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人造人形
#1
第一章「黎明」
[大文字]第一節 千度目の冬[/大文字]
凍てつく寒さの中、彷徨っている
風は鞭のように鋭い声を出しながら身体中を打ちつける
痛みはない そもそも感覚が…もう
雪に足を取られて思うように進めない
悴む手を握りしめてただただ歩く
行き着く場所なんてない それでも進まなくては
止まってはいけないと何かが言っている
[水平線]
ふと、生きる意味を問うたことがあった
人形らしくない、変な疑問だ
いつもなら考えることをやめたのだけれど
この寒さのせいだろうか 中で燻る熱が判断を鈍らせている
師匠は、少し驚いたのか目を見開いた 澄んだ青空のようなその瞳が朝日に照らされ、恒星の如く煌めいていた
それから彼は暫く考えるように目を伏せて 言った
「………いつかレイにもわかる日が来るさ それまでゆっくり考えようじゃないか」
その憂いを帯びた眼差しが、酷く心を締め付けた
心といっても、機能の一つで ただのプログラムで
師匠の気まぐれで造られたレイには必要のない物のはずだった
レイには、理解できません
なぜあなたは死んでしまったのですか
どうしてレイは、あなたと同じ場所へはいけないのですか
なぜレイに“心”を与えたのですか
苦しいだけなら、こんなもの、捨ててしまえばいいのです
あぁ、あの空はもっと蒼かった
あなたの瞳のように
もう一度だけでいいのです
その天色をレイに魅せてはくれませんか
[水平線]
今日もひとり、ベットの上で朝を迎えた
痛いくらいに眩しい光線に目を細める
ふと窓を覗けば氷柱が垂れ下がり、こちらに刃を向けていた
あぁ、厚く沈んだ雲の向こうに あなたはいるのでしょうか
あなたがいなくなってから、千度目の冬が来ました
レイにはまだ 生きる意味がわかりません
[大文字]第二節 後悔の渦[/大文字]
「はっはっはぁ…、 っ」
翠の絨毯の敷かれた廊下を進んでいく
壁に体を押しつけて何とか立っているような状況だ
苦しい、苦しい 大した距離じゃないはずなのに、身体が重い
早く師匠のところに行かなくては 動け、動け動け!
ギュウっと目を瞑る 拳に力を込める
止まっている暇はないのですよ、レイ
あ 視界が大きく崩れる しくじった
「ーーーーーーーー」
あぁ、意識が飛ぶ前に発した言葉は届いたでしょうか
ガシャン!!
[水平線]
大きい破損音と微かな悲鳴
何だ 何があった? 音のした方へと駆けていく
「…レイ、?]
工房に繋がる長い廊下の曲がり角に愛弟子が倒れていた
よほど派手に転んだのだろう 両腕右足、頭部一部破損
全く、無理はするなとあれほど言ったのに
また不調を隠していたのか
はぁ、とため息をついて応急処置をする
文句を垂れていてもしょうがない
レイがいなくては満足に動けないのだから
腰に下げていた工具ベルトを外し、その場に広げる
細かい破片は袋にまとめて口を閉めておく
ヒビが入った部位は包帯を巻きつけ一時的に固定をする
チラリとみただけだが内部も相当傷んでいるようだ
これは後でお説教だと苦笑しつつレイを優しく抱き上げた
そのまま工房まで運んでいき、机の上にそっと乗せる
あー疲れた 額の滲んだ汗を拭って一息つく
材質は主に木材や金属なのでそれなりに重たい
何よりこの体 何の病か知らないがとてつもなく疲れやすい
残った体力から考えて後3時間が限界だろう
まぁ 集中すればこんなのすぐ終わる
戸棚の奥から工具箱と予備の部品を取りにいく
こじんまりとした部屋だが、壁も床も収納庫になっている
予備の部品は確か…、ここの床板の下だ
トントンと2回ほどそこを踏む
ガチャリと音がして床板がズレた こういうカラクリは得意で、家中に仕掛けている 手入れはめんどくさいがそれこそが浪漫だ
誰に何を言われようとやめるつもりはない
必要なものを揃えて作業台へ戻った
軽く揺すってもレイは微動だにしない
久々に腕がなる壊れっぷりだな
ふっ
自然に口角が上がる そう、この時が一番楽しいんだ
[さ、始めようか]
[水平線]
カチカチカチ…
歯車のはまる音が心地良い だんだんと自分ができていくのがわかる
泥沼の中から一筋の光が見えた 気がした
「せんせ…い、」
安心したくて呼んだ 何となくそこに気配を感じるから
あれ…でも、返事がない 師匠?
ゆっくりと目を開ける だって怖かった もしそこにいなかったら…?
「え」
師匠はいた いたけれど、ものすごく不機嫌で
今までにないくらいの悲しい顔をされた
「師匠…ご、ごめんなさい レイは…その」
言葉に詰まる なんて言えばいいんだろう これ、完全に怒ってる レイのせいで
[言い訳なら聞かない 反省してるならいいんだよ]
とぶっきらぼうに答えた 拗ねた子供のような声に、驚いて顔をあげる
師匠はもういつもの師匠に戻っていた
何惚けた顔してんだ と笑いながらレイを揶揄った
それから頭をくしゃくしゃと撫でて、気絶するように眠ってしまった
[水平線]
あぁ、随分と長い夢をみていた
何でだろう うまく思い出せないのに
涙が止まらない いいやそんなことより早く作業を終わらせなければ
己を叱咤し作業台へ向き合う
その傷一つ一つに師匠との思い出が詰まっている
あぁ違う違う 無駄なことを考えるな 手を動かせ
「うぅ」
溢れ出す感情に流されて そのまま蹲ってしまった
師匠、ごめんなさい ここに立っているとあなたを思い出してしまう
あなたの声を温もりを求めてしまう ごめんなさい、ごめんなさい
レイはあなたを救えなかったのです あなたを忘れようとしたのです
本当にダメな弟子だと叱ってください そうでなければ、レイは、壊れてしまいます
[大文字]第三節 繋ぐ刻[/大文字]
[…っレイ レイ、もうやめるんだ]
ずっと動かし続けていた腕に窶れた手が重なる
じんわりと広がる熱が温かい
「嫌です! 絶対に絶対に師匠を死なせたりしませんっ レイはずっと師匠といたいんです!、」
だってまだ、師匠は生きている こんなに温かい手で、穏やかな眼で
なのにやめろだなんて ひどい
師匠は苦しそうに顔を歪めてレイを諭す
[レイ、聞いてくれ もう本当に最期なんだ 僕は人間 君は人形 同じ時間軸では生きれないんだ
僕には寿命がある いつかは死ぬ それは生まれた時から決まっていたことなんだ
だから君がどんなに抵抗しても 僕の運命は変わらない でも君は? 君には永遠の身体がある
僕が造った最高の器だ 修復さえ怠らなければずっと動き続ける
僕が死んでも君が僕を忘れない限り僕は死なないよ 君の中で、永遠の君と永遠の命を繋ぐんだ
だからさ、もういいよ もういいんだよ]
「いいえっ…何も良くありません! レイにならできるはずです やってみせます!
あなたの運命を変えさせてください!!レイは、あなたのために造られた人形です!
人に造られし人を模した自立式絡繰機械 人造人形、黎明です!!
それにレイにはまだ生きる意味がわかりませんっ 教えてください!
どうにか生きて、いつかレイに生きた意味を示してください!!」
師匠は黙って、困ったように笑った
[レイ、生きたいように生きろ 君は、人形なんかじゃない 君は、君自身をもっと大切にするべきだよ]
言っている意味が、わかりません
レイは、人形 レイは、師匠を支えるのが役目 レイは、 レイは…
「せんせ…い」
[うん、]
あれ、何で まだ言いたいことが まだ、納得できてないのに
声が出ない 滲んで何も見えない 師匠、師匠 レイは…
「せんっせぇ…」
[うん…レイ わかってるよ]
「れ…ぁ んせがっ らい、ぅきで うぅああああ」
[打消し]師匠が大好きなんです[/打消し] そう言ったはずだった
ちゃんと伝わっただろうか、と、涙を拭って師匠の方を見た
師匠は笑ったまま それきり動かなくなってしまった
[水平線]
何を、泣いている 繋ぐと決めたんだろう 思い出せ
師匠はどんな風に工具を滑らせた?
どうやって難解なパズルを組み立てた?
泣いている場合かっ 師匠が残した物を受け継ぐんだ 意思を 願いを この人形を
カチカチカチ… カチャリ
数百年だ 思ったよりも時間がかかってしまったな あぁでもみてください師匠
これが、あなたが完成させるはずだった人形ですよ
思い通りになっているでしょうか どこか不足部はありますか? 教えてください
レイにはもう、正解なんてものはわからなくなってしまいました
「起きてください」
『……?』
人形は 何度か瞬きをして、首を傾げた
あぁよかった ちゃんとこちらに反応する
初めてのことだから不安だったけれど…今の所不具合はないみたい
ただ純粋に、嬉しい 師匠もこのような気持ちだったのでしょうか
かつて師匠がレイにしたように、レイもその人形に笑顔を向けた
「はい、あなたですよ、日中」
『ひ、なか ひな、か……?』
日中、日中と自分の名前を繰り返すのがとても愛おしい
自立式絡繰機械 人造人形、日中
その名の通り、真昼の様な明るい人形になってくださいね
凍てつく寒さの中、彷徨っている
風は鞭のように鋭い声を出しながら身体中を打ちつける
痛みはない そもそも感覚が…もう
雪に足を取られて思うように進めない
悴む手を握りしめてただただ歩く
行き着く場所なんてない それでも進まなくては
止まってはいけないと何かが言っている
[水平線]
ふと、生きる意味を問うたことがあった
人形らしくない、変な疑問だ
いつもなら考えることをやめたのだけれど
この寒さのせいだろうか 中で燻る熱が判断を鈍らせている
師匠は、少し驚いたのか目を見開いた 澄んだ青空のようなその瞳が朝日に照らされ、恒星の如く煌めいていた
それから彼は暫く考えるように目を伏せて 言った
「………いつかレイにもわかる日が来るさ それまでゆっくり考えようじゃないか」
その憂いを帯びた眼差しが、酷く心を締め付けた
心といっても、機能の一つで ただのプログラムで
師匠の気まぐれで造られたレイには必要のない物のはずだった
レイには、理解できません
なぜあなたは死んでしまったのですか
どうしてレイは、あなたと同じ場所へはいけないのですか
なぜレイに“心”を与えたのですか
苦しいだけなら、こんなもの、捨ててしまえばいいのです
あぁ、あの空はもっと蒼かった
あなたの瞳のように
もう一度だけでいいのです
その天色をレイに魅せてはくれませんか
[水平線]
今日もひとり、ベットの上で朝を迎えた
痛いくらいに眩しい光線に目を細める
ふと窓を覗けば氷柱が垂れ下がり、こちらに刃を向けていた
あぁ、厚く沈んだ雲の向こうに あなたはいるのでしょうか
あなたがいなくなってから、千度目の冬が来ました
レイにはまだ 生きる意味がわかりません
[大文字]第二節 後悔の渦[/大文字]
「はっはっはぁ…、 っ」
翠の絨毯の敷かれた廊下を進んでいく
壁に体を押しつけて何とか立っているような状況だ
苦しい、苦しい 大した距離じゃないはずなのに、身体が重い
早く師匠のところに行かなくては 動け、動け動け!
ギュウっと目を瞑る 拳に力を込める
止まっている暇はないのですよ、レイ
あ 視界が大きく崩れる しくじった
「ーーーーーーーー」
あぁ、意識が飛ぶ前に発した言葉は届いたでしょうか
ガシャン!!
[水平線]
大きい破損音と微かな悲鳴
何だ 何があった? 音のした方へと駆けていく
「…レイ、?]
工房に繋がる長い廊下の曲がり角に愛弟子が倒れていた
よほど派手に転んだのだろう 両腕右足、頭部一部破損
全く、無理はするなとあれほど言ったのに
また不調を隠していたのか
はぁ、とため息をついて応急処置をする
文句を垂れていてもしょうがない
レイがいなくては満足に動けないのだから
腰に下げていた工具ベルトを外し、その場に広げる
細かい破片は袋にまとめて口を閉めておく
ヒビが入った部位は包帯を巻きつけ一時的に固定をする
チラリとみただけだが内部も相当傷んでいるようだ
これは後でお説教だと苦笑しつつレイを優しく抱き上げた
そのまま工房まで運んでいき、机の上にそっと乗せる
あー疲れた 額の滲んだ汗を拭って一息つく
材質は主に木材や金属なのでそれなりに重たい
何よりこの体 何の病か知らないがとてつもなく疲れやすい
残った体力から考えて後3時間が限界だろう
まぁ 集中すればこんなのすぐ終わる
戸棚の奥から工具箱と予備の部品を取りにいく
こじんまりとした部屋だが、壁も床も収納庫になっている
予備の部品は確か…、ここの床板の下だ
トントンと2回ほどそこを踏む
ガチャリと音がして床板がズレた こういうカラクリは得意で、家中に仕掛けている 手入れはめんどくさいがそれこそが浪漫だ
誰に何を言われようとやめるつもりはない
必要なものを揃えて作業台へ戻った
軽く揺すってもレイは微動だにしない
久々に腕がなる壊れっぷりだな
ふっ
自然に口角が上がる そう、この時が一番楽しいんだ
[さ、始めようか]
[水平線]
カチカチカチ…
歯車のはまる音が心地良い だんだんと自分ができていくのがわかる
泥沼の中から一筋の光が見えた 気がした
「せんせ…い、」
安心したくて呼んだ 何となくそこに気配を感じるから
あれ…でも、返事がない 師匠?
ゆっくりと目を開ける だって怖かった もしそこにいなかったら…?
「え」
師匠はいた いたけれど、ものすごく不機嫌で
今までにないくらいの悲しい顔をされた
「師匠…ご、ごめんなさい レイは…その」
言葉に詰まる なんて言えばいいんだろう これ、完全に怒ってる レイのせいで
[言い訳なら聞かない 反省してるならいいんだよ]
とぶっきらぼうに答えた 拗ねた子供のような声に、驚いて顔をあげる
師匠はもういつもの師匠に戻っていた
何惚けた顔してんだ と笑いながらレイを揶揄った
それから頭をくしゃくしゃと撫でて、気絶するように眠ってしまった
[水平線]
あぁ、随分と長い夢をみていた
何でだろう うまく思い出せないのに
涙が止まらない いいやそんなことより早く作業を終わらせなければ
己を叱咤し作業台へ向き合う
その傷一つ一つに師匠との思い出が詰まっている
あぁ違う違う 無駄なことを考えるな 手を動かせ
「うぅ」
溢れ出す感情に流されて そのまま蹲ってしまった
師匠、ごめんなさい ここに立っているとあなたを思い出してしまう
あなたの声を温もりを求めてしまう ごめんなさい、ごめんなさい
レイはあなたを救えなかったのです あなたを忘れようとしたのです
本当にダメな弟子だと叱ってください そうでなければ、レイは、壊れてしまいます
[大文字]第三節 繋ぐ刻[/大文字]
[…っレイ レイ、もうやめるんだ]
ずっと動かし続けていた腕に窶れた手が重なる
じんわりと広がる熱が温かい
「嫌です! 絶対に絶対に師匠を死なせたりしませんっ レイはずっと師匠といたいんです!、」
だってまだ、師匠は生きている こんなに温かい手で、穏やかな眼で
なのにやめろだなんて ひどい
師匠は苦しそうに顔を歪めてレイを諭す
[レイ、聞いてくれ もう本当に最期なんだ 僕は人間 君は人形 同じ時間軸では生きれないんだ
僕には寿命がある いつかは死ぬ それは生まれた時から決まっていたことなんだ
だから君がどんなに抵抗しても 僕の運命は変わらない でも君は? 君には永遠の身体がある
僕が造った最高の器だ 修復さえ怠らなければずっと動き続ける
僕が死んでも君が僕を忘れない限り僕は死なないよ 君の中で、永遠の君と永遠の命を繋ぐんだ
だからさ、もういいよ もういいんだよ]
「いいえっ…何も良くありません! レイにならできるはずです やってみせます!
あなたの運命を変えさせてください!!レイは、あなたのために造られた人形です!
人に造られし人を模した自立式絡繰機械 人造人形、黎明です!!
それにレイにはまだ生きる意味がわかりませんっ 教えてください!
どうにか生きて、いつかレイに生きた意味を示してください!!」
師匠は黙って、困ったように笑った
[レイ、生きたいように生きろ 君は、人形なんかじゃない 君は、君自身をもっと大切にするべきだよ]
言っている意味が、わかりません
レイは、人形 レイは、師匠を支えるのが役目 レイは、 レイは…
「せんせ…い」
[うん、]
あれ、何で まだ言いたいことが まだ、納得できてないのに
声が出ない 滲んで何も見えない 師匠、師匠 レイは…
「せんっせぇ…」
[うん…レイ わかってるよ]
「れ…ぁ んせがっ らい、ぅきで うぅああああ」
[打消し]師匠が大好きなんです[/打消し] そう言ったはずだった
ちゃんと伝わっただろうか、と、涙を拭って師匠の方を見た
師匠は笑ったまま それきり動かなくなってしまった
[水平線]
何を、泣いている 繋ぐと決めたんだろう 思い出せ
師匠はどんな風に工具を滑らせた?
どうやって難解なパズルを組み立てた?
泣いている場合かっ 師匠が残した物を受け継ぐんだ 意思を 願いを この人形を
カチカチカチ… カチャリ
数百年だ 思ったよりも時間がかかってしまったな あぁでもみてください師匠
これが、あなたが完成させるはずだった人形ですよ
思い通りになっているでしょうか どこか不足部はありますか? 教えてください
レイにはもう、正解なんてものはわからなくなってしまいました
「起きてください」
『……?』
人形は 何度か瞬きをして、首を傾げた
あぁよかった ちゃんとこちらに反応する
初めてのことだから不安だったけれど…今の所不具合はないみたい
ただ純粋に、嬉しい 師匠もこのような気持ちだったのでしょうか
かつて師匠がレイにしたように、レイもその人形に笑顔を向けた
「はい、あなたですよ、日中」
『ひ、なか ひな、か……?』
日中、日中と自分の名前を繰り返すのがとても愛おしい
自立式絡繰機械 人造人形、日中
その名の通り、真昼の様な明るい人形になってくださいね