先生と、消えない温度
「ここ、もう少し丁寧に書こう。採点者に伝わりにくい」
冬の放課後、学習室。
ペン先が指し示した答案の余白に、先生の指が触れる。
その指導の丁寧さに、心が引き締まった。
私は深く息をついた。
暖房の効いた室内は、静かで勉強に集中できる雰囲気だ。
窓の外はもう薄暗く、他の生徒たちの帰り支度の音が遠く聞こえた。
「……先生」
「どうした?」
「私、合格したら先生に報告に来てもいいですか」
参考書を閉じる先生の手が、一瞬止まった。
眼鏡の奥の瞳が、ふと私の方を向く。
先生は優しく、でも真剣な声で答えた。
「もちろん、待ってるよ。…まずは、目の前の問題に集中」
わかっている。
先生は、たくさんの生徒の合格を願っている。卒業というタイムリミットが迫るなか、この「受験生」という肩書きだけが、私が先生から学ぶ時間を与えてくれている。
「合格したら、一番に先生に伝えたいです」
決意を新たにノートに向き直る。
文字がいつもよりしっかりと見える気がした。
「……そうか、期待してるぞ」
頭の上に、ポンと大きな手が置かれた。
その温もりだけで、あと数ヶ月、この大変な受験期間を乗り越えることができる。
春が来たら。
合格を掴んだら。
感謝の気持ちを込めて、先生に良い報告をしたい。
雪が降り始めた窓の外。
二つの影が、白熱灯の下で勉強する姿を映し出していた。
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