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翼なき鳥の神話

#1

1.汚れなき蒼の終わり

かつて空は、神の領域だった。

人はただ地上に這いつくばり、
その蒼さを見上げることしか許されていなかった。

羽ばたく翼を持つものだけが、天の境界線に
触れることを赦されていた時代。

それは世界の絶対的な法であり、
秩序そのものだった。

エルフもまたその例外ではない。

彼らは何百年を生きる長寿を誇り、
世界の血流たる精霊たちと親しく語らう術を持っていたが、
それでも空だけは届かなかった。

どれほど指を伸ばしても、梢の先にある虚空は冷たく彼らを拒んだ。

「それが、世界の決まりだから」
老人たちは皆、
そう言って若者たちを諭した。

それが世界の静謐を守るための、
神の優しさだと信じていたからだ。

だが、時代は変わる。

神々が沈黙し、世界からその気配を消したのと時を同じくして、
人間たちは立ち上がった。

彼らには鋭い爪も、魔法の血も、精霊の加護もなかった。

代わりにあったのは世界を解体し、再構築しようとする
狂気的な”理性”という名の刃だった。

人間たちは空を切り裂いた

彼らが作り上げたのは祝福された羽ではない。

蒸気の脈動を刻み、黒煙を吐き散らす鋼鉄の翼。

数式によって重力をねじ伏せ、大気の流れを支配する傲慢な知恵。

人はついに、神の留守を狙ってその領域へと土足で踏み込んだ。

その日から、美しかった空はただの戦場へと成り下がった。

少女の名前は、リア。

金色の髪を風に揺らす、若きエルフの弓使いだった。


彼女は静かな森に生まれ、木々の声を聞きながら育ち、ただ静かにその天命を全うするはずの存在だった。

けれど彼女は、いつも空を見上げていた。

他の同胞が大地の恵みに感謝を捧げている間も、
彼女の碧い瞳だけは、遥か高みの蒼を映していた。

「......どうして、あんなに高いの」

誰にも聞こえない声で彼女はそう呟いた。

もちろん、世界からの答えはない。
ただ、彼女の耳に響くのは、遠くの雲を割って響く、
鋼鉄の鳥が空を裂く金属質の轟音だけだった。

人間たちは、胸を張って言った。

「空は神の手から解放された」と。

だが、森に生きるエルフたちは知っていた。

それは解放などではない。ただの野蛮な侵略だ。

なぜなら、その鋼鉄の鳥たちは、ただ飛ぶために作られたのではなかったからだ。

作者メッセージ

次回もゆったりあげていきます。

2026/07/27 09:04

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