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愛傷

#1

1章 莉璃

高校生活が始まり、初めての始業の鐘が鳴る。
私はおずおずと自分の席に座った。周りを見渡すと、自分のように皆緊張してるようで、どことなく浮ついた雰囲気がしている。
手に汗が滲みつつも、入学式自体は無事に終えることができたが…。
この後も色々あるらしく、憂鬱になり、私は小さくため息をついた。
ここ、桜ヶ丘高校は非常に部活動での成果が良く、中でも人気のサッカー部やバレー部はなんと全国に行くぐらいの実力を持っていて、勉強のサポートも手厚く、最近話題になりつつある高校だ。
でも私は部活目的でここに来たわけではない。
とにかく知り合い、顔見知りの人がいないような地元から遠く、市をまたいだ所にある高校、すべてに合致したからだ。
…このあと部活動紹介があるらしく、校内放送で体育館に集合をかけられた。
見る前はあまり乗り気ではなかったのだが…。
正直、部活動紹介は圧巻の一言だった。
連続でスリーポイントシュートを入れる男子バスケ部。強烈なサーブで風船を割るテニス部。水素の大爆発を魅せる科学部…。
けれど、なぜかどれにも興味は引かれなかった。あまりしっくりこないまま、校庭で仮入部する部活を決める時間が始まった。
同じように体育館から校庭へと出ようとする人たちの中をかき分けて進み、外に出れたと思ったらとどめのように怒涛の勧誘攻めに遭う。
どの部活も圧が重く、疲れた私は、校庭を下った所にある外からは見えにくい教室を見つけた。少しドアが空いている。あそこで少し休息を取ろう、と私は転がり込むように入った。
今思えばこの時から運命は動き出していたんだろう。
誰もいないであろう教室に入った私は、最初、教室にいた男子に気が付かなかった。
息がある程度整い、落ち着いた私は、その時になって彼の存在に気づき、一瞬目を奪われた。
先客への驚きもあったが…彼のやっていることに目がいったのだ。
その男子は、私の知っている授業の書道の時のように、白紙を広げて筆を静かに構えていた。
私が思わず見ている間に筆が動き、墨が筆に纏わりつくようにゆっくり墨汁を吸わせ、白紙にのびのびと思うがまま書き始めた。私が目を見開いて固まっている短時間で、彼は「希望」と書かれた一つの作品を書き上げてしまった。
彼は私に背を向けて座っていたので、背の高さや顔つきはよくわからなかったが、文字の達筆さと筆の動かし方から、完全に次元が違う人だと悟った。きっと私とは話すことのない、そういう人なんだろうと。
私はゆっくりと彼に気づかれないように教室から出ようとしたが、古かったドアのせいか、閉めようとしたとき思ったより大きな音がして、彼にバレると急いで校庭へと戻らなくてはいけなかった。
結局、部活動紹介でどれにも惹かれなかった私は、やや強引な勧誘を受けても仮入部する気にはなれなかった。そうして仮入部して何人かは帰っている中、校庭をブラブラしていた私に、一人の女子が親しげに声を掛けてきた。
「やっほー!ねぇ、孤桜さんはもう何の部活に入るか決まった?」
私は無言で首を横に振った。
声を掛けてきた彼女は、一番初めの入学式の時、出席番号が前後だったので少し話した程度なのだが…彼女はなぜか私に親しげに話しかけてくれる。確か…萃香さん、だ。
私がどの部活にもまだ入っていないと知り、彼女は顔を輝かせた。
「ほんと!?ならさ、一緒に書道部入らない?」…書道部…?
「なんか書道部があるって学校ホームページで見たのにさ、校庭に書道部の人たちが見当たらなくて。」
…心当たりしかない。
「知ってたりする?」
私はその時、やっと我に返って返事をする。
「あ、確かそこの教室にそんな感じの人がいたような…」
「じゃあ一緒に行こうよ!」「ええっ?」
戸惑う私をよそに、彼女、萃香さんは満面の笑みで私の手を引き、教室へと軽い足取りで向かい始めた。
が…「そこの二人!どう?バレー部入ってみない!?」
二人して部活のチラシを持っていないことをいいことに、背も高く、ガタイもいい女の先輩に話しかけられた。
口元は緩んでいるが、目がギラギラと光っていて重圧を感じる。
「特に君!」
萃香さんがビシッと指をさされた。
「背も高いし、絶対活躍できるようになるよ!
運動は好き?」
ここぞとばかりに口早に詰め寄られ、流石の萃香さんも困惑したように答える。
「え、えっと…好きですけど、私たち書道部に…」
「よし!ならバレー部に入ろう!こっちだよ」
バレー部の仮入部場所に困惑したまま連れて行かれた萃香さん。
書道部に行こうとしてて…と言い出せるはずもなく、私だけその場に一人残された。
本来、仮入部届をまだもらってない私たちは、
入りたい部の名簿に自分の名前を書くと向こうで名前が登録され、仮入部判定になるのだが…
さっきの書道部らしき男子は、校庭ではなく教室にいたので、きっとその名簿すらもないだろう。
そもそも彼が書道部という確信もない。
あの異様な所に一緒に来てくれそうな唯一の知り合いを呼び止めることもできずに失った私は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「…帰ろう。」
スクールバッグを背負い直し、靴箱に向かいローファーに履き替える。
きっとあのままいたらどこかの部活に必死な勧誘を受けるのだろう。それならば、早くあの張り付いた笑顔のブースからできるだけ遠ざかりたかった。
こうして、高校生活1日目は終わった。

2025/12/19 20:55

日村紡音
ID:≫ 0pm1lJ9rkqZW.
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