罪を着飾る生徒
海沿いののどかな田舎町にある中学校。本日転入してきた一年生、高羽優紀は他人から嫌われる。
可笑しな形の入道雲が空を支配する夏の日に、彼女は一年三組の生徒となる。モーニングタイムが終わり、先日予告されていた転入生の紹介へとクラスの興味が向かう。先生の合図でクラスに入った彼女は堂々とクーラーの効いた少し寒いほどの部屋に足を踏み入れた。その瞬間、ザワっと枯れ葉が風に吹かれて重なり合ったような音がクラスから漏れ出す。
それは誰もが羨み、嫉妬するスタイルと艶めかしいぷっくりとした紅色の唇、灰雪のように白く、陰鬱な影のあるヴィランのような灰色の夕暮れ時の美貌を彼女が有しているからであろう。しかし、彼女には一つだけ可笑しな傷があった。右手首にある大きなあざだ。だが彼女の自信に満ちた甘美なクスっと微笑した声はクラスを一瞬で静寂に握り潰す。彼女を一目見た女子生徒は嫉妬し、男子生徒は心を甘い恋のキューピットに撃ち抜かれる。彼女は今まで伏せていた目を一度閉じて、目を開けた。その赤みのかかったチョコレートのような目にクラスは嫉妬に飢えた血液でも、甘い恋の予感でもない、新たな期待に目を見開く。
「高羽優紀です。前は東北の方に住んでいたのですが、父親の仕事の事情でこちらへ越してきました」羊羹なんかじゃない、甘みと仄かな苦みのある魔性の声。「席は窓際の空いてるところに座って下さい」薄毛が目立った担任教師が彼女が過ごす席を指さす。三階にある一年三組は窓を開ければ心地よい風が吹いてくる。音もなく席に座り、彼女は外を眺め始めた。その一部始終をクラスの全員が酔いしれた目で見つめ続ける。高羽優紀は朝から今日が特異な日になることを予感させる台風の目であった。
担任もクラスを出ていくと一瞬で彼女の周りに人間が集まる。彼女はその大半が男子生徒であることなど、毛ほども気にしなかった。そんなことよりも彼女はその醜悪な集まりから早く抜け出したい一心で教室を走り去った。一人を除く男子生徒たちは「釣れねぇな」と冗談交じりの声色で笑うが、残る一人は何かが分かったような顔で彼女を追って教室を駆けだす。
「はぁ、はぁ、はぁ」普段から運動をしない一人の男子生徒は早くも息を切らしながら、この学校で唯一誰も近寄らない場所へと走る。その時、彼の頭の上から重たい扉を開ける音がした。彼は決死の力でそこへと向かう。階段を一段飛ばしで走り、高羽優紀のいる場所へ、全速力で進む…。
彼の頭の中では彼女が教室へ入った時から感じていた疑問が回る。すっかり横腹を吊った彼は彼女のいる鍵の壊れた屋上の扉をあけ放つ。「高羽さん」苦しくて咳き込みながらも、彼は自身の心に巣食った疑問を震えながら投げる。
「君は、僕の妹を殺したの?」高羽優紀は赤みのかかった目を見開いた。「どうして、そう思ったの?」こちらも震えた声で疑問に疑問を返す。妹が亡くなった彼、海川龍太は落ち着きを取り戻して淡々と話し始める。「三年前に僕と妹の花蓮は公園に遊びに行ってて、その帰りに花蓮は横断歩道で信号を待っていたら、後ろで友達と談笑していた女の子がよろけて車通りの多い道路に突き飛ばされたんだ。その女の子は君と同じ右手首に大きなあざがあったんだよ」それを聞いた彼女は優しさのかけらもない笑い声を点々と発した。「でも、貴方はそれを警察へと言えない。妹さんの命を奪ったのは飲酒運転のトラックだったのだからね!」本物のヴィランのような笑い方には刺々しい薔薇の匂いがする。彼女は教室での顔をすっと戻して龍太が来た扉の方へと歩き出す。棘のある匂いだけをそのままに。二人がすれ違ったその時、彼女は信じられない言葉を発した。
「女は罪を着飾って美しくなるものよ」
可笑しな形の入道雲が空を支配する夏の日に、彼女は一年三組の生徒となる。モーニングタイムが終わり、先日予告されていた転入生の紹介へとクラスの興味が向かう。先生の合図でクラスに入った彼女は堂々とクーラーの効いた少し寒いほどの部屋に足を踏み入れた。その瞬間、ザワっと枯れ葉が風に吹かれて重なり合ったような音がクラスから漏れ出す。
それは誰もが羨み、嫉妬するスタイルと艶めかしいぷっくりとした紅色の唇、灰雪のように白く、陰鬱な影のあるヴィランのような灰色の夕暮れ時の美貌を彼女が有しているからであろう。しかし、彼女には一つだけ可笑しな傷があった。右手首にある大きなあざだ。だが彼女の自信に満ちた甘美なクスっと微笑した声はクラスを一瞬で静寂に握り潰す。彼女を一目見た女子生徒は嫉妬し、男子生徒は心を甘い恋のキューピットに撃ち抜かれる。彼女は今まで伏せていた目を一度閉じて、目を開けた。その赤みのかかったチョコレートのような目にクラスは嫉妬に飢えた血液でも、甘い恋の予感でもない、新たな期待に目を見開く。
「高羽優紀です。前は東北の方に住んでいたのですが、父親の仕事の事情でこちらへ越してきました」羊羹なんかじゃない、甘みと仄かな苦みのある魔性の声。「席は窓際の空いてるところに座って下さい」薄毛が目立った担任教師が彼女が過ごす席を指さす。三階にある一年三組は窓を開ければ心地よい風が吹いてくる。音もなく席に座り、彼女は外を眺め始めた。その一部始終をクラスの全員が酔いしれた目で見つめ続ける。高羽優紀は朝から今日が特異な日になることを予感させる台風の目であった。
担任もクラスを出ていくと一瞬で彼女の周りに人間が集まる。彼女はその大半が男子生徒であることなど、毛ほども気にしなかった。そんなことよりも彼女はその醜悪な集まりから早く抜け出したい一心で教室を走り去った。一人を除く男子生徒たちは「釣れねぇな」と冗談交じりの声色で笑うが、残る一人は何かが分かったような顔で彼女を追って教室を駆けだす。
「はぁ、はぁ、はぁ」普段から運動をしない一人の男子生徒は早くも息を切らしながら、この学校で唯一誰も近寄らない場所へと走る。その時、彼の頭の上から重たい扉を開ける音がした。彼は決死の力でそこへと向かう。階段を一段飛ばしで走り、高羽優紀のいる場所へ、全速力で進む…。
彼の頭の中では彼女が教室へ入った時から感じていた疑問が回る。すっかり横腹を吊った彼は彼女のいる鍵の壊れた屋上の扉をあけ放つ。「高羽さん」苦しくて咳き込みながらも、彼は自身の心に巣食った疑問を震えながら投げる。
「君は、僕の妹を殺したの?」高羽優紀は赤みのかかった目を見開いた。「どうして、そう思ったの?」こちらも震えた声で疑問に疑問を返す。妹が亡くなった彼、海川龍太は落ち着きを取り戻して淡々と話し始める。「三年前に僕と妹の花蓮は公園に遊びに行ってて、その帰りに花蓮は横断歩道で信号を待っていたら、後ろで友達と談笑していた女の子がよろけて車通りの多い道路に突き飛ばされたんだ。その女の子は君と同じ右手首に大きなあざがあったんだよ」それを聞いた彼女は優しさのかけらもない笑い声を点々と発した。「でも、貴方はそれを警察へと言えない。妹さんの命を奪ったのは飲酒運転のトラックだったのだからね!」本物のヴィランのような笑い方には刺々しい薔薇の匂いがする。彼女は教室での顔をすっと戻して龍太が来た扉の方へと歩き出す。棘のある匂いだけをそのままに。二人がすれ違ったその時、彼女は信じられない言葉を発した。
「女は罪を着飾って美しくなるものよ」
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