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愛傷

#3

3章 莉璃

後ろから段々音が近づいてきた。
特に誰とも登校していない私からすれば、少しの恐怖さえ覚える。
「おはよう!」
振り返る前に先に肩に手を置かれ、萃香さんに笑いかけられた。
彼女はそのまま私の隣に来て話し始める。
「いやー、あの後やっぱ逃れられなくてさ。
今日仮入部届を担任の先生からもらえるんだっけ?」
「うん、そうだと思うよ。」
「あ、そういえば、孤桜さんの分も名簿に書いちゃったんだ。」
えっ。
「ほんとにごめん、私一人じゃ入れなくて。あの圧に耐えれないから…。」
余計なことしないでくれる?
そう言いたいけど無理やり飲み込んで、「わ、分かった。」とぎこちなく笑った。
一緒に放課後、仮入部届は出しに行こうと約束して一旦靴箱に向かった。
学校生活が始まってから、あまり人と話そうとしない私に彼女は何かと話しかけてくれた。
移動教室も、登校も、休み時間も。
なぜそんなに私に優しくしてくれるのかは分からない。私と話しても特に得はないはずなのに。
だったら他の子と仲良くなる方が絶対いいはずなのに。
萃香さんのことだ、きっとどんな人とでも仲良くなれるのだろう。
…だから怖かった。
もし彼女がいじめを始めたとしたら。
多くの子は彼女に従って、皆でいじめるんだろう。
こんな私にでも話しかけてくれる彼女のことだから、そんなことありえないとは分かっていたものの、重りのようにズシッと乗ってきた気がした。
靴を履き替えて、教室へと階段を登っていると、萃香さんが色々話してくれた。
ここの七不思議の一つにあたるものが生徒内で昔から伝わってきていて、ある毛むくじゃらで真っ黒の化け物に、男女一組で話しかけると、
心から愛していなかった方を化け物が食べてしまう…という伝説とか、隣のクラスの花梨ちゃんが無自覚だろうけどもう何人もの男子のハートを掴んでいるだとか、今日は午後から強めの雨が降るらしいから傘忘れないように、だとか。
「高校生になると色んな人に会う機会が増えるみたいだから、孤桜さんも変な人に引っかからないようにね〜?」
そう言って笑う萃香さんはまるで鈴の音を奏でてるかのように可愛らしい笑い声だった。
そうして教室に着くと、担任の先生が既に教卓に仁王立ちしていたので、私たちは慌てて席に着いた。
「おい、遅いぞ日直。朝礼するぞ朝礼。」
…そういえば入学式の時に紹介されていたけど完全に忘れていた。
担任は佐田という名前だったような気がする。
他のクラスの先生より厳しく、先輩でさえもうんざりするらしい、当たりとは言い難い人…らしい。
キビキビと朝の挨拶を終わらせると、先生が皆に仮入部届を配り始めた。
「一緒に出しに行くんからね?」
「うん。」
その日の午前中は特に何事もなく終わり、帰りの時間となった。
萃香さんは胸を張って私に案内を申し出てくれた。
「あ、バレー部のとこ知ってるよ!こっち〜」
彼女についていくと、高校2年生、先輩の教室に着いた。
バレー部は女子と男子と2つあるのだが、まとめてバレー部なので、仮入部届を出すならば男女共に部長に出せばいいそうだ。
そこには、すらりと背の高く、顔立ちも整っていた男の先輩がいた。
本を読んでいた彼が私たちに気づいたように顔を上げる。
「ん、仮入部届?そこ置いといて。」
そう言うとまた下を向いて本を読み始めた。
結構雑な扱いをされたなぁと萃香さんと二人してお願いしますっと小さく言いながら仮入部届を置いた。
外は水たまりができないくらい、傘を差すか差さないかの、微妙な天気だった。
そのまま風のような勢いで二人して靴箱に行きローファーに履き替える。
そして帰り道、傘を差しつつ話しながら歩いた。さっきの先輩のこと、佐田のこと…。
「楽しみだね〜、私昔からバレーしてたからさ、強豪校の桜ヶ丘に入れてホントに嬉しかったんだ。」
はにかんで笑う萃香さんから、意外なエピソードを聞けた。
彼女は運動をあまりしない私から見ても色白で、丸っこい顔立ちをしていたので、てっきりインドア派なのかと思っていたのだが…。
趣味も性格もアウトドアなのか。
「孤桜さんは何してたとかある?」
「わ、私?」
私に話を振られても困る。
小学生時代、幼稚園時代はあまり思い出したくないことの方が多いから。
それでも、強いていうなら…
「うーん…授業中暇なときは、ずっと五十音をノートにできる限りきれいに書くとかしてたなぁ。」
だからか私の人から言われたことのある唯一の長所は*字が綺麗*、だった。
…あまり、自分の長所は人に言われないので、嬉しくて勝手に覚えてるだけなんだろうけど。
「へえ〜…。あ、ごめん、私こっちだ。じゃあね!」
萃香さんとは駅でお別れだ。
手を振って帰ろうとした時、目の前をあのすらりと美形な男の先輩が通り過ぎた。
他の友だちと笑いながら帰っている。そして、
ゆっくり歩いていたからか、後ろから中学生くらいの女の子たちが騒ぎながら私を抜いた。
…私も、あんなふうに話せたらよかったな。
そう思っていた私の体は、彼女達のスカートを見て一瞬にして凍りついた。
膝上までしかスカートがない。おそらく丈を自ら短くしているんだろう。
ゾッとしてとっさに周囲を確認した。
…昔の私のように、あの子たちが変態な大人に絡まれるのを防ぎたかったから。

2025/12/20 17:19

日村紡音
ID:≫ 0pm1lJ9rkqZW.
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