ベランダから落っことした煙
八月にもなっていないというのに、真夏日の続く今日この頃。もう日付が変わって少し経つ。大阪の街もようやく静けさを覚えてきたこの時間、床の軋むアパートの二階のベランダから煙草の煙が落ちてくる。
丸眼鏡を掛けた黒髪のショートヘアの男が新しい煙草を一本吸う。今まで吸っていた煙草は灰皿にポイだ。昔、女にそうされたように。
男は特段考えもなしにベランダから見える街の機械的な嘘っぱちの温もりを身体全体で受け止めていた。最近まで男には一人、好きな女性がいたが、その女性は男の同僚が好きらしく、社会に立つときは可愛い猫被りな男は渋々その恋を捨てた。捨てたはずなのに、捨てると決めたのに、まだ未練が残っている。捨てた日から何時も煙草を吹かすと涙が顎から滴り落ちる。そんな意気地なしの男だった。
男は啜り泣きながら丸眼鏡の奥の黒い目を擦る。きっと目は充血しているのだろうけれど、世の誰も男の赤い目に時間を割いちゃくれないことくらい、こんな男でも理解可能だ。
少しして涙で滲んだ男の赤い目が大通りを挟んで向かい側の紅い炎と黒い煙を映した。火事。男は直感的にそう判断する。だが、この火事はきっと此処まで被害は進まない。そんな被害者に同情もせずに冷淡な判断を下し、男はまた感傷に心を戻す。
しばらく心の中に潜り込んでいると、バカ騒ぎの群衆の声でハッと気が戻る。男の住むアパートの前には消防車が止まっていた。男の周りは元気よく燃えている。だが、これは別の火事のようだった。煙で目を赤くしながら、男は猫被りでも何でもないただの無気力のせいで動けない。全てをあきらめた男はまた新しい煙草を吹かせて、火事の煙と煙草の煙をベランダから落とす。
丸眼鏡を掛けた黒髪のショートヘアの男が新しい煙草を一本吸う。今まで吸っていた煙草は灰皿にポイだ。昔、女にそうされたように。
男は特段考えもなしにベランダから見える街の機械的な嘘っぱちの温もりを身体全体で受け止めていた。最近まで男には一人、好きな女性がいたが、その女性は男の同僚が好きらしく、社会に立つときは可愛い猫被りな男は渋々その恋を捨てた。捨てたはずなのに、捨てると決めたのに、まだ未練が残っている。捨てた日から何時も煙草を吹かすと涙が顎から滴り落ちる。そんな意気地なしの男だった。
男は啜り泣きながら丸眼鏡の奥の黒い目を擦る。きっと目は充血しているのだろうけれど、世の誰も男の赤い目に時間を割いちゃくれないことくらい、こんな男でも理解可能だ。
少しして涙で滲んだ男の赤い目が大通りを挟んで向かい側の紅い炎と黒い煙を映した。火事。男は直感的にそう判断する。だが、この火事はきっと此処まで被害は進まない。そんな被害者に同情もせずに冷淡な判断を下し、男はまた感傷に心を戻す。
しばらく心の中に潜り込んでいると、バカ騒ぎの群衆の声でハッと気が戻る。男の住むアパートの前には消防車が止まっていた。男の周りは元気よく燃えている。だが、これは別の火事のようだった。煙で目を赤くしながら、男は猫被りでも何でもないただの無気力のせいで動けない。全てをあきらめた男はまた新しい煙草を吹かせて、火事の煙と煙草の煙をベランダから落とす。
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