよりは店員さんの方がマシか。
「にしてもエイトの飯、ちゃんとしてんのなぁ」
8ビットが俺の弁当を覗き込むなり、感心した様子をみせる。
俺の弁当は基本的に野菜が4割、おかず1割、ご飯5割といった割合で、おかずでもあんまり揚げ物にしたくないので蒸し物でカバーしている。これで少しは効果的にたんぱく質を摂取できそうなので、最近はこれでつくっている。
「おい。8ビット。俺らはバンカラ八傑であり最強の新バンカラクラスだ。食事を意識することも当たり前だぞ。特に驚くことはない!」
シェーディがそう断言すると8ビットは「私と同じサンドウィッチ食ってるお前が言うなしぃ……。」と不満げに呟いた。
そうだ。シェーディの言う通り僕らは«最強»なのだから。かけてるところがなく、圧倒的強みですべての………
「お前の飯ってやっぱさ、[漢字]女[/漢字][ふりがな]メス[/ふりがな]っぽいよな。」
え?
「無駄を根こそぎとったような飯しかはいってねぇじゃねえか。そんなんで腹の足しになんのか?」
ん?
「それじゃ俺なら食った気しねぇけどな。んなんでほんとにフルパワーの試合できんのかよ。」
いや。そう言う彼、ワイヤーグラスは責めている様子は一切ないのだ。疑問に思ったことをただ口にしているだけだ。別に悪気などは一切感じない。だがこれは何だ。
女、っぽいか。
あこがれの彼に言われるとまた違った刺さり方をする。
実際、彼の体つきには説得力がある。尋常じゃないカロリー量の物を豪快に食らうがあの引き締まった状態だ。
それは彼の代謝がバグってる……というのも言い訳だ。
よし。決めたぞ。
「そういえばワイヤーグラス。バトルが終わった後、君はよく一人でご飯に行くことが多いみたいだけど、今日は僕も付き添ってもいいかい?」
ワイヤーグラスは一瞬の驚きを見せたが、そのあとすぐにうなずいてくれた。
目指すはワイヤーグラスのような俊敏に動ける体!必ずついて行ってみせる‼
「行くぞ。エイト」
「待ってくれよ。君ってばすぐ走って行っちゃうんだから。とてもついていけるスピードじゃないよ?」
ワイヤーグラスは相変わらず意味の分からない神速をぶちかましてくるのだ。
僕らが今向かったのはバンカラ駅の方で、そっから五分くらい電車に乗って歩いた先にあるお店だそうだ。
老舗らしいが、彼の行きつけの店なら、量は尋常じゃないはずだ。
改札を抜けて、電車に乗り込んだ。だが週末の夕方すぎだ。座る場所などあるわけがない。
仕方なく車内の中に余ったつり革を握り、立つことにした。
バンカラの電車でつり革を握れることくらいでも貴重なことだ。
となりにいるワイヤーグラスはナマコフォン片手に立っているだけで、もう周りとは一切違い、ただものではない風格を放っていた。
「わ‼あそこいるのワイヤーグラスさんじゃない?」
「ほんとじゃん‼写真一緒に撮りたいなぁ」
「立ってるだけでもう強いじゃん。かっけぇ」
人ごみの中からそういった彼をたたえる声がする。
あぁ。まただ。むかつく。彼は美しい。だから人は寄ってくるし、彼を良く言う。すごいな。かっこいいな。ときづけば彼の周りはそんな言葉があふれかえっている。当たり前のことだ。だが彼のそういうとこだけ切り取って君たちはそういう言葉をえらんで発する。何も知らないくせに。彼の素晴らしさはそんな言葉じゃ片付かないんだよ‼
僕はそんなクズみたいな民衆をただひどくにらみつけた。
「お、おい。エイトさんもいるぞ。こっち睨んでるって。」
「やべぇ……」
ふぅ。なんとか片付いた。
「こぉーっわ。」
となりを見るととなりにいたワイヤーグラスはバカにするようにうげーっと舌をむき出しにした。
「助けてもらっといてそれはないんじゃないか?僕が睨んでなかったら今頃君はあの能無し共の餌食になってたと思うけど。」
「お前さ、もうちょい可愛いこと言ってくれよな」
そう言って彼は軽く俺の足をけった。
気づけば目的の駅のアナウンスが流れてきた。
「降りるんじゃないのか?この駅だろ?」
「おう。」
僕たちはあふれかえる人ごみを抜けて電車を降りた。
「なぁ。ほんとにこんなとこにあるのか?」
「あぁ。老舗だっつってんだろ?こんなとこにあってもおかしかねぇだろ。」
彼が進んでいく道はさっき降りた駅周辺の都会的な場所とは違い薄暗い路地裏でガラの悪そうな若者がそこらへんに横たわっているようないかにも治安の悪そうな一本道だ。
こういうのとは絶対目を合わせちゃいけない。見ない。見ない……
このバンカラという街は都会ではあるが混沌の街と言われるほど、表にある都会的な一面と、裏の薄暗く怪しい一面の差が激しすぎる場所でもある。この街は昔から多額の借金を背負っており、多少の貧富の差もなきにしもあらずだ。
こんなヤ●中共もいて当然というのも悲しいものだ。
「おい。もうここ抜けるぞ。」
「ああ。」
彼の言われたとおりにやっと道を抜けられたかと思うと……
「わぁぁ……。」
「な?すげぇだろ?」
駅から降りた時より空は暗くなっていたが、それとともに灯りはじめるあたり一面に吊り下げられた提灯たち。
周りの看板たちもカオスな色合いを放ちながら夜を照らしていく。
ここは、繫華街だったのか……。
「素敵な繁華街だね。さっきの裏路地とはかなりのギャップだね。こんなに栄えたとこだったなんて。」
「そうか?あういう路地ばっかのとこほど抜けたらこういうネオン街灯だらけの店多いぞ?」
そうなのか。でもこれを見てから改めて彼らのことを考えると、多少胸が痛くなる。
少しこの繁華街をあるくとすぐその店が見つかるらしいが。
するとワイヤーグラスが何かを発見したかのように「お‼」と嬉しそうな声をあげた。
「どうしたんだい?ワイヤーグラス。何かいいものでも見つけたかい?」
「おう‼そらとんでもなくいいもんだぁ。」
彼がいやらしくにたぁと笑った。嫌な予感がする。
「見ろよ。[漢字]夜のおみせ[/漢字][ふりがな]・・・・・[/ふりがな]あるぜ?このあと入ってみるか?www」
「やめなさい‼」
そして僕は拳を振り上げ彼の頭に一発食らわせた。
「いっっっっって‼何すんだよ。いいじゃねえかよ。お前が聞いてきたくせによ」
彼はそう不満げに言うが、「目的外だ‼」ときつく言ってやった。
まったく彼はほんとに欲だけは酷くあるんだよな。
「ここだぞ。エイト」
彼が指をさした先には見るからに長くやってそうなお店があった。名前は……
[太字][明朝体]中華料理店 万福亭[/明朝体][/太字]
どっしりとした大きな看板と渋い真紅の提灯がぶら下がった入口だ。
「おい!ばあさん。来たぞ。」
ワイヤーグラスがそういうと店の奥からベテラン感満載のデメキンマダム達が出てきた。
「あーらあんたまあた来てくれはったん⁉」
「あんたお連れ様もおるやないかい。さぞかしお腹空いてるんやろな。」
「トネ子さぁあんワイヤーグラスくん来てはるよぉ‼」
「ほんまに⁉」
な、なるほど。ワイヤーグラスはかなりここに飼いならされてるんだな。
バンカラ地方の独特の方言が飛び交う中、ワイヤーグラスはドカッとカウンター席に座りこんだ。
僕も彼につられて恐る恐るすわった。
「ささ。どないする?今日もあれにするんか?」
そういいながら一人のマダムがメニュー表を彼に渡した。
「おう。いつものでかまわん。」
「あいよ。お友達は?」
お友達……。僕か。そう言われてもな。とりあえず彼の食べようとしてるものを頼むとするか。今日はそれが目的だ。
「僕も彼と同じものを。」
「あらほんまに⁉おにーさんこれすっごい量やけど。初めてのお客さんにはあんまりおすすめできへんよ。」
「かまいません。無理になったら彼に手伝わせます。」
「あらええの?ワイヤーグラスくん。」
「おお。任せとけ。」
つい勝手なことを言ってしまったが、彼は迷うこともなくうなずいてくれた。
「あいよ。万福中華ごちゃまぜセット二つ~‼みんなお願いやー‼」
「うそ。二つも⁉あのお兄さんほんまに食べる気なんか?」
「こら春代ちゃん若い子の胃袋舐めたらあかんで‼」
どうやら、店内も困惑するほどのようだ。
その場の勢いであまりメニューを見ず頼んでしまったが、一体どんなものなんだろう。
えーっと、ラーメンとチャーハンと麻婆豆腐と、油淋鶏と、春巻きと、餃子と、酢豚……って
[太字]ほとんどこの店のメニュー全部入ってるじゃないか![/太字]
無茶苦茶だ。馬鹿だ。なんでこんなの頼んでしまったんだ。
「おい。今頃青ざめてんのか?お前。無理になったら言え。食ってやる。」
「それは随分と心強いね。君ったら腹の中胃袋の面積がほとんどなんじゃないか。」
「かもな。」と彼は二ヤっと笑った。
にしても僕はなぜこんなにとっさにいろいろやってしまったんだろう。今日はどことなく変な日だな。
すると、店の奥からマダムがやってきて、その意味の分からないセットの料理をひとつずつ運んできた。
「はいこれで全部やな。ほな召し上がれ。」
「よっしゃばあさんナイス。いただきます。」
彼はすぐさまラーメンに手をつけた。れんげでたっぷりとスープをすくい、それをゆっくりと飲んでいく。そして箸に持ち替え、ズズーっとものすごい勢いで麺をすすった。そのあと、チャーハンを豪快に食べほし、餃子もどんどん口につっこんでいく。彼の周りにあったたくさんの料理たちはみるみる姿を消していき、気づいたらすでに完食していた。意味が分からない。一品一品が多いのに、それを難なく食べていく。それに、彼は本当においしそうに食べている。ワイヤーグラスが店に好かれている理由もなんとなくわかる。
「もう一人のお兄さんも。はい。ほないっぱい食べてや。」
そういわれ、目の前に出されたたくさんの中華料理。食欲をそそる香りが、空腹をさらに深くしていく。
「い、いただきます。」
僕はワイヤーグラスがしていたようにまずはラーメンのスープを一口飲んだ。何だこれは。口に広がるやさしい味の醬油ベースのスープ。その中に感じるたくさんの具材のうまみが空の胃袋に染み渡る。そして麺を一気にすするとこれもまた鼻の中にまで風味が広がっていく。うますぎる……。その次はチャーハンをかきこむ。これもまたたくさんの具が絡み合っていて、いくら食べても飽きない。その次は、餃子、油淋鶏…と食べていくが、どれも味に関してはピカイチな物ばかりだ。
こんなとんでもない隠れ名店を見つけるとかワイヤーグラスの味覚センスはとんでもないんだな。彼ってもしかしてグルメなのかもしれない。いやそうだろう。
だが、最初の想定通りの結果が待ち構えていた。量がキツい。箸が思ったように動かない。俺の胃袋も限界を達したようだ。やはり彼のような食べ方は僕には一切向いていない。改めて確信した。
「箸止まってんじゃねーか。エイト。手伝ってやろうか?」
「すまない。君ったらほんっとに食べることに関しても最強だな。」
「当たり前だ。あ。それと手伝う代わりにお前、おごれよ?」
そういって彼はいつものようにニヤっと笑った。
「せこいこと言うんじゃないよ。あんだけバトルに勝ってんだ。金には困ってないだろ?」
そう言い返すと彼は「つまんねぇなぁ。」言い、とわざとらしいでかいため息をついた。
彼に任せたことで、なんとかこのモンスター級のセットは片付いた。
「お二人分やから、1600ゲソやな。」
え。二人でこの金額?安い……。
「ばあさんごっそさん。また来るな。」
「ほんまにおおきに。お連れさんもどうも。」
「いえいえ。本当に美味しかったです。ごちそうさまでした。」
僕たちは支払いを済ませた後、店を後にした。
「あー。食った食った。」
「君ったら、ほぼ二人分食べてたね。まったく驚かせてくれるよ。」
「上から目線クソうっざwww。ま。うまかったろ?今度もすげぇとこ連れって行ってやるよ。」
「今度はあんな路地は通らないでくれよ?」
「さぁな。」
そう言って彼は鼻で笑った。だがそこには馬鹿にする意味も感じられなく、ただ満足そうにしていただけだ。
あの店はたしか「万福亭」、だったか。
量はとてつもなかったが、その名の通り幸せの詰まったやさしい料理の店だった。
次は彼と、どんな「万福」に会えるだろう。
8ビットのキビキビした声が響く。街の片隅にあるこの裏路地は、僕たちチームの毎度決まったお昼ご飯場所だ。
8ビットのご飯といったら、近くで買ったカラフルなサンドウィッチの詰め合わせと強炭酸水といったなんとも奇抜なものだ。
そしてなぜか、お茶までもおいてある。誰の影響何だろう。しかもシェーディもなぜか8ビットと同じ変な色のサンドウィッチとお茶を持っており、たぶんこれは8ビットにおすすめされたのだろう。
そして、彼、ワイヤーグラスはというと………
[太字][大文字]ズシンッ[/大文字][/太字]
地面に響く重々しい音とともに、真っ黒の重箱がでてきた。その段なんと……12段ある。
彼がその重箱を開けた途端、重箱の中は見渡す限りの肉、肉、肉‼
見るだけで胃が痛くなりそうだが、彼はそれを何ともなさそうに豪快に食いつくしていく。
いったいこんな量、誰が用意したというのだろう。
「ワイヤーグラス、いつも思うんだが、この量って………。誰に用意してもらったんだ?」
「さんかくすのばあさん。なんか知らねぇけど俺の重箱見るなり、いっつもこの量を注いでくれんだよ。俺がアゲバサミサンド買うついでだろうがな」
それにしてもこの量、サービスとかいう量じゃないぞ。まぁ変な輩に作られるよりは店員さんの方がマシか。
「にしてもエイトの飯、ちゃんとしてんのなぁ」
8ビットが俺の弁当を覗き込むなり、感心した様子をみせる。
俺の弁当は基本的に野菜が4割、おかず1割、ご飯5割といった割合で、おかずでもあんまり揚げ物にしたくないので蒸し物でカバーしている。これで少しは効果的にたんぱく質を摂取できそうなので、最近はこれでつくっている。
「おい。8ビット。俺らはバンカラ八傑であり最強の新バンカラクラスだ。食事を意識することも当たり前だぞ。特に驚くことはない!」
シェーディがそう断言すると8ビットは「私と同じサンドウィッチ食ってるお前が言うなしぃ……。」と不満げに呟いた。
そうだ。シェーディの言う通り僕らは«最強»なのだから。かけてるところがなく、圧倒的強みですべての………
「お前の飯ってやっぱさ、[漢字]女[/漢字][ふりがな]メス[/ふりがな]っぽいよな。」
え?
「無駄を根こそぎとったような飯しかはいってねぇじゃねえか。そんなんで腹の足しになんのか?」
ん?
「それじゃ俺なら食った気しねぇけどな。んなんでほんとにフルパワーの試合できんのかよ。」
いや。そう言う彼、ワイヤーグラスは責めている様子は一切ないのだ。疑問に思ったことをただ口にしているだけだ。別に悪気などは一切感じない。だがこれは何だ。
女、っぽいか。
あこがれの彼に言われるとまた違った刺さり方をする。
実際、彼の体つきには説得力がある。尋常じゃないカロリー量の物を豪快に食らうがあの引き締まった状態だ。
それは彼の代謝がバグってる……というのも言い訳だ。
よし。決めたぞ。
「そういえばワイヤーグラス。バトルが終わった後、君はよく一人でご飯に行くことが多いみたいだけど、今日は僕も付き添ってもいいかい?」
ワイヤーグラスは一瞬の驚きを見せたが、そのあとすぐにうなずいてくれた。
目指すはワイヤーグラスのような俊敏に動ける体!必ずついて行ってみせる‼
「行くぞ。エイト」
「待ってくれよ。君ってばすぐ走って行っちゃうんだから。とてもついていけるスピードじゃないよ?」
ワイヤーグラスは相変わらず意味の分からない神速をぶちかましてくるのだ。
僕らが今向かったのはバンカラ駅の方で、そっから五分くらい電車に乗って歩いた先にあるお店だそうだ。
老舗らしいが、彼の行きつけの店なら、量は尋常じゃないはずだ。
改札を抜けて、電車に乗り込んだ。だが週末の夕方すぎだ。座る場所などあるわけがない。
仕方なく車内の中に余ったつり革を握り、立つことにした。
バンカラの電車でつり革を握れることくらいでも貴重なことだ。
となりにいるワイヤーグラスはナマコフォン片手に立っているだけで、もう周りとは一切違い、ただものではない風格を放っていた。
「わ‼あそこいるのワイヤーグラスさんじゃない?」
「ほんとじゃん‼写真一緒に撮りたいなぁ」
「立ってるだけでもう強いじゃん。かっけぇ」
人ごみの中からそういった彼をたたえる声がする。
あぁ。まただ。むかつく。彼は美しい。だから人は寄ってくるし、彼を良く言う。すごいな。かっこいいな。ときづけば彼の周りはそんな言葉があふれかえっている。当たり前のことだ。だが彼のそういうとこだけ切り取って君たちはそういう言葉をえらんで発する。何も知らないくせに。彼の素晴らしさはそんな言葉じゃ片付かないんだよ‼
僕はそんなクズみたいな民衆をただひどくにらみつけた。
「お、おい。エイトさんもいるぞ。こっち睨んでるって。」
「やべぇ……」
ふぅ。なんとか片付いた。
「こぉーっわ。」
となりを見るととなりにいたワイヤーグラスはバカにするようにうげーっと舌をむき出しにした。
「助けてもらっといてそれはないんじゃないか?僕が睨んでなかったら今頃君はあの能無し共の餌食になってたと思うけど。」
「お前さ、もうちょい可愛いこと言ってくれよな」
そう言って彼は軽く俺の足をけった。
気づけば目的の駅のアナウンスが流れてきた。
「降りるんじゃないのか?この駅だろ?」
「おう。」
僕たちはあふれかえる人ごみを抜けて電車を降りた。
「なぁ。ほんとにこんなとこにあるのか?」
「あぁ。老舗だっつってんだろ?こんなとこにあってもおかしかねぇだろ。」
彼が進んでいく道はさっき降りた駅周辺の都会的な場所とは違い薄暗い路地裏でガラの悪そうな若者がそこらへんに横たわっているようないかにも治安の悪そうな一本道だ。
こういうのとは絶対目を合わせちゃいけない。見ない。見ない……
このバンカラという街は都会ではあるが混沌の街と言われるほど、表にある都会的な一面と、裏の薄暗く怪しい一面の差が激しすぎる場所でもある。この街は昔から多額の借金を背負っており、多少の貧富の差もなきにしもあらずだ。
こんなヤ●中共もいて当然というのも悲しいものだ。
「おい。もうここ抜けるぞ。」
「ああ。」
彼の言われたとおりにやっと道を抜けられたかと思うと……
「わぁぁ……。」
「な?すげぇだろ?」
駅から降りた時より空は暗くなっていたが、それとともに灯りはじめるあたり一面に吊り下げられた提灯たち。
周りの看板たちもカオスな色合いを放ちながら夜を照らしていく。
ここは、繫華街だったのか……。
「素敵な繁華街だね。さっきの裏路地とはかなりのギャップだね。こんなに栄えたとこだったなんて。」
「そうか?あういう路地ばっかのとこほど抜けたらこういうネオン街灯だらけの店多いぞ?」
そうなのか。でもこれを見てから改めて彼らのことを考えると、多少胸が痛くなる。
少しこの繁華街をあるくとすぐその店が見つかるらしいが。
するとワイヤーグラスが何かを発見したかのように「お‼」と嬉しそうな声をあげた。
「どうしたんだい?ワイヤーグラス。何かいいものでも見つけたかい?」
「おう‼そらとんでもなくいいもんだぁ。」
彼がいやらしくにたぁと笑った。嫌な予感がする。
「見ろよ。[漢字]夜のおみせ[/漢字][ふりがな]・・・・・[/ふりがな]あるぜ?このあと入ってみるか?www」
「やめなさい‼」
そして僕は拳を振り上げ彼の頭に一発食らわせた。
「いっっっっって‼何すんだよ。いいじゃねえかよ。お前が聞いてきたくせによ」
彼はそう不満げに言うが、「目的外だ‼」ときつく言ってやった。
まったく彼はほんとに欲だけは酷くあるんだよな。
「ここだぞ。エイト」
彼が指をさした先には見るからに長くやってそうなお店があった。名前は……
[太字][明朝体]中華料理店 万福亭[/明朝体][/太字]
どっしりとした大きな看板と渋い真紅の提灯がぶら下がった入口だ。
「おい!ばあさん。来たぞ。」
ワイヤーグラスがそういうと店の奥からベテラン感満載のデメキンマダム達が出てきた。
「あーらあんたまあた来てくれはったん⁉」
「あんたお連れ様もおるやないかい。さぞかしお腹空いてるんやろな。」
「トネ子さぁあんワイヤーグラスくん来てはるよぉ‼」
「ほんまに⁉」
な、なるほど。ワイヤーグラスはかなりここに飼いならされてるんだな。
バンカラ地方の独特の方言が飛び交う中、ワイヤーグラスはドカッとカウンター席に座りこんだ。
僕も彼につられて恐る恐るすわった。
「ささ。どないする?今日もあれにするんか?」
そういいながら一人のマダムがメニュー表を彼に渡した。
「おう。いつものでかまわん。」
「あいよ。お友達は?」
お友達……。僕か。そう言われてもな。とりあえず彼の食べようとしてるものを頼むとするか。今日はそれが目的だ。
「僕も彼と同じものを。」
「あらほんまに⁉おにーさんこれすっごい量やけど。初めてのお客さんにはあんまりおすすめできへんよ。」
「かまいません。無理になったら彼に手伝わせます。」
「あらええの?ワイヤーグラスくん。」
「おお。任せとけ。」
つい勝手なことを言ってしまったが、彼は迷うこともなくうなずいてくれた。
「あいよ。万福中華ごちゃまぜセット二つ~‼みんなお願いやー‼」
「うそ。二つも⁉あのお兄さんほんまに食べる気なんか?」
「こら春代ちゃん若い子の胃袋舐めたらあかんで‼」
どうやら、店内も困惑するほどのようだ。
その場の勢いであまりメニューを見ず頼んでしまったが、一体どんなものなんだろう。
えーっと、ラーメンとチャーハンと麻婆豆腐と、油淋鶏と、春巻きと、餃子と、酢豚……って
[太字]ほとんどこの店のメニュー全部入ってるじゃないか![/太字]
無茶苦茶だ。馬鹿だ。なんでこんなの頼んでしまったんだ。
「おい。今頃青ざめてんのか?お前。無理になったら言え。食ってやる。」
「それは随分と心強いね。君ったら腹の中胃袋の面積がほとんどなんじゃないか。」
「かもな。」と彼は二ヤっと笑った。
にしても僕はなぜこんなにとっさにいろいろやってしまったんだろう。今日はどことなく変な日だな。
すると、店の奥からマダムがやってきて、その意味の分からないセットの料理をひとつずつ運んできた。
「はいこれで全部やな。ほな召し上がれ。」
「よっしゃばあさんナイス。いただきます。」
彼はすぐさまラーメンに手をつけた。れんげでたっぷりとスープをすくい、それをゆっくりと飲んでいく。そして箸に持ち替え、ズズーっとものすごい勢いで麺をすすった。そのあと、チャーハンを豪快に食べほし、餃子もどんどん口につっこんでいく。彼の周りにあったたくさんの料理たちはみるみる姿を消していき、気づいたらすでに完食していた。意味が分からない。一品一品が多いのに、それを難なく食べていく。それに、彼は本当においしそうに食べている。ワイヤーグラスが店に好かれている理由もなんとなくわかる。
「もう一人のお兄さんも。はい。ほないっぱい食べてや。」
そういわれ、目の前に出されたたくさんの中華料理。食欲をそそる香りが、空腹をさらに深くしていく。
「い、いただきます。」
僕はワイヤーグラスがしていたようにまずはラーメンのスープを一口飲んだ。何だこれは。口に広がるやさしい味の醬油ベースのスープ。その中に感じるたくさんの具材のうまみが空の胃袋に染み渡る。そして麺を一気にすするとこれもまた鼻の中にまで風味が広がっていく。うますぎる……。その次はチャーハンをかきこむ。これもまたたくさんの具が絡み合っていて、いくら食べても飽きない。その次は、餃子、油淋鶏…と食べていくが、どれも味に関してはピカイチな物ばかりだ。
こんなとんでもない隠れ名店を見つけるとかワイヤーグラスの味覚センスはとんでもないんだな。彼ってもしかしてグルメなのかもしれない。いやそうだろう。
だが、最初の想定通りの結果が待ち構えていた。量がキツい。箸が思ったように動かない。俺の胃袋も限界を達したようだ。やはり彼のような食べ方は僕には一切向いていない。改めて確信した。
「箸止まってんじゃねーか。エイト。手伝ってやろうか?」
「すまない。君ったらほんっとに食べることに関しても最強だな。」
「当たり前だ。あ。それと手伝う代わりにお前、おごれよ?」
そういって彼はいつものようにニヤっと笑った。
「せこいこと言うんじゃないよ。あんだけバトルに勝ってんだ。金には困ってないだろ?」
そう言い返すと彼は「つまんねぇなぁ。」言い、とわざとらしいでかいため息をついた。
彼に任せたことで、なんとかこのモンスター級のセットは片付いた。
「お二人分やから、1600ゲソやな。」
え。二人でこの金額?安い……。
「ばあさんごっそさん。また来るな。」
「ほんまにおおきに。お連れさんもどうも。」
「いえいえ。本当に美味しかったです。ごちそうさまでした。」
僕たちは支払いを済ませた後、店を後にした。
「あー。食った食った。」
「君ったら、ほぼ二人分食べてたね。まったく驚かせてくれるよ。」
「上から目線クソうっざwww。ま。うまかったろ?今度もすげぇとこ連れって行ってやるよ。」
「今度はあんな路地は通らないでくれよ?」
「さぁな。」
そう言って彼は鼻で笑った。だがそこには馬鹿にする意味も感じられなく、ただ満足そうにしていただけだ。
あの店はたしか「万福亭」、だったか。
量はとてつもなかったが、その名の通り幸せの詰まったやさしい料理の店だった。
次は彼と、どんな「万福」に会えるだろう。