そろそろ帰ろうか、と本を閉じた時、隣の机に置かれた紙が嫌でも目に入った。
仮入部届。
ろくに体育館でも宣伝できず、ましてや外にブースさえ無かったのに、女の子2人の新入生はこの教室にわざわざ来て、この紙を置いていった。どうして彼女たちは入ろうとしているんだろう。昔いた男子達のように、入るだけ入って荒らしてやめる、ほぼ幽霊部員で変にキープし続ける。そんな風にされるのではないか、と不安と疑惑をどうしても感じてしまう。
…にしては適当に出しに来た感じ、しなかったんだよなぁ…。
ふと外を見ると、少し雨が降り始めていた。
…あの子たち、傘あるかなぁ…。
出しに来てくれたのに、本を読んでいて適当に対応してしまったのは自分だな、と少し反省する。
小声でお願いしますと言えた、あの子たちの方が、よっぽど礼儀正しいだろう。
リュックを背負って教室の外に出る。
外は天気雨のようで、傘を差そうとした時にはすでに晴れていた。
外の自販機でおやつを買おうとしていた男友達3人が見え、手を振る。
彼らも気づいたように手を振り返し、こっちに一人が走ってやってきた。
「な、灯彩、お前こんな遅くまで何してたん?
やっぱ本か?」
「あぁ、別に話すような人もいないしな。」
「ひでーな、お前俺らと、いや、同学年なら誰とでも仲いいじゃねーかよ〜」
ケラケラと楽しそうに笑う友達に、少し苦笑いして返す。
「そんなことないよ。」
謙遜じゃなくて事実だ。
あまり強く自分の意見や、わがままを、僕はこの学校で言ったことがない。
皆にはそれが*優しい*、で定着しているんだろう。
だから分からない。もしわがままを言ったら、皆から離れられてしまいそうで。
特段いじめられたりするわけではないだろうけど、それでも印象がガラッと変わり、周りから浮くのが怖かった。
それに、いつも皆の方が辛そうに見えた。
失恋して、友達と喧嘩して、勉強で苦しんで、泣いてる人たちをたくさん見てきた。
だから、頼れなくなってしまった。
自分はまだマシ、いや頑張れる方なんだと思っていた。それはきっと事実だから。
どれだけ辛いことがあっても、自分より辛い人の方が多いんだから。
そうして、何されても泣けず、優しくされても無理をする、それなのに一人では何もできない蒼月灯彩は生まれたんだ。
「おい、どうしたんだよ。そんなぼーっとして。」
我に返って友達に向き直る。
「ごめん、考えごと。…じゃあそろそろ帰るね。」
「おう、気をつけて帰れよ?最近不審者がうちの学校周り多いらしいからさ。」
そうして三人と別れ、僕は一歩踏み出した。
最近皆仲良くしてくれていたから、一人で帰るのは結構久しぶりだ。
少し開放感を感じつつ学校から出ようとすると、バレー部の近藤さんに会った。
「ねぇ!新入生の孤桜さんと萃香さんって知ってる?」
「孤桜さんと萃香さん…?」
分からない、と首を横に振ろうとした時、近藤さんは僕の手から新入生二人の仮入部届を華麗に奪い取った。
「え!?まさにこの二人のことだよ!?」
彼女が驚きと訝しさが混ざったような顔で見せてきた。そこには二人の名前が律儀に書いてあった。
「この二人、今日バレー部に出すって言ってたのに!」
「どういうつもりなのかしら…?」
怒りのボルテージが高まったようで、近藤さんは指をポキポキと鳴らし、必死に作り笑いをしている。
行き場のない感情を、どうにかしようとしているようだった。
…確かに近藤に絡まれてた新入生の女の子二人は今思えばいたが、まさか二人揃って他部活に…とは思えなかった。 多分…。
「…出す教室間違えたんだよ、きっと」
考えられる中で一番正しそうな答えを出す。
「そうだといいんだけど…。」
はぁっ、と彼女は腹の奥からため息をついた。
「…だとしたらなんでわざわざ書道部になんて出しに行くのかしらねぇ…。」
彼女の言葉に、鋭利なモノが心臓に突き刺さったように感じ、その場で固まってしまった。
彼女は悪意なく言ったということが分かるからこそ、逆に心にきた。
書道部は…確かに影のような存在だから。
仮入部届。
ろくに体育館でも宣伝できず、ましてや外にブースさえ無かったのに、女の子2人の新入生はこの教室にわざわざ来て、この紙を置いていった。どうして彼女たちは入ろうとしているんだろう。昔いた男子達のように、入るだけ入って荒らしてやめる、ほぼ幽霊部員で変にキープし続ける。そんな風にされるのではないか、と不安と疑惑をどうしても感じてしまう。
…にしては適当に出しに来た感じ、しなかったんだよなぁ…。
ふと外を見ると、少し雨が降り始めていた。
…あの子たち、傘あるかなぁ…。
出しに来てくれたのに、本を読んでいて適当に対応してしまったのは自分だな、と少し反省する。
小声でお願いしますと言えた、あの子たちの方が、よっぽど礼儀正しいだろう。
リュックを背負って教室の外に出る。
外は天気雨のようで、傘を差そうとした時にはすでに晴れていた。
外の自販機でおやつを買おうとしていた男友達3人が見え、手を振る。
彼らも気づいたように手を振り返し、こっちに一人が走ってやってきた。
「な、灯彩、お前こんな遅くまで何してたん?
やっぱ本か?」
「あぁ、別に話すような人もいないしな。」
「ひでーな、お前俺らと、いや、同学年なら誰とでも仲いいじゃねーかよ〜」
ケラケラと楽しそうに笑う友達に、少し苦笑いして返す。
「そんなことないよ。」
謙遜じゃなくて事実だ。
あまり強く自分の意見や、わがままを、僕はこの学校で言ったことがない。
皆にはそれが*優しい*、で定着しているんだろう。
だから分からない。もしわがままを言ったら、皆から離れられてしまいそうで。
特段いじめられたりするわけではないだろうけど、それでも印象がガラッと変わり、周りから浮くのが怖かった。
それに、いつも皆の方が辛そうに見えた。
失恋して、友達と喧嘩して、勉強で苦しんで、泣いてる人たちをたくさん見てきた。
だから、頼れなくなってしまった。
自分はまだマシ、いや頑張れる方なんだと思っていた。それはきっと事実だから。
どれだけ辛いことがあっても、自分より辛い人の方が多いんだから。
そうして、何されても泣けず、優しくされても無理をする、それなのに一人では何もできない蒼月灯彩は生まれたんだ。
「おい、どうしたんだよ。そんなぼーっとして。」
我に返って友達に向き直る。
「ごめん、考えごと。…じゃあそろそろ帰るね。」
「おう、気をつけて帰れよ?最近不審者がうちの学校周り多いらしいからさ。」
そうして三人と別れ、僕は一歩踏み出した。
最近皆仲良くしてくれていたから、一人で帰るのは結構久しぶりだ。
少し開放感を感じつつ学校から出ようとすると、バレー部の近藤さんに会った。
「ねぇ!新入生の孤桜さんと萃香さんって知ってる?」
「孤桜さんと萃香さん…?」
分からない、と首を横に振ろうとした時、近藤さんは僕の手から新入生二人の仮入部届を華麗に奪い取った。
「え!?まさにこの二人のことだよ!?」
彼女が驚きと訝しさが混ざったような顔で見せてきた。そこには二人の名前が律儀に書いてあった。
「この二人、今日バレー部に出すって言ってたのに!」
「どういうつもりなのかしら…?」
怒りのボルテージが高まったようで、近藤さんは指をポキポキと鳴らし、必死に作り笑いをしている。
行き場のない感情を、どうにかしようとしているようだった。
…確かに近藤に絡まれてた新入生の女の子二人は今思えばいたが、まさか二人揃って他部活に…とは思えなかった。 多分…。
「…出す教室間違えたんだよ、きっと」
考えられる中で一番正しそうな答えを出す。
「そうだといいんだけど…。」
はぁっ、と彼女は腹の奥からため息をついた。
「…だとしたらなんでわざわざ書道部になんて出しに行くのかしらねぇ…。」
彼女の言葉に、鋭利なモノが心臓に突き刺さったように感じ、その場で固まってしまった。
彼女は悪意なく言ったということが分かるからこそ、逆に心にきた。
書道部は…確かに影のような存在だから。