家までの道のりをどうやって帰ったのか覚えていない。
気が付いたら、玄関の前で止まっていた。
鍵はかかっていない。
いつもなら必ずついている玄関の灯りも、今日はついていない。
静まり返った冷たい家の空気が、心までも冷やしてしまう。
「お母さん…?」
返事はない。ただ、遠くの部屋から息の音が聞こえた。
私は靴を脱ぎ捨てるようにして、その部屋のドアを開けた。
リビングのソファに母が座っていた。
テレビはついているのに、画面を見ていない。
ただ、俯いてスマホを固く握りしめていた。
「…妃薇が、どうなったのか…聞いた?」
泣いている気配はないのに、母の声はかすれていた。
私は喉が詰まり、うまく話せなかった。
何度も唇を動かして、やっと一言だけ零れた。
「…うん。」
母はゆっくりと顔を上げた。
私を見る目は、赤くも濡れてもいないのに、光が消えていた。
「事故だって…言われたのね。」
「…うん。でも…。」
私は言葉を探した。けれど、胸の奥に引っかかっている違和感は形にはならなかった。
「でも…なんか、変だった気がして…。」
私が言いかけると、母の指がピクリと震えた。
「妃瀰。」
私の名前を呼ぶ声はどこか、壊れかけていた。
「今日は…もう休みなさい。」
「でも、お母さん——」
「休みなさい!」
突然叩きつけるような声に、肩が跳ねた。
そしてぽつりと、本当に小さく、隠しきれない本音がこぼれた。
「…だからアイドルなんて…ならなければよかったのよ…。」
私は一瞬、呼吸を忘れた。
母はすぐに口元を押さえた。自分が言った言葉を消そうとするように。
だけどもう遅かった。
「どうして、そんなこと言うの…?」
母は視線を落としたまま硬く言った。
「ごめんなさい。ただ…今日はもう…。」
逃げるように閉ざされたその言葉に、私は触れてはいけない何かを感じた。
何も言えないまま部屋に戻ると、胸がきゅう、と苦しくなった。
どうして。お姉の夢だったのに。なのにお母さんは…。
涙が枕に落ち、じっくりと広がっていった。
気が付いたら、玄関の前で止まっていた。
鍵はかかっていない。
いつもなら必ずついている玄関の灯りも、今日はついていない。
静まり返った冷たい家の空気が、心までも冷やしてしまう。
「お母さん…?」
返事はない。ただ、遠くの部屋から息の音が聞こえた。
私は靴を脱ぎ捨てるようにして、その部屋のドアを開けた。
リビングのソファに母が座っていた。
テレビはついているのに、画面を見ていない。
ただ、俯いてスマホを固く握りしめていた。
「…妃薇が、どうなったのか…聞いた?」
泣いている気配はないのに、母の声はかすれていた。
私は喉が詰まり、うまく話せなかった。
何度も唇を動かして、やっと一言だけ零れた。
「…うん。」
母はゆっくりと顔を上げた。
私を見る目は、赤くも濡れてもいないのに、光が消えていた。
「事故だって…言われたのね。」
「…うん。でも…。」
私は言葉を探した。けれど、胸の奥に引っかかっている違和感は形にはならなかった。
「でも…なんか、変だった気がして…。」
私が言いかけると、母の指がピクリと震えた。
「妃瀰。」
私の名前を呼ぶ声はどこか、壊れかけていた。
「今日は…もう休みなさい。」
「でも、お母さん——」
「休みなさい!」
突然叩きつけるような声に、肩が跳ねた。
そしてぽつりと、本当に小さく、隠しきれない本音がこぼれた。
「…だからアイドルなんて…ならなければよかったのよ…。」
私は一瞬、呼吸を忘れた。
母はすぐに口元を押さえた。自分が言った言葉を消そうとするように。
だけどもう遅かった。
「どうして、そんなこと言うの…?」
母は視線を落としたまま硬く言った。
「ごめんなさい。ただ…今日はもう…。」
逃げるように閉ざされたその言葉に、私は触れてはいけない何かを感じた。
何も言えないまま部屋に戻ると、胸がきゅう、と苦しくなった。
どうして。お姉の夢だったのに。なのにお母さんは…。
涙が枕に落ち、じっくりと広がっていった。